エピソード6
 「お中元配達」


時はさかのぼってまだ春日井に家出する前のことである。季節は夏、………お中元のシーズンである。
現在でもまだあり、犬の散歩でよくその前を通りかかるが近所に老舗デパートとして有名な松坂屋の配送センターがある。
その昔、私がそこを通りかかった時、建物の壁に貼られた小さな募集広告を見つけた。「配達員学生アルバイト募集!」とある。

早速その事務所を訪れ詳しい話を聞くと大きさ重さに関わらず1個につき25円の配達料がもらえる。
そして配達には自転車を使うのだが、荷台に大きな箱がついていて荷物が落ちないようにネットがかけられるようになった専用の自転車が貸りられる。それに都合のいい日に行けばいいし私にはもってこいのバイトである。

当時の私にとってかなり高価な中村区の住宅地図を買わされることになったが地図が無ければ仕事にならないから仕方ない。それにちょっと頑張れば地図代なんてすぐ回収できるだろうしそうすれば割といい稼ぎになると思いこのバイトを始めることにした。

しかし考えは甘くやってみると非常に効率が悪い。自転車に乗る荷物の量などたかが知れている。
荷台の箱にいっぱい詰め込んで(と言ってもたいした数ではない)真夏の炎天下をエッチラエッチラ自転車を漕いで配達し、また配送センターまで荷物を積みに戻る。大きな荷物が当ったら数個しか入らず目も当てられない。
「これは割りに合わんわ。」自転車を漕ぎながら私は思った。
「………そ、そうだ!坪井がちょうどえ〜車を持っとる。荷物もかなり載りそうだし、あの車を使わん手は無いわな。」「二人でペアーになってやれば今の3倍、4倍……いや5倍は運べるな。」となんの根拠もない計算をし収支計画を立てていた。私は昔から計画を立てるのが得意で立派な計画を立てる。

その後、社会人になってからも勤め先でその企画力は度々褒められた。しかしながらその計画を実現するのが極めて苦手である。全て計画倒れ、これでは何もならない。話が少し横にそれたが、とにかく坪井君を誘って二人で宅配のアルバイトを始めることにした。
ずっこけコンビの運送屋さんの誕生である。