[1.目覚めの着想]


 「ドライジンの無いショットバーなど、パスタの無いイタリア料理店の
ようなもの」とは、なるほど格言である。スピリッツとしても、カクテルの
材料としても、確かにジンほど重要な酒はない。

 法科の学生だった頃、まだまだ金の無かった時分には、胃を痛めないよう
注意深く水を飲みながら、冷凍したドライジンを随分と舐めたものだ。
瓶ごと冷やしてないジンなど全く飲むに値しない酒だが、ちゃんと冷やし
さえすれば、安物の銘柄でも十分美味い。霜のついたグラスを傾け、
凍てつくようなアルコールとジェニパー特有の香りで粘膜を焼きながら飲む。
これが、たまらない。

 混ぜてもやはり、ジンに勝るものは無い。
私も、マティーニこそベスト・オブ・カクテルと確信する人間の一人である。
男性には、ベルモットを抑えた、エキストラ・ドライを迷わず勧める。
バーテンの繊細さがこれほどはっきりと味に反映されるカクテルも珍しい。
だからこそマティーニの旨い店には、酒を知っている客が自然と集まる。
ゴードンやタンカレーなど、銘柄のこだわりは人それぞれだが、一度
ドライジンとそのカクテルに魅了された男は、ジンこそがバーの王者で
あると信じてもはや疑わない。




(虫:このヘタクソ〜!!!!)
(僕:うわっ!いきなり出てくるなっ!折角素敵な文章ができたってのに!
 邪魔しないでくれよぉ!)
(虫:ドライジン!ジャスパー!ほうほう!
 格好いいね!素敵な着想だネ!君、天才だネ!)
(僕:なにが『ほうほう』、だ!やい、虫!お、お前僕を馬鹿にしただろ!)
(虫:馬鹿にするもなにも、おめぇはバカそのものじゃん!)
(僕:僕は馬鹿じゃない!ちゃんと、評価だって受けてるんだ!)
(虫:評価ぁ?)
(僕:そうさ!僕の同人小説は、確実に伸びてきている。
 感想も来るようになった。読者の反応が、好意的になってきてるね。)
(虫:ほほ〜、反応が、好意的になってきてる、と!)
(僕:この、ドライジンについての語りは、次回のオリジナル作品に使おう。
 場末のバーで、寡黙な紳士にフジテレビの女子アナが恋をする展開だ。
 男のダンディズムは、是非一度書いてみたいテーマだった。)
(虫:『男のダンディズム』、だって!?!プッ‥うぷぷぷ‥!!)
(僕:な、なんだよう!)
(虫:あ〜っはははっははっは!あははははは!!!!)
(僕:なっなにが可笑しいっ!)
(虫:あはははははははははははははははは!
 寡黙な紳士!フジの女子アナ!場末のバー!!
 あ〜っはっははっは!
 馬鹿!ばか!バカ!!マジバカ!こいつバカ!
 おめぇ!ジンも飲んだことない癖に、何を書こうっていうんだい?ええ?)
(僕:ドライジンは、薬草みたいな味がする。マティーニみたいな男性向け
 カクテルの材料になる。アルコール度数は四十度、強いスピリッツなんだ。)
(虫:それがどうした!)
(僕:そ、それがどうしただって?ほら、僕はこんなにきっちり
 調べたんだ!執筆家は、下調べが大切だ。僕は、それを守っている。
 信頼性のおける、綿密な、調査だ。)
(虫:痛っイタタタ‥‥おお、神よ!この哀れ低能をお救いタマエ!)
(僕:うるさい!うるさい!もう僕をバカにするのはやめろ!)
(虫:クサすぎるんだヨ!エセっぽいんだヨ!お前が書いても、嘘なんだYO!)
(僕:ウぎーーーっ!虫なんか嫌いだー)


 僕は、ペンネーム水無月翠(みなずきみどり)。
ちょっと文章なんかかじっている、大学生だ。
朝は、同人作家の僕にとって一番大切な時間だ。
朝のほんのひととき、虫が遅れて起きてくる前に、いつも僕は良いアイデアを
着想する。もちろん、今日もなかなか良い文章を思いついた。
ショットバーの薄暗い情景を狙っていく時、この文章はきっと役に立つ。

 虫は本当にひどい奴だ。
虫は、なんにもわかっちゃいない。
僕が昔、いじめに遭って引きこもった頃から、僕の頭の中に一匹の小虫が
住み始めた。以来、虫はことあるごとに僕を茶化したりバカにしたりしている。
真実だとか偉そうな言葉で僕を脅して、まじめに楽しく生きようとしている
僕の足を引っ張って、ずるくて汚い道に誘惑する。
きっと僕は、虫に何度も騙されて、たくさん損をしていると思う。

 とてもじゃないけど、虫を好きになる事なんて出来そうにない。
 僕にとって、本当に厄介な寄生虫だ。




[2.楽しいお出かけ]

 今日は、同人仲間のミキさんと二人でオフライン・ミーティングだ。
デート、と表現できないのが残念だけど。
 次のコミケで共同執筆する事になっている、小説評論の同人誌に
ついての打ち合わせをする事が、今日のミーティングの一番の目的だ。
 ミキさんは僕より二歳年下だけど、同人歴6年のベテランだ。さばけた
文章とかわいい挿し絵、何より彼女の魅力的なキャラクターが、たくさんの
男性ファンの心を掴んで離さない。
 確かにミキさんは、同人誌を創るような娘のなかでは、性格もかなり明るい
ほうだし、服装や髪型もどこか垢抜けている。ミキさんに憧れている
同人男は数知れないし、もしかしたら僕もその一人なのかもしれない。
 もちろん、彼女はクリエイティヴだ。
 このチャンスに、僕は素晴らしい共同作品を、仕上げたいと思っている。


僕:「ミキさん、こんにちは。久しぶりです。」
女:「こんにちは。遅刻してゴメンね〜」
僕:「ううん、全然待ってないよ。(虫:30分待たされたくせに!)それよりも、
さっそく本題に移りたいんだけど‥‥」
女:「ねぇ、こんなとこで立ち話もなんだから、どっかで落ち着いて話しようよ。」
僕:「そ、それもそうだね。じゃあ、うーんと、どこ行こうか。」


(虫:ヒヒヒ〜!おい!気の利かねぇあんぽんたん!
 下心なんぞ出して、まごまごしてる場合じゃねぇぞ〜〜!)
(僕:し、し、下心なんか、ないさ。そ、そ、それ、よりも、どこ、
どこが、こういう時、いいの?)
(虫:んなもん、虫のオレにわかるわけねーだろ!)


女:「ねぇ、何あわててるの?」
僕:「む、虫が僕をいじめ‥‥じゃなくて、ど、どこがいいかな?
そ、そうだ!ま、ま、マック!マック行こうよ!」
女:「私、朝御飯さっき食べたばっかりなんですけど。」
僕:「じゃ、じゃ、じゃあ、ど、ど、ど、ドトール!
どとーる行こう!コーヒー!コーヒー!」
女:「水無月さんって、へんなひとね。」


(虫:おい!冷たい目してるぞ、あの女!痛ってぇなぁ!)
(僕:わかってるよ!)


 虫に言われるまでもない。鈍感な僕でも、ミキさんがイヤな顔をした
ことぐらいはわかってる。これじゃ、水無月翠のイメージが台無しだ。

 それでもなんとか、僕達はコーヒー店の窓際の二人席を陣取る事に成功し、
肝心の打ち合わせを始める事ができた。僕たちは、カフェオレを飲みながら、
挿し絵のカットはどうするだとか、印刷業者はどこを選ぶかだとか、原稿は
誰が入稿するのかとか、そういう具体的な話を詰めていった。話は思ったより
拍子良くまとまった。ミキさんがすごく要領よく話を進めるからだ。
 途中からは、トロい僕が話を引っ張るのはやめて、彼女のペースに委せる
ようにした。別に、劣等感を感じる事は無い。彼女が出来る人だって事
ぐらい僕にも分かっているし、何より、そのほうが僕にもゆとりが生まれてくる。

 そんなこんなで、次第に僕も、リラックスしてミキさんと話せるように
なってきた。彼女のウィットに僕は笑い、僕も得意になって自分の思っている
事を素直に話した。気持ちが落ち着いたら、彼女の魅力に目を向ける余裕も
出てきた。窓から差し込む日光を受け、金色に輝くショートの髪も、
話すたびに微かに揺れる切れ長の瞼も、僕にはとても眩しかった。
視線が合って微かに微笑まれるたび、僕はアドレナリンとかエンドルフィン
という名前の魔法をかけられた。

 滅多に女の子と二人でお喋りする事のない僕にとって、それは、
理性がひきつけを起こしかねないほどのよろこびだった。
どんな御馳走にも、今飲むカフェオレには及ばない。僕はそう確信した。
甘くていい匂いがする、至福の時間が流れていく‥‥。



女:「あっ携帯‥‥ちょっとゴメン‥‥。」


 けど、こういうの時間てのは決して長くは続かない。
彼女のバッグから、流行歌の着信音が鳴りだした。もちろん、平井堅か
なにかの甘いバラードだ。なんとなく嫌な予感がして、予感はすぐに
的中した。
 ちょっと慌てるような動作でバッグから携帯電話を取り出し、急に
いそいそと話し始めるミキさんの後ろ姿。はしゃいだような彼女の
背中を、僕はただ拳を握りしめたままじっと眺めていた。


女:「‥‥もしもし?うん、もう用済んだ。終わったよ、すぐ行く!
 ねぇ、ホントにコート買ってくれるの?嬉しい!うん、新宿の丸井ね!
 わかってる。じゃ!」



女:「御免なさい水無月さん、もう時間みたい。ちょっと約束あるから、
 私、帰るね。原稿、書いたら、CDに入れて送るから。」
僕:「え?あ?‥‥うん。お願いします。」
女:「これ、コーヒー代。じゃ。」
僕:「あ、はい、お気をつけて‥‥。」


(僕:行っちゃった‥‥。)
(虫:おめぇ、用済み、みたいだな。)
(僕:うん‥‥。)
(虫:コートってさ、普通は友達に買って貰うもんじゃないよな‥‥。)
(僕:うん‥‥。)
(虫:あいつ、コーヒー代、置いていきやがった。)
(僕:うん‥‥。)


 ミキさんは、これからきっと彼氏とデートなんだと思う。
ミキさんはこれからきっと楽しいんだから、ジェントルな僕は、彼女の
幸福を喜ぶべきだ。僕自身、予定通り同人誌の打ち合わせができたんだから、
もっと嬉しがったっていいはずだ。かわいい女の子と二人で話も出来た
ことだし、今日は、大成功と言っていいはずだ。実りの多い一日だ。

 だのに、僕はとても気持ちが落ち込んでいた。
『喜ぶべきだ』と自分に言い聞かせてみても、どこか空しく寂しかった。

 なんだか、虫に馬鹿にされたい気分だった。



(虫:ん?呼んだか?ああ馬鹿にしてやるゾ、馬鹿にしてやるともpoor boy!)
(僕:僕は、どうしてこんなぐあいに駄目なんだろう?)
(虫:そりゃあ、どうにもクズだからさ!)
(僕:ひどい!人をクズって呼ぶな!)
(虫:黙れクズ!クズはクズらしく這いつくばってりゃいいのに、身の程も
 わきまえずに下心なんぞ出しやがって!んでもって、あの女が唾つき
 ってわかったら、今度はションボリするだけかい!おめぇ、マジで
 かっこわりいな!)
(僕:なんだよ!肝心な時には役に立たないで、こんな時だけしゃしゃり
出てきて馬鹿にして!お前、寄生虫のくせに何様のつもりだよ!)
(虫:おー、いつもの調子になってきたな!)
(僕:なにさっ!虫のくせにっ!虫のくせにっ!)




[3.秋葉原]


 何かにつまずいたり落ち込んだ時には、自然と秋葉原に足が向く。

 煤煙と生ゴミの匂い・人いきれ・耳障りな広告に溢れた街で、僕は
なにかを求め、なにかを手に入れ、そして少しだけ、不幸を忘れる方法を
知っている。この街には銀座や代官山なんかにありがちな、あの差別も
存在しない。そのせいか、電気街をうろついているだけでも随分と
気持ちが楽になる。

 僕のような男でも拒絶しない街・秋葉原。
 だからこそ、不遇の男達が、癒しを求めていつも溢れているんだと思う。


(虫:ヒヒヒ、おい、不遇の男達のone of them!)
(僕:ひっ!)
(虫:どうしたんだい?やけに、怯えてるじゃないか?)
(僕:そ、そんな事はないよ!)
(虫:餅は餅屋!エロはエロ屋!)
(僕:うっ!な、何が言いたいんだ!?)
(虫:遠慮する事はないぜ、この街に癒しを求めてるんだろ我が心の友よ!
 なにかを探して、なにかを見つけるんだろ?ここは、専門店街だ!)

 そう言って虫は、夕日でオレンジ色に染まった通りの一角、やけに男ばかり
が群がる雑踏を指さした。点灯したばかりの極彩色のネオンサインには、
『美少女ゲーム』とか『18禁』とか、いかがわしい単語が並んでいる。
 男達に目を移すと、冴えないシャツを着た、寂しげな背中。どこか怯えた
ような目つき。妙に威風堂々とした太った奴も混じっている。みんな、どこか
やるせなくてやけばちで、心の底から嬉しい奴など一人もいないような気がした。


 僕は、そこが何を売っている店なのかをあまりに知りすぎている。

 ミキさんみたいな女性とは縁のない男が来る所だと、分かっている。

 僕は、自分が恥ずかしかった。


(虫:さあ!さあ友よ、逝こう!めくるめくヒーリングの空間へ!)
(僕:違う!違うよ!僕が欲しいのは、こんなのじゃない!)
虫:今更恥ずかしがるもんでもないダろ?おめぇ、世間様は騙せてもヒヒヒ、
 脳内に住み着いたこのオレ様を騙す事はできねぇぜ!
 おめぇは、髪が変な色で目のばかでかい、おばけみたいな幼児体型が
 出てくるゲームが欲しいんダろぉ?その為に、本当は秋葉原に来たんダろ?)
(僕:ち、違う!)
(虫:ミキちゃんの事は忘れろよ、一時の気の迷いだよ、な、ほら、さ、さ、
 いつものように、楽しくショッピングしようぜ。へっへっへ。)
(僕:僕は、そんな人間じゃない!僕を、汚さないでくれ!)
(虫:なぁにタコ言ってやがるんだこの野郎!逝くぞゴルァ!)


 虫は僕をひきずっていった。僕は必死に抵抗したけど、虫のほうが
強かった。足が勝手に歩いていった。僕は、拒否したかったけれども、
僕は歩いていったのだ。
 店頭デモプレイに群がった、プレーリードッグのように棒立ちのオタク達を
後目に、僕達はいっそう騒々しい店内へと足を踏み入れた。さまざまな
コスチュームに身を包んだ、ピンク色のアニメ絵達。まとわりつくような、
媚びたような笑みを投げかける彼女たちのパッケージに、地味な服装の
男達が真剣な眼差しを送っている。
店頭に並んだ、パソコンゲーム独特の大きな箱、アニメDVDのケース、
等身大の販促用フィギュア、何もかもがピンク色ばかりの店内だった。
肌もピンク、髪もピンク、下着もピンク、目的もピンク。
 そして、僕の頭の中もやっぱりピンク。

 アニメ絵の、過剰なまでにデフォルメを受けた“女の子の夢”を、男達は
ここで漁っていく。現実では叶わない“夢”を、ここでお金と交換していく。


(僕:こんなはずじゃないのに。)


 僕は虫の声に負けはじめていた。虫の、思うつぼだ。
 虫が悪いんだ。
 虫の言うとおりだ。
 虫がいけない。
 あいつのせいだ。

 でも、本当は、本当のところは、僕のせいだ。


(虫:萌えるぜ!『はじめてのらぶほてる』!買え!超エロいぜ!
 エロチシズムだぜ!文学だぜ!)
(僕:文学は、こんな、低俗なものじゃない。エロチシズムとは、もっと
 高尚でピュアなものだと思うよ)
(虫:なぁに言ってやがる。エロってのはなぁ、てめぇがエロいと思ったものが
 エロなんだぁよ!ほれ、『はじめてのらぶほてる』を買え!買え買え!)
(僕:ぼ、ぼ、僕は、もっと詩的な作品を、欲しているんだ)
(虫:なにが『詩的な作品』だ!ケッ!こんなエロゲー屋でも面子を
気にしやがって!)
(僕:面子なんか気にしてない!僕は、いつも上等の作品だけ欲しいんだ)
(虫:だったらエロゲーなんぞ買わないで、三島由紀夫でも読んでな!)
(僕:うっ!ぼ、僕をいじめないでくれよー)


 結局さんざん迷った挙げ句に僕がレジに持っていったのは、『水色の季節』
という、ごく普通の学園純愛ものの十八禁ゲームだった。虫は、もっとエロを!
もっとロリを!と叫んでやまなかったし、虫の薦めるどぎついゲームが
全く欲しくないと言ったら実際嘘になるけれど、今日の僕は純愛ストーリーの
美少女ゲームをほしがっていた。何より、『水色の季節』のパッケージに
描かれたショートカットのヒロインの笑顔に、僕は不思議と惹きつけられた。


(虫:おい!このヒロインってさ、すっげぇミキちゃん似だよな。)
(僕:そ、そうかなぁ〜?)
(虫:おお!しかも、このキャラの声優って、確か、ミキちゃんに似た声じゃ
 なかったっけ?おめぇ、エロゲー探すの上手すぎ!)
(僕:え?あれ?ほ、本当だ!き、奇遇だねぇ!)
(虫:なにすっとぼけてやがる!オレに隠してもお見通しだよ!このクズ!)
(僕:い、いいじゃないか!僕だって、寂しいんだよ!)
(虫:はっハッは〜!遂に言ったね!そうか!寂しいか!
 よぉし!よぉしよぉし!わぁった!わかったよロンリーガイ!
 よし!オレも付き合おう!偽ミキちゃんのエッチシーンを二人で
 拝もうじゃないか、友よ!)
(僕:‥‥そんなに、えげつなく言わないでくれよぉ)
(虫:さあ、帰ったら呑むぞ!呑めば、面子バカのおめぇもノープロブレムだ!
 今日は、呑みながらエロゲー三昧だ水無月君!さあ逝こう、我が友よ!)


 秋葉原からの帰り道、ディスカウントストアで僕は生まれて初めて
ドライジンを買った。こんなに強いお酒は初めてだけど、虫が勧めるから、
とにかく買ってみる事にした。
 今日は、虫と一緒につぶれるまで呑もうと思う。呑みながら、
エッチな十八禁美少女恋愛ゲームに溺れよう。それで、ミキさんの事は
もう諦めて、明日からは、また立派な同人作品を創ろう。


(虫:酒に萌えゲー!最高だ!今夜はバーニングだ!)
(僕:虫のほうが、僕よりずっと嬉しそうだ。脳天気で、羨ましいよ。)
(虫:バッキャロー!オレまで落ち込んだら、辛気くさくてイヤになっちまう
じゃねぇか!やっぱお前ってわかってねぇなぁ!だから、モテないんだよ!)
(僕:ハハ、それもそうだね。確かに虫の言うとおりだ。ゴメン。)
(虫:ほう、謝るか!なら、今度エロゲー屋行った時に、オレ様推薦の
 『はじめてのらぶほてる』を買え!そうしたら、寛大な心で許してやろう。)
(僕:また無茶な事を言う!やっぱり、虫なんて大嫌いだぁ!)
(虫:ハッハっは〜!素直になんなよ!さあ、潰れるまで呑むぞ!)
(僕:う、うん!)


 その日、家に帰った後、虫と二人で酔っぱらった。二人で冷えたドライジンを
あおりながら、夜が更けるまで『水色の季節』にのめり込んだ。虫はしじゅう
陽気に呑んでいた。僕も陽気になるようにがんばった。虫につられて、何度か
笑ったりもした。寂しいはずなのに、ちょっとだけ寂しさを忘れる事ができた。


 でも、本当は、僕は虫が大嫌いだ。
真実だとか偉そうな言葉で僕を騙して、まじめに楽しく生きようとしている
僕の足を引っ張って、ずるくて汚い道に誘惑する。

 だから、僕は虫が大嫌いだ。


(虫:嘘つけ!オレがいなけりゃエロゲーだって買えねぇくせに!)
(僕:‥‥だ、だから、嫌いといったら、嫌いなんだってば!)


 「虫とオタクのフーガ」以上(2002.11/20)

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