第3章


次から次へと流れてくる想念に振り回されて、観察できないのはなぜか?

武 「やる気想念」と「サボリ想念」が入れ代わり立ち代わりやってくる・・・
  このままじゃ、またサービス残業になっちゃうよ。
  何とかしなきゃ。


仙 ふぉっふぉっふぉっ・・・苦しいのう、たまらんのう。


武 色々と想念を分析しているんですが、何の脈絡もありません。
  自分の意識がどんな状態なのか、わけが判らなくなりました


仙 そうやって「混乱している自分」を見ているのは誰かね?


武 ・・・もう一人の落ち着いた自分です。


仙 そうじゃ。
  後者の、「見ている自分」を保っていればいいことじゃよ。
  病人モードの自分を、医者モードの自分が見ている、と考えれば、不要な葛藤をしなくて済むじゃろうが?


武 でも、いつも「混乱している自分」の方に引っ張られ続けるから困ってるんです。


仙 そこで想念観察の熟練度が試されるね・・・
  「どれだけ想念に呑まれずにいることができるか」じゃよ・・・
  前にも「ベルトコンベア」だと言ったじゃろうが?
  その上を次々に流れてくる品物は、元々何の脈絡もないんじゃよ。
  今の君はその一つ一つの品物にこだわっているから、流れが停滞するんじゃ。
  人生の浪費じゃね。
  「サボリ想念なんかに同意するもんか!」と君はリキんでおるじゃろう。


武 そうなんです。
  でも結局負けちゃうんだよな・・・
  教えられたとおり、一生懸命「見ている」つもりなんですけど・・・


仙 まだまだ「教えられたとおり」にはやっておらんぞ。
  想念の圧力に屈してしまうのは、君がエネルギーを注いでいるからじゃよ。
  同意するもんか、と抵抗するからどんどん膨らむんじゃ。
  「同意するもんか」という想念を見ていられるほどには後ろに退けていない、ということじゃ。
  なぜだと思うね?


武 だって、同意したら元のモクアミじゃないですか。
  そんなの嫌ですよ。


仙 判断しないように、と言ったのを忘れたのかね?
  見ているつもりで、混乱した状態を「悪」と「判断」し、それを拒否しようとするから葛藤するのではないのかね?
  つまり、病気を「悪」とみなし、これをひたすら排除しようとしている。
  「見て流す」つもりが「見て流れを止めている」んじゃよ。


武 ・・・まだ、初歩的な段階でつまづいているんだなぁ。


仙 さまざまな刺激が外にはあふれているんじゃ。
  だから、脈絡のない想念が次から次へと浮かんできても、別に「自分はダメなんだ」とか「未熟だ」「悪だ」などと決め付けなくていいんじゃよ。
  他人事のように、映画を見ているように流しなさい、と前に言ったじゃろ?


「想念=雲」「想念=ウンコ」

仙 君たちが、相も変わらず想念に振り回されておるのはなぜか・・・
  それは「想念」、特に「ネガティブ想念=嫌なもの」とみなし、どうにかこれを押さえたり、加工しようとしたりしておるからじゃ。
  ・・・そもそも「怒り、不満、嫌悪、怨み」などの想念に「ネガティブ」などというレッテルを貼っているのは、君たちなんじゃからね。
  「想念」とは、雲のように際限のないものじゃ。
  現われては消え、消えては現われる。
  山にかかった雲をふもとから見ているとしよう。
  山に登ってみて、果たして雲は掴めるじゃろうか?


武 掴めません。


仙 そうじゃ。
  あたり一面ガスの海じゃ。
  外から見ることはできても、雲の中に入った途端、その正体が見えなくなる。
  そして自分の周囲も見えなくなり、終いには、雲の中にいることさえ、麻痺して判らんようになる。
  想念とは、そんなもんじゃよ!


武 僕のやっていることは、雲を必死で掴もうとしているようなものだ、と言うんですね?


仙 そのとおり!
  雲は、外からは見えるが、中に入っても掴めない。
  その得体の知れないものに答えを望んだところで、それは徒労というものじゃ!
  雲を掴もうとするのではなく、その発生源、つまり「想念」の根っこをよく探ってみること  じゃ・・・逃げずにな!
  もともと想念とは、避けるべきものではなく、むしろ愛すべき君の分身なんじゃよ。
  想念はウンコと同様、元を正せば身から出たものじゃ。
  君の成長に貢献してきたんじゃ。
  「体験」という料理を食べた後に、消化し、吸収され、出てきたものが想念、すなわちウンコじゃな。


武 な、なにもウンコにたとえなくても・・・


仙 トイレに行って、流れ行くウンコを見てみよ!
  必要な栄養素を消化吸収されて出てきたウンコは、ほどよい固さと色合いをもち、スッキリ感を伴って出てゆくものじゃ・・・そう思わんかね?


武 どんどん、汚い世界に入っていく・・・


仙 自分から出たウンコを「汚いもの」などといって嫌う君のエゴが、「悪想念」だから排除しよう、などという作用にあらわれるんじゃろうが!
  よいか!
  スッキリとしたウンコはいいんじゃ。
  しかし、下痢はいかん!
  いい栄養素がみんな、出ていってしまうからな。


武 ますますついていけませんせんが・・・


仙 君のように、「悪想念=嫌なもの」・・・だから何とか手を加えよう、排除しよう、などという態度を取っていると、キッチリ消化吸収できるまで何度も、その「想念」を味わうことになる、と言っておるんじゃ!


武 ・・・「悪想念」が出ていってくれるように、とにかく想念観察しなきゃ、って感じで力が入りすぎていたかもしれません。


仙 ウンコはリキんで出すものではないじゃろ?
  必要なくなったら、自然に身体から出ていくものじゃ。
  想念をひたすら見続けることによって、本来の己の姿が見えてくるんじゃよ!
  逆にいえば、喜びや怒り、快感や不快感といった想念がなければ、君は自分の本質に気づくことすらなかったはずじゃ。
  君の成長のために、無償で気づきを与え、貢献し続けてきた想念を、それでも君は排除しようとするのかね?
  想念の働きが偉大だと思わんかね! 愛しいと思わんかね!
  感謝の気持ちが湧かないかね?


武 ・・・そう言われると、「想念」に頭が下がる思いです。


仙 自然にそこに気づいていけるようになるまで、これからも見続けることじゃ。
  想念観察にアンチョコはない。
  地味で根気の要る作業じゃ。
  しかし、この方法が君たちには一番無難で安全なんじゃよ・・・


想念の正体が見えず、モヤモヤした状態が続く時はどうするか?

武 想念を見ていると、「何かもやもやしていて意味が判らない」状態が続いていることがあります。
  こういう場合は、どう解釈したらいいんですか?


仙 ひたすら「見る」のみ!
  そんな状態をただ黙って「堪能」していればいいんじゃ。


武 でも、「何か」をしたいんだけど、時間ばかりが過ぎちゃって・・・
  だから「何かしなくちゃ休みが無駄になる!」とか、「自分は進まなくちゃいけない」とか、そのモヤモヤが葛藤になって、段々イライラしてくるんです。


仙 同じことを何度も言わせるんじゃない!
  そんな時は、「悩んでいない自分」の方にスイッチすればいいんじゃよ。
  まず、「イライラしている自分」がいる。
  それと同時にそんな状態に気づいて「自分は今イライラしている、と自覚している自分」もあるはずじゃ。
  その時、想念には飲まれておらず、離れた状態じゃ。
  「ゆとり」ある状態なんじゃ。
  そのゆとりの中で、自分のイライラを紙に箇条書きに書き出してみるんじゃよ。
  ・・・そして自分自身の意識に「なぜ、なぜ」と質問を繰り返してみるんじゃ。


武 あ、そうか。
  「イライラ=悪」と判断するからいつまでもつきまとうんですね?


仙 だから「堪能しなさい」と言っておるんじゃよ。
  それが余裕、ゆとりをもつ、ということじゃ。
  君の言う、その「イライラ」状態は、潜在意識の仕業なんじゃよ。
  何もしていないのにモヤモヤ、イライラするというのは、潜在意識の下にあるエネルギーが表面に出ようとする時に起こる。
  潜在意識と表面意識は常に綱引きをして力比べをしているんじゃ。


武 どういうことか、さっぱり判りません。


仙 想念の言いなりになって、麻痺した意識で君は生活していたね。
  その後想念観察を通じて、君の表面の意識は徐々に混乱状態から抜け出し、整理されてきた。
  すると、生まれてから今までの間、意識の深いところに沈んでいたものが、次第に浮かび上がり易くなってくる。


武 表面の意識が活発なときは、下の方の意識はそのままだけど、表面が落ち着くと、下の方の意識が活発に上に上がろうとする・・・こういうことなんですね?
  なぁんだ・・・ってことは、むしろ喜んでいいことなんだ!


仙 だから「堪能しなさい」と言ったんじゃよ。


武 でも、なぜモヤモヤなんですか?
  下に埋もれていたものだから意味を理解できない、ということですか?


仙 潜在化して君に影響を与えている癖とも言えるかのう・・・
  遠い昔の前世の苦しい記憶がよみがえってきても、今の君のエゴ・フィルターのデータでは適切にそれを翻訳できないこともあるんじゃよ。


納得癖が行き過ぎるとエゴの奴隷になる

仙 いちいち納得しないと気が済まないタイプの人間が、意味不明のこのモヤモヤに出会ったらどうなると思うね?


武 結局は理解できないんだから、ますます葛藤すると思います。


仙 その状態が今の異常犯罪者の現状なんじゃよ。
  突然人を刺し殺してみたり、暴力をふるってみたり・・・ほとんどが無職の無気力・怠惰人間のはずじゃ。
  こういう人間は、常に何の目的もなくただ日々を過ごしているね?
  しかし、働いてないから生活費はない。
  おまけに「金がない」という事実が判っているのに働こうとしない・・・完全に人格が崩壊しておるわけじゃ。
  自堕落で破滅的な行動を繰り返していると、だんだんその意識や態度が定着して、「自分が一体何をしているのか?」という自戒の意識がなくなってしまうんじゃ。
  そして狂気の想念に反応してしまう!


武 そんな人が周りにいっぱいいるかと思うと、ぞっとします。


仙 ・・・わかっとらんのう。
  一歩間違えばその世界に転がり落ちるかもしれないのが、今の君の実態じゃろうが!
  「通り魔犯罪」は、その行き着いた先じゃ。
  「盗みを働く」とか、実際に行動して発散している人間の方が、何もせずにエネルギーを貯めこんで、いずれ殺人へと走る人間よりはまだマシかもしれんね・・・


武 でも「納得タイプ」の人間だったら、ちゃんと仕事するくらいの理性は働くんじゃないですか?


仙 我が身を振り返って考えてみるんじゃ。
  君はヘリクツや言い訳が得意じゃろ?
  「納得」はエゴの得意技なんじゃ。
  エゴは自分を正当化するためならどんな材料でも使うんじゃよ。
  つまり「自分はこの汚い世の中に反抗して働かない!」とか、「あくせく働いている人間は権力者の奴隷だから死んでも構わない!」とかじゃね・・・
  これは実際にわしらが観測した人間の意識のデータじゃ。
  いちいち納得したがる癖は、意識の進化にとって障害となるんじゃ。


武 無気力人間に異常心理を抱えている人が多いとすると、浮浪者なんかもそうなんですか?


仙 たしかに似てはいるが、彼らの場合は世間や社会に対する見栄、体裁といった意識がないじゃろう?
  怠惰人間はプライドまでは捨ててないから、かえって始末が悪いんじゃ。
  異常心理の人間と言えば、他には「消滅を選択している人間」かのう・・・


武 「消滅!」ですか?・・・しかも自分で選択するんですよね?


仙 そりゃそうじゃよ。
  本人は意図して選択したつもりはないかもしれないがね。
  この時期に来て、自分の人生に何の疑問も持たない、自分の生活や行動についてチェックする機能が働かないような人間は危ないんじゃ。
  しかしそんなことは、消滅を選択したその人間にとっては大きなお世話じゃろ?
  だからあえて知らせる必要もない、ということじゃね。


武 キビシーなぁ・・・


仙 君に一つの事実を伝えよう。
  「宇宙は進化の可能性のない人間には無駄な労力は割かない。」
  わしが君にこうして指導をしておるのも、君には進化の可能性がちゃんとあるからなんじゃ。


武 僕みたいな人間でも、まだ救いがあるんですね?


仙 もちろん君以外のたくさんの人間にも、その可能性は大いにある。
  わしも君一人を相手にしているわけではない。
  一人の人間を気づかせ、覚醒させることができれば、その気づきはどんどん周囲の人間たちに伝播していく。
  だがわしらの経験、テクニックをもってしても百%成功するわけではない。
  人間の意識の動きの複雑さは生半可なものではないからじゃ。


武 まだまだ理解できませんけど、頑張ります。