【引きこもりガイドライン暫定版の個人的要約】2003. 3/26


  世の中には、専門家が集まって、引きこもりのガイドラインづくりをやっている
 研究班が存在する(国立精神・神経センター精神保健研究所)。
 今回、この研究班のメンバーとおぼしきドクターの手になる、
 「十代・二十代を中心とした『社会的ひきこもり』をめぐる地域精神保健活動の
 ガイドライン暫定版」なるものが雑誌に紹介されていたので、その概略をシロクマ
 なりにまとめてみた。もちろん、こんなにいい加減な私の感想なので、
 ちゃんとしていない事は承知した上で読んで欲しい。

 そもそも良書の要約は愚劣なものだそうなので、興味のある人は原文をどうぞ。

 精神医学・45(3):293-297,2003
 ガイドラインはこちら↓
 http://www.ncnp-k.go.jp/division/rehab/index.htm




 ☆ガイドラインの六つの基本姿勢の要約・シロクマ版

 1.このガイドラインは、精神保健福祉センター・保健所・市町村など、地域
   の相談機関で相談が受け付けられるようにする為のツールとして存在する。

  ひきこもりの多くは、本人からというより家族相談がメインで、しかも慢性的に
 続いている困難状態なので非常にアプローチが難しい。そのうえ家族が
 長期間支援していても、どう解決への方針をうち立てるのかが曖昧で決めにくく、
 しかも万が一暴力行為などがあった時に、精神科側が法的強制力を発動出来る
 か否かも曖昧である。
  これでは、ものすごく相談を円滑にやりづらい(相談をする側も受ける側も)。
 何とか少しでもお互いに対処しやすくする為、このガイドラインは作成された。


 2.「社会的ひきこもり」は疾患単位ではなく、あくまで一つの対処行動であり、
   その内実は多種多様である。

  これだけヒッキーが増えると、ヒッキーはどれも似たようなヒッキーだと
 思ってしまうだろうが、そんな事は無い。総じて人格障害タイプだと誤解され
 がちだが、「社会的引きこもり」を呈する者の一部には、精神科的に何らかの
 病気などに該当しうる人もいる。アスペルガー症候群とか、強迫性障害とか、
 PTSDとか、統合失調症とかも混じっている。
 こういう鑑別診断もつかない状態で相談を受けるのは、かなり難しいわけで、
 もちろん援助も難しい。このガイドラインが、何かの役に立てば。

 ※「あくまで一つの対処行動」という所は、このサイトらしく表現するなら
 「適応形態」って事になるような感想を持ちました。


 3.まず家族をクライアントと考えて、その支援に徹する姿勢を維持する。
 その中で、家族の継続相談が可能になること・家族の態度変容が可能に
 なる事を心がける。

  まず、家族の厳しさを少しでも軽くする為に頭をひねる。家族支援とか
 家族のエンパワメントを大切に。原因探しや因果探しを今更するよりも、
 「問題を抱えながらも日々の生活が成り立っていくのを応援する姿勢」
 を重視。あと、家族が一カ所だけの相談で何とかやっていくのは難しいので、
 様々な機関の連携が望ましいだろう。

 ※このような戦略は「システム論的家族療法」が背景の発想としてあるようだ。
  そういや、斉藤環先生の、ヒッキー対処も「家族相談」→「個別治療」→
 「集団適応」となっていたはず。


 4.本人との接触は「介入」よりも、まずは関係づくり。

  ヒッキーは対人接触が苦手だ。まずは、援助者は彼(彼女)と仲良くなるのが
 先決。そうしなきゃなんともならない。ゆっくりゆっくり。援助者は焦らず慌てず。
 また、本人に対して肯定的で穏やかな捉え方をするのが大切。
  そして、本人の変化への動機が、今後の変化の鍵を握る。
 どうなりたいかという本人の希望に添う形で、具体的で実現可能な方針を
 作る事がポイントとなるらしい。その前提として、「今までがんばってきた事」が
 浮き彫りにされる事が望ましい。何かをヒッキーに提案する時も、試行錯誤の
 余地を残したような選択肢の呈示が望ましい。

 ※「今まで頑張ってきた事」が浮き彫りに出来るケース、ってのはいいなぁ。
  そうするのが難しいケースも、時々あるからね。


 5.地域精神保健においては、まずは本人や家族が集える場、居場所となる場、
 リハビリテーションの場の存在が重要である。

  現在の需要供給バランスから言って、ヒッキー全てに福祉やカウンセリング
 ・治療などをたっぷり満足に施すなど不可能だ。それよりも、非精神病圏の
 ヒッキーなどに向いた新たなグループ活動(万能ではないにせよ)が望ましい。


 6.危機介入的な対応

  まれに、ヒッキーの暴力・他害などの問題がある事もある。家族が暴力の被害
 になる状況もあり、避難が必要な事もある(その場合も、ヒッキー本人が
 見捨てられないような工夫は必要だそうだ)。また、他害の恐れがあるときは、
 警察の介入も必要かもしれない。どうあれ、危機的な状況下で家族が孤立
 しないよう、応対する事が重要だとの事だ。
  なお、ヒッキーが自傷他害の恐れがあるってだけで、精神保健福祉法等の
 強制入院を適用する事は出来ない‥‥精神症状が明らかでない場合は。
 また、ヒッキーの場合、判断能力・責任能力が失われている場合は決して
 多くない。
  社会的引きこもりの場合、引きこもる事で自らの自己決定に必要な情報を
 遠ざけてしまって、それで自己決定が出来ない場合もある。そういう時は、
 彼らが自己決定できるように、情報提供などをしていく。




  以上が、シロクマが原文から感じ取った内容だ。
 こういう風にやっていくのが望ましいとの事である。
 原理的には、ここに書いてある事には反対する気は無い。むしろその通りだ。
 また、当サイトで書き散らしている滅茶苦茶と、真っ向からぶつかる点も
 みられない。ガイドラインなんだから、普遍性の高い文章にしなければならない
 という要請も、クリアしているように見える。今後さらに洗練されていく事を
 切に願う。

  オタクであれヒッキーであれ何であれ、コミュニケーションスキルを再建
 するには、外に出なければ難しい。ヒッキーの場合は、通常のオタクよりも
 色んな意味でさらに情勢が厳しいわけだろうから、意志がどうとか勇気がどう
 とか言っている場合では無いのだろう。ゆるゆると、手のつけられる所から
 つけていくというこのガイドラインの方針は、見る人によっては無責任なもの
 のように見えたり生ぬるく見えるかもしれない。が、それだけヒッキーを巡る
 状況が追いつめられたものである事も、反映しているように思える。
  家族が精神科に相談に来るような引きこもりの多くは、当サイトnerd study
 ように、自分の力でオタクが這い上がる方法や適応技術など全く不可能な
 状況に追いつめられていることだろう。受診・相談を受ける限りでは、
 生半可な「侮蔑されやすいオタク」とは次元が違う印象を受ける事が多い。

  しかし一方で、クズとはいえこういうサイトをやっている身上、どうしても
 思ってしまう事もある。
 ヒッキーはこうやって研究され、社会支援がスタートしている。
 だがしかし!
 このサイトのnerd studyで扱うようなコミュニケーション下手なオタクには、
 社会支援はスタートされないし、これからも簡単にはスタートされないだろう。
 そもそも彼らの殆どは、仕事や就学は可能だし。
 ヒッキーとまではいかないオタクで、コミュニケーションスキルが低い事に頭を
 痛めている何十万ものオタク達は、社会的な支援無しで更正していくしか
 ないのだろうか。
 たぶんそうなのだろう。
 戦うしか、ない。




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