(3)ゾウリムシの走電性
基礎生物実験集ホームページの掲示板(BBS)『ヴァーチャル生物学入門』に次の質問が書き込まれました。
質問です 投稿者:mikyha 投稿日: 5月 5日(月)01時06分15秒
はじめまして。ゾウリムシの走電性について知りたいのですが・・・。どうして電気を流すとマイナスに移動するのですか?繊毛の動きから
考えたらくるくる回りそうなのに。先生は安定するからとか言ってたんですけど、どうも納得いかなくて・・・
よろしければ教えてください。お願いします。
続いて、僕からの解答です。
少しお待ちなさい 投稿者:M.Saitoh 投稿日: 5月12日(月)10時04分02秒
mikyhaさん
掲示板への書き込みに気づかず、お返事が遅くなりました。せっかくの質問ですので、生物学がご専門の先生方にメールで問い合わせています。また、生物学の専門家の多く
参加しているJissenMLへ投稿して君の質問に対するわかりやすい解答を求めています。
次の宮城教育大学のゾウリムシの研究室のホームページがこの実験には参考になります。
【リンク】
ゾウリムシの走電性
また、埼玉県の高校の生物の先生のやった次の実験も参考になります。
【リンク】
<テーマ>:ゾウリムシの走電性
但し、きみの、質問の解答は、これでは得られないでしょう。少しお待ちなさい。
ゾウリムシの繊毛運動(1) 投稿者:M.Saitoh 投稿日: 5月12日(月)10時56分42秒
mikyhaさん
ゾウリムシの繊毛運動がはっきりと明瞭に見られるサイトを見つけました。
そして、次のような説明がありました。
『下の図は,ゾウリムシの細胞表層構造のシートです(開きのようなもの)。ATPを含む溶液を与えると
繊毛運動が起こります。』ゾウリムシの繊毛運動にはATPのエネルギーが必要なのですね。
【リンク】
ゾウリムシの繊毛運動
ゾウリムシの繊毛運動(2) 投稿者:M.Saitoh 投稿日: 5月12日(月)11時56分08秒
mikyhaさん
次のような文章の載っているサイトを見付けました。ゾウリムシの繊毛運動は膜電位によるのですね、
しかも、カオス(という数学があります)的に。
「ゾウリムシという微生物は体表面にある繊毛を動かして運動する。餌を捜すためには、餌の濃度の
高い方へ動けばよいわけだが、ゾウリムシにとっては、この濃度の差を体長を使って測ることができな
い。なぜなら、濃度のゆらぎの方が体長差による平均濃度変化より大きいからである。では、ゾウリム
シはどのように生存戦略をたてているのだろうか。D.E.Koshlandたちは、大きくでたらめに動いてそこ
で濃度を知り、前の位置より高ければそのまま進み、低ければ反転して餌を捜すのだろうと考えた。こ
れが正しいとすれば、でたらめに動くことが必要なのであり、それを実現するためにはカオス的に運動
することが重要になる。これは生物に備わっている基本的な運動と密接に関係している。繊毛を動かす
メカニズムは膜電位で、この膜電位の発生は非線形方程式に従っている。ゾウリムシはカオス的電位を
発生することが可能なのである。」
【リンク】
カオスとゾウリムシ
ゾウリムシの繊毛運動(3) 投稿者:M.Saitoh 投稿日: 5月12日(月)19時59分29秒
東京大学名誉教授の高橋景一先生から頂いたメールによると、ゾウリムシの陰極側の繊毛運動が逆転する
Ludloff現象で説明出来るようです。詳しくは、内藤 豊著「単細胞動物の行動:その制御のしくみ
(UP Biology No 85)」(東京大学出版会1990年発行)72-73頁にあるとのことですので、図書館で
お借りになって読んでみなさい。僕も読んで勉強します。膜電位について、更に勉強してみなさい。
お茶の水女子大学の馬場昭次先生にでもお聞きになると、さらにもっと解りやすくお教えくださるか
も知れません。
【リンク】
単細胞生物の重量感覚
ゾウリムシの構造
ゾウリムシの繊毛運動(4) 投稿者:M.Saitoh 投稿日: 5月12日(月)20時20分36秒
東京都立大学の電気生理学がご専門の黒川信先生から次のようなメールを頂きました。
ご質問があれば、黒川信先生
へメールで質問しなさい。
ゾウリムシの繊毛逆転(繊毛が打つ方向が逆になり、逆向きの推進力を得る事)は細
胞がもつ電位(膜電位)の変化によって起きます。
即ち、ふだんは「細胞内が(細胞外に対して)マイナス」で、この時はソウリムシは
ふつうに前に進むみますが、物に接触したりすると一時的に脱分極、すなわち「細胞
内がプラス」の方向に変化し、その結果、(一時的に)繊毛逆転が起き、後ろ向きに
泳ぎます。(逆転の推進力は、通常の推進力より弱いです。)
培養液に人工的に電圧をかけると、電流はプラス極側からマイナス側へ流れます。こ
の電流は、ゾウリムシの体のプラス側半身の細胞膜を外側から細胞内へ流れ込み、マ
イナス側の細胞膜を外側に向かって流れ出ることになります。
細胞膜を横切って、内側から外側に向かって流される電流は、細胞膜を「脱分極」さ
せる電流です。
細胞膜が脱分極されると、その部分で繊毛逆転が起こります。すなわち、マイナス側
の半身の繊毛が逆に打つ事になります。(ふつうの池の中では、そんなことはまず起
こりませんが。)
電圧をかける前に、ゾウリムシがどちらを向いているかによって、電圧をかけたとき
の動きが異なります。
1.もともとマイナス方向を向いて泳いでいた場合:前半部の繊毛逆転が起こりま
す。後半部はもともとの前方向への推進力を維持します。(ということは体の前半と
後半とで逆向きに推進力が働くことになりますが)後半部の前進方向の推進力の方が
(逆転した前半部の逆推進力より)強いので、マイナス方向へ進むことになります。
(2.で説明するように、様々な方向を向いていたゾウリムシも最終的にはすべてこ
の状態になってマイナスをめざしています。)
2.もともと、プラスーマイナス極方向に対して、直角や斜め方向を向いていた場
合:やはり、体の(マイナス極方向に面している)半身の繊毛が逆転するために(ボ
ートを漕ぐ力が左右で違ったときのように)回転がおこります。が、ここで注意して
ほしいのは、回転し続けることはないということです。なぜなら、回転力は、マイナ
ス極方向に向いた状態(1.の状態)に向かって働き、それを境に逆回転方向に働く
からです。
左右10対のオールのボートを考えて下さい。(1.の状態とは)後方5対のオー
ルの推進力の方が、前方5対が逆向きに漕いだ力より強いので前に進みます。
マイナス極に対して、時計方向に90度の方向を向いていると、、右10本は前向き推
進力、左10本は逆向きの推進力となり、反時計方向に回転します。途中の角度でも、
ボートの中点を通る線を境に前向き推進力と逆向き推進力のオールができますが、結
局マイナス極に向かう方向への回転力となります。)
問題なのは、プラス極を向いている時。後半5対が逆に漕いでも、前半5対がしっ
かりプラス極方向へ漕いでいればそちらへそのまま進みそうです。しかし、ゾウリム
シを観察して分かるように、決してまっすぐには進みません。そして、ちょっとでも
体の方向が曲がると、左右の推進力に差が生じて、一気にマイナス方向を向くまでの
回転が起こります。
【リンク】
神経生物学研究室
ゾウリムシの繊毛運動(5) 投稿者:M.Saitoh 投稿日: 5月16日(金)19時15分03秒
mikyhaさん
お茶の水女子大学理学部の馬場昭次先生から、次のようなご解答がありました
ので、ご紹介します。
『+極からー極に向かって電流が流れている。
まず,ゾウリムシが電流の方向に斜めに泳いでいる,つまりー極に向かっていな
いとする。電流は,ゾウリムシの+極に向いている側から細胞内に流れ込み,ー
極に向いている側から流れ出る。(電流が流れ込んでいる部位では過分極,流れ
出ている部位では脱分極が起こる。過分極で繊毛打の正常打の強化,脱分極で逆
転打が起こる。実際には様々な中間状態が起こる。)電流の流れ込む側で正常打
の強化,流れ出る側で逆転打が起こり,ゾウリムシの前端がー極を向くような回
転力が生じる。
電流の方向に泳いでいるとする,この場合電流による回転力は生じないので,そ
のまま泳ぐ。部分的に逆転打が起こっているので,正常打と逆転打のどちらが強
いかで進む方向が決まる。通常は,正常打の方が強いので前端を向けている方に
泳ぐ。(適応と言うことがあるので,一定の刺激が続いていると正常状態に戻っ
ていく。つまり,正常打が支配る的になる。)
これで,大部分のゾウリムシはいずれー極に向かって泳ぐようになる。
少数の始めから+極に向かって泳いでいたゾウリムシはそのまま+極に向かって
泳ぐことになる。ここで,置いておいた基本的性質がきいてくる。+極に向かっ
て泳いでいたやつが,(油断して)ちょっと脇見をすると,たちまち例の回転力
が働きー極を向くように回転する。』
ありがとうございました! 投稿者:mikyha 投稿日: 5月15日(木)00時55分38秒
親切な解説ありがとうございました!
私自身もあれからいろいろ調べたんですが
あんまりよく分からなくて・・・
だから本当に勉強になりました!
生物学は大好きなのでこれからも頑張っていこうと
思います☆ありがとうございました!
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