【ネット依存・ゲーム依存関連論文のアブストラクト1】2004.8/4
インターネット依存やゲーム依存というものは、精神科・心理学領域では
まだまだメジャーな依存症とは言い難い。アルコールやドラッグ、その他精神科で
大きな問題となっている摂食障害やギャンブル依存といった各種嗜癖(addiction)
があまりにも多くの人生に破滅をもたらしている事、そしてインターネット依存や
ゲーム依存が近年出てきたばかりである事、そして研究者の全部ではないが多くが
この新しい分野に造詣が浅い事、などがその原因だろう。このため、欧米や韓国、
台湾の先進的な研究者が基礎的な研究を始めたばかりで、日本国内ではあまり
研究らしい研究があがってこないのが実状だ(と思ったら、→こんなの紹介して
頂きました。平井先生、ありがとうございます)。
そこで、今回のhtmlでは、海外のインターネット嗜癖・オンラインゲーム嗜癖
に関する論文を二つばかり、その概要だけ訳したものを掲載してみることにした。
あくまで概要をシロクマが訳したものであり、これだけ見て即断するのは危険
なので、いっそう興味を持たれた方は、検索したうえで是非本文を読んで
頂きたい。また、今回参照したCyberPsychologyにはその他にも面白そうな
論文が沢山あるので、今後機会があればまた紹介してみたいし、そんなの待って
いられないという方は、是非本文を漁ってみて欲しいと思う。
CyberPsychology & Behavior 2003 Feb;6(1):81-91.
Breaking the stereotype: the case of online gaming.
Griffiths MD, Davies MN, Chappell D.
Psychology Division, Nottingham Trent University, Nottingham,
United Kingdom NG1 48U. mark.griffiths@ntu.ac.uk
【2003年イギリス論文】オンラインゲーマーの新しいステロタイプ
以下概略:
コンピュータゲームがレジャーとして急速に発展してきているにも関わらず、
この領域についての研究データは現在殆ど存在しない。また、存在する
数少ないデータも、多くはアーケードゲームに限られている。そして最近では
複数のプレイヤーが同時参加するタイプのゲームの媒介として、インターネットが
利用されるようになってきている。
将来研究を集積していくべき水準点となり得るような基礎的なデータすら
存在しない現状を鑑み、今回の調査ではふたつの主要なオンラインゲームファン
サイトから標本を抽出してみた。Sociodemographicsによれば、プレイヤーの
かなり多く(およそ85%)が男性であり、60%以上が19歳を上回る
年齢であった。調査結果はオンラインゲームの主要顧客の多くが成人に達して
いることの明確な証拠を提示するものであり、未成年者が多いとされた従来の
ステロタイプ像に一石を投じるものであった。
典型的なオンラインゲーマーといえば「社会的に引きこもって男性的な
アイデンティティを十分に達成できていない若年男性」という、従来のステロ
タイプ像は不適当なものと考えられる。
【シロクマ的コメント】
全くその通りで、オンラインゲームプレイヤーの多くは19歳を上回っていて、
就労・就学している割合もそれなりに多いと思われる(仲間内を見ていても、
全くその通りだ)。いくら中学生や高校生に利用者がいるとて、割合からみれば
60%以上が20代や30代のユーザーだとて不思議ではない。例えば子供用の
コンシューマ機利用者などに比べれば、やはりユーザーの平均年齢は高いだろう。
英国ではオンラインゲームユーザーの多くは未成年だと思われているのだろうか?
一方で、この結果を見ていて逆にどうなのかなと思う点もある。まず、この
パーセンテージを見る限り、30%以上のユーザーが未成年であることが推測される
という点である。確かに未成年中心というステロタイプは否定されて然るべきだが、
未成年がかなり多い、という点を忘れてしまうのはやばいと思う。
また、実際にオンラインゲームユーザーのうちでaddictionに至るケースは
極少数である事(ちょうど酒を飲む人間は沢山いても、アルコール依存に至る
のは極少数なのと同じだ)、そしてaddictionに至るような重症例のステロタイプは
おそらく別に存在すること、には留意すべきだろう。この研究で示された
英国オンラインゲームユーザーのステロタイプは、あくまで健常な利用者も
含めてのものであって、不健康な利用に堕ちていく“廃人ユーザー”のそれとは
異なるかもしれない点は、留意すべきだろう。
CyberPsychology & Behavior 2003 Apr;6(2):143-50.
Internet over-users' psychological profiles: a behavior sampling analysis on
internet addiction.
Whang LS, Lee S, Chang G.
Department of Psychology, Yonsei University, Seoul, Korea. swhang@yonsei.ac.kr
【2003年韓国論文:インターネット過剰利用者の心理学的プロフィール;
インターネット依存者の行動サンプリング分析】
以下概略:
インターネットの過剰利用に陥ってしまう人たちには、どんな種類の心理学的
特徴があるのだろうか?インターネットの過剰利用やインターネット使用度と、
心理学的プロフィールとの関連を調査する為に、韓国のインターネットユーザーを
対象とした調査を行った。
調査では韓国の主要なポータルサイト利用者2000万人から13588人(男性
7878名、女性5710名)を抽出し、Young's Internet Addiction Scaleを用いて
評価を行った。その結果、抽出サンプルのうち3.5%がインターネット依存
(IA)の診断基準を満たしており、18.4%がインターネット依存の疑い有り(RA)
と判定された。また、Internet Addiction Scaleからは、インターネット依存の
度合いと社会的機能不全行動(dysfunctional social behabiors)の度合いに強い
相関関係が見出された。また、IA群ではRA群・非診断群よりも現実逃避の傾向が
より強くみられ、仕事などでストレスを感じたりただ落ち込んだ時には高い頻度で
インターネットにアクセスしていることが明らかとなった。そのほか、IA群では
孤独感・気分の落ち込み・強迫傾向が他の群よりも高い度合いで観察された。
IA群ではまた、そうでない群と比較して部外者に対する閉鎖的傾向が強くみられ、
人間関係の危機に際して傷つきやすい傾向があるように推測された。
心理学的健康状態とインターネット依存との関連性をするべく、今後
さらなる研究が期待される。
【シロクマ的コメント】
こちらは隣国韓国の、インターネット依存を対象としたレポートである。
オンラインゲームを対象としたレポートと異なり、インターネットを対象とした
研究は比較的数が存在しているが、大抵の論文は、依存者には心理学的特徴
(それも、どちらかといえばネガティブなやつ)があるという結果を出している。
この論文もそれに近い結果が出ており、通常のインターネットユーザーと依存に
達している者を(心理学的に評価し)比較した結果、依存者のほうが現実逃避傾向・
対人関係の傷つき易さ・強迫傾向・閉鎖的傾向・抑鬱etcがみられるという報告
となっている。さらに、インターネットの依存の度合いと、社会的には不適切な
振る舞いの度合いが相関しているという結果が出ており、両者に因果関係が
あるかどうかはともかく相関関係があるという結果が出ている。
今回は紙幅の都合で省略したが、台湾の大学生を対象とした論文でも似たような
傾向がみられており、私個人の周囲観察でも同じような傾向がみられる(つまり
ちゃんとした人ほど、節度のあるインターネット利用やオンラインゲーム利用を
しているように感じられるのだ)。やはり、ネット依存の度合いと、幾つかの
心理学的プロフィールには、少なくとも相関関係はあるのではないかと思われる。
一方で、急増しているネットユーザー・オンラインゲームユーザーのかなりの
割合(多分過半数)は、ネット依存にまでは至らずに健康的な範囲で利用している
こともこの論文は示唆している。ネットが害悪であるような論調が国内の
マスコミではお盛んだが、実際に依存を起こす人が後を絶たない一方で、健全な
ユーザーのほうが多数を占めているという事実にも、注目する価値があるのでは
ないだろうか。そして、ネット依存→不適応 という因果関係があるのか、
それとも不適応→ネット依存 という因果関係があるのか、はたまた単なる
相関関係があるだけなのか、もう少し慎重に考えても良いのではないだろうか。
★今後も、何か関連してそうな面白いものを見つけたら挙げてみたいものです。
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