(1)細胞の観察
細胞の発見は、1665年に英国のロバート・
フック(Robert Hooke)が手製の顕微鏡
を用い
て、コルクの栓の薄片(コルク樫の樹皮)の細胞を観察し、著書「ミ
クログラフィアMicrographia)」
に記載したことによる。1838年、シュライデンSchleidenが植物で、1839年、
シュワンSchwannが動物で、細胞説を提唱
し、その後の生物学にとって大きな足跡を残した。「細胞は、形態の面のみならず、機能の面からも生物体
の基本的な単位である」という考えから、細胞は生物学Biologyにとってもっとも重要なものとなり、細胞
を研究することはそのまま生命を探求することとの認識から細胞学Cytologyの勃興となった。そこで細胞の
観察実験を考えて見たい。
【材料】
タマネギ Allium cepa L. が、細胞の観察に最もよく使われる材料である。しかし、なぜタマネギが細胞
の観察の材料として使われるのであろうか。深谷ネギとかラッキョウを細胞観察用に使ってはいけないのだ
ろうか。だいたい生のタマネギは皮をむく時涙が出てたまらない。この意味から言っても、学生実習用には
けっして良い材料ではない。
【器具・薬品】
酢酸で固定して、カーミンとかオルセインで染色するのが、常套手段である。すなわち、酢酸カーミンと
か酢酸オルセインを常に実験台の上に置いておくのが当たり前となっていよう。しかし、もう学校の実験室
が使えないので、自宅の粗末な顕微鏡で細胞を観察しようとすると、さて、何で固定して、何で染色するか、
はたと当惑してしまう。酢酸の代わりに食酢(米酢、これは「よねず」と読むのが本当だが、最近はテレビ
でも「こめず」と読んでいる。【注:】Wikipediaの「酢」の項では米酢(よねず)と読むが、
丸正酢醸造には「純こめ酢」という商品
がある。 )を使うことが考えられるが、色素には何を使ったらよいだろう。核の染まる天然の色素が、身近で
見付かると有り難い。
【実験の手順】
まず、実験台の上を実験しやすいように、整理整頓してから始める。室内や机上が、乱雑に散らかって
いるのには、原因が二つある。部屋の中を、片づけることをしないで使い放しにしておくと、ますます散
らかっていく。これは、人間活動と共に室内のエントロピーが増大するからである。怠け者の部屋を見る
と良く解る。そうかといって、きちんと片づけてあるのが良いかというと決してそうではない。片づけら
れた部屋は、中に誰も入らなければ、部屋の中は何時まで経っても散らからない。これを静的な整頓と言
い、死んだ室内である。人の出入りの激しい動的な室内は、人間活動に合わせて乱雑に散らかってくる。
しかし、これは静的な整頓に比べ、活発な人間活動の証であって、かえって喜ばしい。すなわち、散らか
るのは人間活動の結果であるが、散らかる原因には、怠けていて散らかる場合と、活発に活動するから散
らかる場合の二通りがあることになる。
実験の手順なんてものは、実験する者が自分で考えるべきものである。試行錯誤の繰り返しも良し、賢
明な洞察力で見事に実験をして見せるのも良し、であろう。
【実験結果】
細胞の観察であるから、結果は図で示すことになる。生物実験の描図は、昔から結構うるさいことを言
われている。しかし、これは何も決まりがあるわけではない。水彩画、油絵、写真、CG、3D、動画と、
今日は何でも出来る時代である。要するに、自分の得た実験結果の何をアッピールしたいかを明確に示し
さえすれば良いのである。
【リンク】
原核細胞と真核細胞
<練習問題>
次の文中の空欄のA〜Fに適する語句を記入せよ。
1665年、イギリスのロバート・フックが細胞を発見した。ロバートフックが、発見した細胞の
スケッチを
机の引き出しにしまい込んで忘れていたら、細胞の発見者たる名誉は、他の科学者の頭上
に輝いたかも知れない。すなわち、個人の業績は社会的に評価されなければ存在しない。現在、自分の
研究の成果を社会的に公表するには、所属する学会の学会誌に論文を投稿し、掲載して貰うことであろ
うか。しかし、これは、そう簡単なことではなくて、論文を審査する審査委員会なる機関が学会内に存
在し、その審査をパスしないと、日の目を見ないことになるのである。ところが、最近は、電子機器の
発達により、インターネット上で自由に発言することが出来るようになり、更に、自分のホームページ
上で、自由に意思表示が出来るようになった。
話は戻るが、1665年当時、イギリスに学会誌があったかどうか定かではないが、もし、存在していれば、
ロバートフックの「細胞の発見」の論文が掲載された学会誌があったかもしれないのである。ニュートン
によって、全て焼き捨てられたとされるロバートフックの肖像画と共に、この論文が見付かるようなこと
になれば、科学史上の大発見となることに間違いないであろう。
ロバートフックは、この「細胞の発見」を、自費出版かどうか解らないが、著書[ A ](微
小生物図解)の中で、示したのである。この書物の出版の目的は、『顕微鏡を使って観察研究した微小物体
についての自然学的な記述』であると述べている。自分の手製の顕微鏡による成果の公表が目的であって、
決して「細胞の発見」を意識したものでは無かった。その証拠に、この本の中でもっとも有名なものは、
観察53に見られる[ B ]のスケッチである。
細胞の発見に関わる部分は、観察18「コルクの形態、組織、およびコルクと同じように泡だらけの物
体に見られる小部屋(英語でセル Cell)〔細胞〕と孔とについて」である。この中のスケッチを見ると、
現在の顕微鏡の視野の様子と違って、細胞壁が白く、何もない周囲が暗いのである。これは、透過光線
ではなくて、[ C ]光線を使って観察したからに他ならない。
ロバートフックが、コルクの切片の観察を試みた理由は、三つある。その一が[ D ]で
あり、その二が[ E ]であり、その三が[ F ]という疑問である。そして、これ
らの疑問に対する答えが、コルクの中の小部屋〔細胞〕の発見だったのである。
<解答>
A:[ミクログラフィア]、 B:[ノミ]、 C:[反射]、D:[コルクはどうして軽いのか]、
E:[なぜコルクは水に浮くのか]、F:[コルクはなぜ弾力があるのか]
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