エピソード5
 「アパート捜し」


数日、坪井宅に泊めてもらったがいつまでもここにいる訳にはいかない。やはりヤマサちくわの女店員さんの「春日井の友達が住んでいる4畳半一間のアパートが一部屋空いているらしいよ。」の一言で春日井に行くことにした。
当時、私の母は勤めに出ていたので家族のいない午前中を狙って布団と身の回り品を取りに名古屋の実家に戻った。
もちろん車はスバルサンバー。運転は坪井君である。

名古屋に到着し二人して素早く必要最小限の荷物を積み込むと一路春日井市へ向けて再スタート。新たなる旅立ちであった。これで親にうるさく言われなくてすむ。言いようのない開放感に浸っていた。やがて目的地に着いた。
そこは当時の国鉄春日井駅のすぐ近くにあり1階にそのアパートの大家さんが経営される不動産屋さんの事務所と美容院、2階がアパートになっていた。
早速この不動産屋さんを訪れたが前もって話はまったくしていない。その上荷物持参で来て「今日から住みたいのでお願いします。」という突然な話であった。とりあえず部屋を見せてもらったが4畳半に半畳くらいの押入れがついている。畳は少し盛り上がったりベコベコしている。
台所やトイレは共同、またベランダも無く物干し場も共同で使用する。それに入り口のドアにカギが無い。錠をかける金具だけがついているので自分で錠を購入してかけるのだそうだ。なんとドライバー1本で簡単にカギまではずせる簡素なつくりである。家賃は月5千円。礼金保証金で2か月分。先ずは〆て1万5千円で入居できる。安い!

「よしっ!ここに決めるわ。じゃ坪井1万5千円貸して」と私。「なんだ花木、金持っとらんのか?」、「あるわけないだろ。い〜がバイトの給料もらったらすぐ返すで!」………30年以上前の事ですがたぶんこんな会話があったと思います。
結局、坪井君に借金をして契約を済ませ先ずは入り口にかけるカギを近所の雑貨屋で購入。このカギは3桁の数字を合わせれば開くという単純な代物。上から4・9・1と数字を合わせれば開く。坪井君このカギを見て目が爛々と輝いてきた。
そして記憶に残る坪井君の一言「491番。おい花木、これはえ〜番号だぞ。491という数字はキリスト教の世界では罪深い数字と言われている。491回目の罪を犯すと許されないが490回までは許される。つまりだこの部屋では490回までは何をやってもえ〜という事やで!」
私もなんとなくそんな気持ちになってきたが今から思うと何と勝手な解釈であろうか。

ともあれこの部屋で大した悪事は無かったが1升ビンを抱えての坪井と私の夜を徹しての語らいの場となった。
ちなみに酒の肴はいつも豊橋名産ヤマサちくわの製品であった。また当然テーブルもヤマサ印、ダンボール箱にヤマサちくわの緑の包装紙をふんだんに張り付けて化粧した豪華なものであった。
やっぱりヤマサは、うみゃ〜であかんわ!ヤマサさんお世話になりました。 (数日後、心配するといけないので親に電話し何処にいるかだけは連絡しました。家出というよりはしばらくの別居ですね。)