素人写真

 

今年はだれやらの二百回忌だとか婆様が言う

そんなことまでは知ったこっちゃない

ヨメは心中密かに思う

 

ヨメはこのごろ道楽を覚えた

この家に来て二七年 子供たちも大人になり

仕事の合間にデジカメとかでなにやらを撮る

所詮ナニヤラ 何ほどでもないが

正月には鏡餅を撮り 屏風や掛け軸を撮った
 

梅雨の合間の曇天の今日は家の周囲を徘徊

緑濃い木々を物色している

春一番に色を思い出させる八重咲きの紅梅は

幹が傾いで大きな庭石に腰を就いている

葉の繁りも疎らで老木になって久しい

はて この庭石を支えにしたのは

その二百回忌の人だろうか

秋ともなれば庭いっぱい落ち葉を散らし

屋根に当たる音が雨かと思わせる

楡の大木はとても二百歳ではきかぬだろう
 

ヨメは木を見上げ葉から覗く白い空を写す

ナンテン ユズリハ ツツジ ヤツデ

その逞しすぎる枝ぶりがヨメには不思議だ

今の家が築八十年だと知ってるヨメだが

先祖がいつからここに居たかヨメは知らない

なにやら感じつつカメラを木々に向けている

 

庭には花もある 牡丹 露草 鉄線 芙蓉

何年も見過ごしてきたが いつも咲いていた

これが爺様の努力の結果と

それを知ったのも道楽を始めてからのこと

 

ヨメは時の連なりを思う

木を植えた祖先

庭石を置いた先祖

それを丹精する爺様

先祖を供養する婆様

ヨメはほっこり心の連なりを思う

 

家の裏手に見たことのない花を見つけ

ヨメは必死でシャッターを切る

高い木の上では花の形がわからない

ズームで近寄り 構図で下がる

亭主にこの花の名前を聞きに走ると

亭主は笑って「合歓の木だろう?」

合歓を知らないヨメではないが

この木ばかりはそう見えなかった

この家は深い ヨメはしきりと頷いている

 

ヨメは法要をどうするつもりだろう

                   

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