déconstruction des idoles ──アイドルの脱紺築

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偽ラジオドラマ台本「友達(♀)が気に入っている男からの伝言」

モーニング娘。の『No.5』に収録されている「友達(♀)が気に入っている男からの伝言」(つんく♂作詞)の歌詞を題材にした偽ラジオドラマ台本です。

曲のイメージが壊れそうでイヤだ、とご心配の方にはあまりお薦めしません。でも、それほどおかしな内容ではないと思っておりますけれども。では、お楽しみください。

「ピーッ!」ホイッスルの音。

ナレーション(あさ美)(以下N) 陸上部の練習が終わった。

遠くで。部長「先生、お願いします!」
道重先生「えっとぉ。高体連も近づいてきましたぁ。皆さん、体調には気をつけてくださいね。終わります」
部長「ありがとうございました!」
部員「ありがとうございました!」

 普段なら部活の仲間と一緒に帰るんだけど、今日はちょっと大事な用事がある。

マコト あさ美ちゃん、キッチンズバーガー寄ってかない? 今なら期間限定お得セットがなんと500円なんだよ! 行くッきゃないよねッ!

あさ美 ごめん。今日はちょっと用事があって。

マコト 用事い? さては男だな。ヒューヒュー♪

あさ美 違うっての。本当にやぼ用なんだから。ほれ、とっとと帰れよ。シッシッ!

マコト (口を尖らせて)へいへい。とっとと帰るでございMAXっと! (気を取り直して)じゃあね。バイバイ。

あさ美 したっけね〜。あ、バイバ〜イ。

 ジャージに着替えたわたしは、四階の音楽室へと向かった。

階段を登る足音。次第に「ホッピーデホップ♪ ホッピーデホップ♪」という合唱の歌声が大きくなる。

 合唱部はまだ練習している。コンクールが近いから練習にも気合いが入っている。わたしは終わるまで廊下で待つことにした。やがて歌が終わった。

机を移動する音。おしまいの挨拶。がやがやとした話し声が聞こえ始める。

あさ美 愛ちゃん!

 あえ? あさ美ちゃん、どうしたの? 珍しい。

あさ美 ちょっと、話があってさ。今いい?

 いいに決まってるて。話ってなん?

あさ美 いや、ここじゃあ、ちょっと。

 じゃあキッチンズバーガーでも寄る? 今なら期間限定お得セットが何と、

愛・あさ美 500円! (笑い)

あさ美 あ、でも今日はいいや。歩きながら話そ?

 うん。

すれ違う部員たちの声「じゃあね〜」「また明日」「バイバイ」
ふざけながら歌う「ヘンルーダの花が咲いたら」(ラヨシュ・バールドシュ作曲)も聞こえて来る。
"Hopp ide hopp hopp ide hopp"

あさ美 う〜さむ。風が冷たいね。

 あれえ、北海道では「しばれる」とか言わんの?

あさ美 あ〜、お父さんとかは普通にいうけどね。福井ではどういうの?

 うら(私)すっかり標準語になってもて。風がちぶてえ、とか言ってへん。

あさ美 なまら訛ってるしょや。(二人笑う)

 愛ちゃんは福井の学校から、私は北海道の学校から、ちょうど同じ時期に転校してきた。同じ転校生だからか、二人はすぐに仲良くなったんだ。

 うちらももう東京都民だから。「バリさむ〜」とか言わんとね。

あさ美 (恥ずかしがりながら)バリさむぅ……

 ちゃうて。(堂々と)バ〜リ〜さ〜む〜! あははは。

あさ美 ギャル言葉うまいよね。ギャルメイクして金髪にしちゃいなよ。

 あかんて。先生に怒られる。コンクールも近いし。

あさ美 でも、ずらっと並んだ中に一人だけギャルがいたら面白いよね。あ、いっそのこと全員でギャルとか。金髪ガングロで統一してさあ、でホッピーデホップ♪って。これいいんじゃない? これどう?

 特別賞狙えるね。

あさ美 場違いで賞、とか、ありえないで賞、とか。

 まじめにやりま賞とか……んなアホなぁ! (笑い)

 愛ちゃんは福井の学校では合唱部の部長をやってたんだって。で、実力を買われて転校してきて間もないのにメゾパートのリーダーをやってるんだって。マジですごいんだよ。だって、普通に楽譜が読めるんだよ。 あ、それって当たり前なのかなあ?

 で、話って?

あさ美 (はぐらかす) あ、そうそう。陸上部のまこっちゃん知ってるでしょ? あいつ最近付合ってたヤツに振られちゃってさあ。で、やけ食いしたら、もう、すごいことになっちゃって、それで、走り高跳びの代表に内定してるのに記録が出せなくなっちゃったんだって。あいかわらずお馬鹿だよねー。あはははは!

 話って、そのこと?

あさ美 いや〜、その〜。

 もったいぶるし。何? 気になる。はよ言いや。

あさ美 (言いかける)あのねえ……なんかねえ、言いづらいんだよね。

 じらさんでええて。

あさ美 なんていうか、伝えたくない感じ

 話があって来たのに、伝えたくないって、どういうこと?

あさ美 何かね〜、ちょっとね〜、悔しい気持ちなの

 だ〜か〜ら〜。何? 早よ言うて。

あさ美 (さらにはぐらかす)あーあ。興味なんかなかったのにさ、何かちょっとやじ馬な感覚だな、自分。って思えてきちゃって。

 だから何の話? 言うの? 言わへんの? (あさ美の首を絞める)

あさ美 あっ……く、首は……うぐぐ、死ぬ……

 まいった? 言う?

あさ美 ま……まいった、まいった! ……はあ、死ぬかと思ったよ。
愛ちゃん、前に好きだって言ってた人、いたよねー?

 言ったっけ? ……あ〜あ〜。うんうん。おったおった。誰? 矢口先輩? 吉澤先輩? それとも後藤先輩?

あさ美 あちゃ〜。そんなにいっぱいいたっけ。

 で、誰の話?

あさ美 さあ? 誰でしょ? あっ、首はしめないで。そうそうヒントはねえ、背の高い人だよ。

 じゃあ矢口先輩だ! あっ、違う! 誰?

あさ美 でねえ、昨日マジで偶然会ったんだけどもねえ。その時に言ってたのよ。

 なんて? てか、誰が? 教えてや〜。

あさ美 さあ? でね、その人どうやらあなたに気があるらしいのよ

 嘘お!? ってか誰なん?

雑踏の音が消える。替わりに書店の中の音。かすかなBGM。店員の声「千円からお預かりします。」等。

 それは昨日のことだ。部活が終わって家に帰る途中、私は本屋さんに立ち寄ったのだった。昨日はジャンプの発売日だったから。それで、夢中で読んでいたんだけど。気がついたら隣に……

吉澤 よっ。元気? 生きてた?

あさ美 先輩? 生きてますよー。何ですか? 立ち読みですか、受験生のくせに。

吉澤 違うよ,違うよ。ちょっと紺野に用事があってさあ。きっとここで立ち読みしてるだろうと思って、来てみたらやっぱり。

あさ美 で、何ですか? 用って。

吉澤 あのさあ、合唱部に高橋っているじゃん? あいつ友達?

あさ美 そうですけど……何か?

吉澤 あいつ最近チョー可愛いじゃん。ちょっとお近づきになりたいなー、とか思って。

あさ美 あー。じゃあ、合唱部に入ったらどうですかねぇ? あっ、でもうちの合唱部、女声合唱だからムリか……それ以前に、音痴じゃムリですよね。

吉澤 何をぉ? 音痴だぁ? お前にだけは言われたく……あ、ご、ごめんよ。凹むなよ。言いすぎたよ。な、泣くなよぉ。そうだ、アイスクリーム食べる?

あさ美 このくそ寒いのに何でアイス?

吉澤 じゃあ肉まんがいい?

あさ美 もうういいです。何でも食べ物で解決しようとして。相変わらずですね。で、わたしにどうしろと?

吉澤 伝言をことづかってほしい訳よ。とりあえず、まじめなお付き合いを前提に、今度の日曜、映画でもどう、ってさ。

あさ美 ずいぶんお行儀のいいお誘いですね。いつもはべたべたスキンシップ攻撃で、強引に迫るくせに。一部ではセクハラ親爺って呼ばれてますよ、知ってます?

吉澤 だってさあ。高橋といえば、いまやうちのガッコのマドンナ的存在な訳よ。高嶺の花な訳よ? そりゃあ遠慮がちにもなりますって。

あさ美 ふーん。そうなんだあ。

吉澤 とにかく、頼んだからな。よろしく。

間。街の雑踏の音が戻る。

あさ美 ……という訳なのよ。

 嘘でしょ。

あさ美 本当だって。

 またまたー。からかってるんでしょ?

あさ美 本当だって。マジだって。

 じゃあ、吉澤先輩がからかってるんだ。

あさ美 違うと思うよ。真面目な顔して話してたしね。間違いないよ。

 あさ美ちゃんの自信は信用できないからなあ。

あさ美 何それ? ひどーい。信じないんだったらいいよ! もうこれ以上話してあげないんだから!

 あさ美ちゃん?

あさ美 ベーだ

 うそうそ。冗談やよー。ええええ? 吉澤先輩がそんなこと言うてたん……

あさ美 うん。言ってた。

カンカンカンカンと踏切の音。電車が通りすぎる。

あさ美 で、どうする? 返事。適当に断っておこうか?

 え、あ、ちょっと待ってよぉ。

あさ美 (からかうように)あー。ほっぺたが赤いぞー。興奮してる感じ。……愛ちゃん、まんざらでもないな。あー、なんか ちょっと 羨ましいくらい

 吉澤先輩が……そうなん。 

あさ美 何? 吉澤先輩じゃ不満ってコト?

 顔とかはまあまあだけど、……セクハラ親爺やしなあ。

あさ美 あ、今何か ちょっと 腹がたってくる感じ

 うそうそ。冗談やて。 

あさ美 じゃあ返事はOKなんだね。

 待って。待ってよ。あー、どないしょ。何か、どきどきする。

あさ美 だいたい愛ちゃん! 他に好きだって言ってた人いなかったっけ? あれ、誰だっけ……そうそう 野球系の人

 (冷めた口調で)あー。石川先輩? あれはもう過去の男さ。

あさ美 マイブームは去ったって?

 去った、去った。今はねえ、……

あさ美 指折り数えてるんじゃないよ!

 いやあ、気持ちがあっちゃこっちゃ行ってもうて。

あさ美もう! だいたい愛ちゃんはすごく気が多すぎてもう本命どれなの? って感じだよ。

 愛ちゃんはちょっと恐い顔をして、しばらく宙を睨んでいた。そして。

 (決意して)分かった。決めた。OKする!

あさ美…………え? (淋しそうに)……いわゆる決めるの? マジで? セクハラ親爺だよ。

 うん! 決める! もう決めた! 

あさ美 あーあ。恋多き魔性の女もやっと落ち着くのね

 とりあえず日曜の映画はOKってことで。伝えておいてや。

あさ美 とりあえずぅ!?

 だって、喋ってみないとどんな人やら分からんもん。

あさ美 じゃ、付合ってみるんだ。

 うんうん。

あさ美 本気なの?

 本気なの!

あさ美いいんだね 私はそうやって伝えるけど

 あ。「とりあえず日曜だけはOK」とか言わんといてね。そこはそれ、含みを持たせて……

あさ美 策士だね、愛ちゃん……

 なんも。恋のABCやよー。

あさ美 あのね、愛ちゃん。あいつおちゃらけてるけど、根はいいヤツだったからさ、冗談なら 思わせぶるのはダメだよ。NGだよ。NO GOODだよ、英語でいうと。

 うんうん。まじめに付合うて。じゃ、恋の伝書鳩さん、よろしう伝えたってね。

あさ美 せめてキューピッドとか言ってよね。

 (浮かれて)ねえねえ。日曜日、ナニ着て行こうかなあ? 新調しちゃおうかな。ね。買い物つきおうて。マルキュー行こ。

あさ美 何買うの?

 とりあえず、パンツ?

あさ美 パ、パ、パ、パンツぅ? なんでいきなりパンツ? 正気なの?

 ほら。わたしセクシー系で行くことにしたから……ってウソウソ。あさ美ちゃん、顔真っ赤だよ。冗談やって、もう。

あさ美 そういう愛ちゃんだって赤くなってるし。……ごめん。今日は別の用事があってさ。本当はつきあいたいんだけど。

 そうなんだ。残念。……用事ってまさか、立ち読みじゃないよね?

あさ美 ち、ち、違うよ。本当にヤボ用で……

再び、雑踏の音が消える。替わりに書店の中の音。さっきと同じBGM。店員の声「55円とレシートになります。ありがとうございました」等。

 で、愛ちゃんと別れたその足で本屋さんに向かった私って……いや、ちょっと参考書を探しにね。あ、でも、ついでに立ち読みもするけど。それはあくまでもついでだから。
きょうは○○コミックスの発売日だったなあ。買うほどじゃないんだけど、気になる連載があって。
で、「立ち読みお断り」の貼り紙のまん前で、夢中で立ち読みしてたら……後ろから恐い声が。

吉澤 お客さ〜ん、貼り紙読めないの?

あさ美 ご、ご、ご、ごめんなさい! ……って、吉澤先輩!?

吉澤 笑い噛み殺しながら、何読んでる訳?

あさ美 なんでもないです。

 あちゃあ。やっぱり会っちゃった。

吉澤 でさ。伝えてくれた? 愛ちゃんに。 

あさ美 伝えましたよ。ちゃんと。

吉澤 オォ! サンキュー! で、どうだった、返事は? もちろんOKだよね? そう思ってもう映画のチケット買ってきちゃったよ。「パイレーツ・オブ・カリビアン」!

 正直、愛ちゃんの返事を伝えるもの気が進まない。それなのに。ここに来たら吉澤先輩に会ってしまうような気がしていたのに、何故か来てしまったんだよね。あーあ、やっぱり買い物に付合えばよかったかな。

あさ美 ………………

吉澤 何で黙ってるの?

あさ美 ……え……返事ですか……(精一杯明るく)聞きたいです?

吉澤 当たり前だろ。

あさ美 (冷やかすように)愛ちゃん、行けないって。

吉澤 ウッソォ? マジで? 俺フラれちゃったワケ? 玉砕? マジで? 愛ちゃん何て言ったの?

あさ美 ……(ためらいながら)……愛ちゃん、日曜は……

吉澤 (焦って)日曜が都合悪いなら、土曜でも平日でも、俺はいつでもいいからさあ。もういっぺんそう言って伝えてみてよ。

あさ美 ……(涙声)別に日曜も何も用事はないけど、でも、行きたくないって……

吉澤 本当に高橋さんがそう言ったのかよ。

あさ美 (次第に激昂しながら)……吉澤先輩なんか、別に顔も好みってワケじゃないし、有名なセクハラ大王だし、軽そうだし、頭悪そうだし、人格もゆがんでそうだし、映画なんか一緒に視たらオヤジくささが伝染するって! だから会わないって!

吉澤 ……紺野……何でそんな嘘言うんだよ。

あさ美 そうだよ! 嘘だよ! そんなこと言う訳ないし。どうぞお幸せに! あ、私用事があるから、帰ります! さようなら! 

吉澤 紺野? どうして泣くんだよ? なんでだよ、泣くなんて……待てよ、紺野。紺野!

BGM。さくら組「晴れ 雨 のち スキ」(インストゥルメンタル)

 私は先輩の声を振り払うようにして本屋さんを出た。
なんでだろう。涙が止まらなかった。
本当に、興味なんかなかったのに。

私の頭の中を、吉澤先輩とよく一緒に遊んでいた頃の思い出が、駆け巡った。公園でボートにも乗った、遊園地にも行った、映画も観た。いつもキッチンズバーガーで何時間も喋った。でも、それはいつも大勢でだった。

別にきちんと付合ってた訳じゃないし、どちらからも告白とかしたこともなかった。ただの友達だった。
でも、なんでかな、涙が止まらないのは……

ううん、別に、吉澤先輩と愛ちゃんがうまく行かなければいい、とか、そんなことは思わない。お似合いのカップルになると思うし。
でも、涙が止まらなかった。
わたしは心の中で誰にともなく叫んだ。

BGM止まる。

あさ美 「バカヤロー!」

エンディングテーマ流れる。「Hey! 本気なの 本気なの いいんだね? ……」(「友達(♀)が気に入っている男からの伝言」)








終。

出演:紺野あさ美=こんこん
   高橋愛  =愛ちゃん
   吉澤先輩 =よっすぃ〜

その他の出演でお送りしました。

もちろんフィクションです。
登場人物はモーニング娘。メンバーと名前が同じだったりしますが一応無関係です(笑)
('03/11/26初出)
('03/11/27一部修正)