オカルトでっかち 著者:松尾貴史
おすすめ度:★★☆(2.5点) ジャンル:オカルト否定本
 個性派俳優・松尾貴史の説く、「オカルトなんか嘘っぱちだ!」本(笑)。
 自身は、以前はオカルト肯定派、今は否定派に鞍替えしたらしい。元は、1995年に出版した『カルトの祓い方』という本を、新たに加筆訂正したものらしい。
 とにかく、所謂オカルト的なモノ、超能力、占い、ダウジング、風水、迷信等々を、徹底的に客観的・合理的に見直し、その矛盾点を突き、オカルトを「完全否定」している。訂正前は、もう少しグレーゾーンが多い内容だったらしいが、この本に至っては、完全にバッサリ、である。
 まあ、本文にもある通りで、あくまでこの文章はエッセイであり、「松尾貴史は、全く信じていません」という宣言ではあっても、「何となく信じて、生活のアクセントにしている」程度の人達まで全否定してはいない。むしろ、こういった人の心のダークゾーンを悪用し、人を不安に陥れて出鱈目を吹き込み、そこから暴利を貪る、
 細○木 数○子
のような外道を罵る、という程度の内容に留めている。
 まあ、オカルトを、一時の刺激として遊ぶくらいの付き合い方ならまだいいとして、それによって人生を狂わされたり、反社会的行動に出て、世間に迷惑を掛けないように、という勧告の書、といったところか。
H200903


神戸ぶらり下町グルメ 著者:芝田真督
おすすめ度:★★★★☆(4.5点) ジャンル:B級グルメ紹介本
 帯の売り文句「神戸いいまち旨い街 レトロな町を食べある記」どおりの本。

 震災後、区画整理などで急速に街の様子が変わりつつある神戸において、昔ながらの雰囲気や味を残している食べ物屋の記録。その紹介されている店は、なるほど、表通りにはない古風な大衆食堂ばかりである。
 メジャーなグルメ本に載せるのは、勿体ない、味のあるお店のオンパレード。神戸新聞総合出版センター発行だけはある、地域密着型の内容である。
 へたをすると、民家にまぎれて、実際に訪れても発見出来ないかも知れないほどの、下町レベル店ばかりである。大丈夫なのかな?と、心配になってしまうほどのラインナップだが、意外や意外、ヘタな高級店より心惹かれる名店揃いである。
 ちなみに、この本にも紹介されていた「大連」というラーメン屋に行ってみたが、他人にはあまり紹介したくない、それくらい大事にしたい良い雰囲気のお店であった。ハッキリ言って、変な客に荒して欲しくない(笑)。

 紹介の仕方も、そのような店に対する愛情を感じる、好感度の高い、真面目な本。美食家には、

 近寄ってくれるな

そう言いたい良書である。
H200524


見えない世界の覗き方―文化としての怪異 著者:佛教大学文学部編
おすすめ度:★★★★(4点) ジャンル:妖怪民俗学入門
 佛教大学文学部主催のシンポジウムを、本に起こしたもの。
 佛教大学、粋なことをやりますな!ゲストが数人いるのだが、小松和彦と京極夏彦、この二人を揃えた功績は、とても大きい。妖怪、あるいは怪異というものをキャラクター「ではない」側面から切り込むのに、最適な人選である。
 所謂学会ではなく、シンポジウムなので、あまりディープすぎる所までは突っ込んでいないが、それでも、妖怪初心者には、結構ハードルが高いのではないか。
 小松も、京極も、妖怪や鬼などに関する研究に関して、言いたいことは一貫して、
 モノとコトとは違う
ということである。つまり、ある妖怪(モノ)がいて、その結果ある現象(コト)が起こる、と大概の人が考えてしまっているが、実は、ある現象(コト)が起きて、それを説明しようとする時に、ある妖怪(のようなモノ)に仮託する、ということである。
 妖怪を研究する際には、まずその部分を注意しなくてはならない、と両氏は強調している。
 異界を覗くためには、まず自身の覗き眼鏡をきれいに掃除しなくてはならない、ということである。でないと、歪んだり捻じれたりして、本来と全く違うものが見えてしまう。しかも、その捻じれた方が魅力的に見えるものなので、なおさら厄介なのである。
 志ある人よ、どうか正しい目で妖怪を掘り下げて欲しい。
 そこまで突っ込んで考えようとは思わない人も、この本はいっとくべき。妖怪好きなら、押さえなくてはならない基本中の基本です。
 惜しむらくは、その他のゲストが、小松、京極に太刀打ち出来ていないところか(笑)。



 講演中、京極が、「尊敬している」水木しげるを、強烈に(やんわりと、だが)批判しているのが、面白い。まあその齟齬は、水木先生がロマンチスト、京極がニヒリストであることに由来するので、どうしようもないのだが(笑)。
H200209


インドなんて二度と行くか!ボケ!! 著者:さくら剛
おすすめ度:★×32(32点) ジャンル:爆笑インド旅行記
 ネットにディープな人なら、むしろオリジナルを知っているのではないか?
 ネット旅行記『ふりむけばインディアン』を単行本化したものである。

 インドという国は、たいそう不思議な国で、インドを訪れた人は、必ずこう言う。
「インドは、『好き』になるか『嫌い』になるかのどちらかだね」

 全くその通り(笑)。

 で、普通の神経の持ち主は、基本的に嫌いになりやすい。
 この作者は、とりあえず、物凄い剣幕で、インドを罵倒する(笑)。特に、インド人がどれだけ金に対してえげつないか、を(笑)。しかし、彼の文体から感じられるのは、そんなどうしようもない奴(インド)への、彼自身でも説明のつかない
 歪んだ(笑)
愛情である。
 ヒトが生きる、という事に、これほどまでストレート(むしろ動物的)は人達には、なかなかお目にかかれない、と思う。しかも、それがほぼ全国民とあってはなおさらだ(笑)。

 とりあえず面白いものを読みたい人は、いっとくべき。旅行したくなるよ。いやむしろ嫌になるか?(笑)。

 ちなみに、この著者、私と同郷であった。私と同郷の人間って、とんでもない変わり者ばっかりか!(笑)
H200117


都市伝説王 著者:世界博学倶楽部
おすすめ度:★★★(3点) ジャンル:都市伝説紹介本
 PHP出版の、よく知られている都市伝説を集めた、概略本のようなもの。
 この出版社の得意技「出勤途中の電車の中でも、気軽に読める」というコンセプトが遺憾なく発揮されている。
 基本的に、30歳台〜40歳台をターゲットにしているのだろう、その世代が子供の頃に、良く耳目に上ったものが中心になっている。なにしろ、一発目が、
 「口裂け女」
である。その他、「ピアス穴から出る白い糸」や「ホルマリン・プール」「人面犬」など、なんとも懐かしい話のオンパレードである。
 このところ、「都市伝説」というのが妙なブームになっているようで、こういったテーマを扱った本が、ぞろぞろと出版されている。しかし、だいたいが、
胡散臭すぎる
ネタばかり取扱い、せっかくの「都市伝説の持つロマン」を台無しにしている物が多い。都市伝説とデマを一緒くたに考えている、浅はかな本が多い中、この本は純粋に「都市伝説」そのものの魅力を取り上げている。
 私は、都市伝説は「現代の妖怪譚」だと把握している。都市伝説は、貶めれば二束三文のデマに、正しく捉えれば文化民俗学になり得る。鳥山石燕、柳田國夫、水木しげる、諸星大二郎、そして京極夏彦と続いて来た「妖怪の系譜」を絶やすべきでは無い。妖怪は、長い歴史に育まれた民族的な風俗なのである。もっともっと大事にしてもいいと思いますが、どうでしょう。


 ちなみに、この本でも「都市伝説」だとされた、「ホルマリン・プール」ですが、ある関係者に聞いた話では、一般に流出しないだけで、厳然とした「事実」であるらしいですよ。いやマジで。
H200113


武士道 著者:新渡戸稲造
おすすめ度:★★★★(4点) ジャンル:日本文化解説本
 五千円札の肖像画でもお馴染みの、新渡戸稲造の名著である。
 1899年(明治32)にアメリカで出版されたこの本は、当時、西洋文化圏において今だ認識の低かった、日本文化の正当な評価を得るために、英語で書かれた日本文化論である。西洋近代文明こそが唯一先進の文明である、という愚かな蒙昧を排除し、日本の高潔で洗練された文化を理解させるための止むにやまれぬ気持ちの表れが、この書に現れたのだろう。
 刀を持つ、切腹をする、君主に忠誠を捧げる、女性は大きく一歩下がって控える、などを低俗で野蛮と見る西洋の偏見を払拭するための、日本人的精神的バックボーンを説明しようと試みた、画期的な文章である。
 ただ、英語圏の読者を中心とした、日本文化弁護論であるので、思わず首を傾げてしまう部分もある。また、西洋哲学と比して語るため、どうしても齟齬の生じている部分もある。新渡戸がクリスチャンである事を斟酌すると、致し方ない部分もあろう。それでも、全く理解するに足る共通基盤の無い者どもに理解をさせようと努めたその功績は大きい。
 戦後の教育によって、「武士道」の精神を忘れさせられた今の日本人には、自らの基盤を思い出す意味でも、この書は大いに必要であろう。下に挙げた「国家の品格」という本の、理論的根幹を成す一文である。
 トム=クルーズ主演の『ラスト・サムライ』に描かれているサムライは、正に本書に描かれているところの武士そのものである。

 ここに、私がとても気に入っている一文を引用する。日本人たるもの、このくらいの意識は持ってもらいたい。

「夫もしくは妻が他人に対しその半身のことを――善き半身か悪しき半身かは別として――愛らしいとか、聡明だとか、親切だとか何だとか言うのは、我が国民の耳にはきわめて不合理に響く。自分自身のことを「聡明な私」とか「私の愛らしい性質」などと言うのは、善い趣味であろうか。我々は自分の妻を賞めるのは自分自身の一部を賞めるのだと考える、しかして我が国民の間では自己賞賛は少なくとも悪趣味だと看做されている」
H190511


100万回生きたねこ 著者:佐野洋子
おすすめ度:★★★★★(5点) ジャンル:大人の絵本
 ジャンルが大人の絵本と言うと、何だか変な意味に取られそうだが(笑)。絵本ではあるが、十分すぎるほど大人の鑑賞に堪える内容である。
 何もかもが嫌いで自分だけが好きな「とらねこ」が、100万回生き死にを繰り返す間に、大事なものが何かを知る、そんなお話。このとらねこが、白いねこに出会う事により、人生(猫生?)観が一気に変わる。
 まあ絵本なので、お話は短い。
 嫌いで悔いの多い人生か、好きで満ち足りた人生か、選ぶのは自分自身である。
 多くの失敗も、ひとつの幸せで埋め合わせられる(かも知れない)。
 騙されたと思って、読んでみよう。余計な説明より、読むほうが絶対いい。
H190316


国家の品格 著者:藤原正彦
おすすめ度:★★★★☆(4.5点) ジャンル:国家再建論文
 新田次郎を父に持つ、国際派数学者のぶちあげる日本再建論。
 海外での生活が長いお陰で身についた、「日本を客観的に見る目」を駆使し、今の日本に足りないものは何か、を豪快に言い放つ。さすが数学者であり、言葉に迷いが無い。論理的結論として、「ここがおかしい」という点を喝破する。
 しかし、その論理に頼る事こそが間違いだ、とも言い切っている。では、今の日本に、今の日本人に足りない物は何か。それは、
 伝統文化への自信
 日本文化独自の情緒
 武士道

だ、と言い切る。
 氏の意見が、全て正しいとは、さすがに思えない。少々強引と思えるところもある。しかし、それだけ日本文化が衰弱している、という事でもあるだろう。
 グローバル化=画一化は、日本はしてはならない。日本は日本独自のスタイルを維持すべきである、との意見は大いに賛成なのだが、氏も言っている通り、日本は、取り込んだ外来文化を上手に自家薬籠中の物にする技術がある。「グローバル化」という呪縛をも、日本風に変質させる力が、日本人にはあるはずである。そこにこそ期待したい。
 とにかく、「ジャパニズムは、この先の世界のスタンダードたりえる文化である」という結びには、拍手を送りたい。本の帯にある、
すべての日本人に 誇りと自信を与える
画期的日本論

は、当を得ているコピーである。

 ただ、こうまで言って貰わないと、日本の良さに気付かない、という事自体に問題を感じるのだが(苦笑)。
H180729


死にカタログ 著者:寄藤文平
おすすめ度:★★★★(4点) ジャンル:「死ってなんだろう?」な
絵本
 『大人たばこ養成講座』や『ウンココロ』などを描いた、寄藤氏の「死について」の本。
 ただ、「死」というものを扱うにしては、軽く構成している。
  「あまり深刻に考えたくなかった」
ということらしい。まあ、気持ちも判らないでもない。とても興味深いモノながら、触ることすら躊躇するその存在。その「禁断の花園」に踏み込んだ勇気は認めたい。
 世界各国の様々な死に対する考え方(所謂死後の世界など)を集めたり、死因の統計を集めて、「どのような死があるのか」と言うことを集めたり・・・。
 結果、著者は、「結局死についての結論は出なかった」とした。
 我々は生者であり、どうしても「死」そのものについては、理解が及ばない、という事か。
 なにしろ、人間は、一生のうち一回しか死ぬ事は出来ないのだから。

 そのかわり、死について考える事は、とりもなおさず生について考える事でもある。「如何に死ぬか」は、「如何に生きるか」と同義である。「死」について考える事は、決して無駄ではない、と思う。


もぼやき 著者:鈴木哲也
おすすめ度:★★★★(4点) ジャンル:「脚本家と、その弟子は大変だ」
エッセイ
 『浪人街』のノベライズ担当、鈴木哲也のドキュメント“ザ・カンズメ”(笑)。
 我が同級生にして、脚本家・マキノノゾミ氏の内弟子である、鈴木哲也の通販のみの本。もったいない。全国販売を展開したらいいのに(笑)。
 内容は、マキノノゾミ氏が、NHK朝の連続ドラマ小説『まんてん』の脚本を執筆をした際の、嵐の様なカンヅメ記録である。普通の会社員や、普通の自営業では、作家さんのような
    「カンヅメ」
というのは、恐らく経験がないだろう。当然、私も経験が無い。そんな「カンヅメ生活」を、疑似体験させてくれる本である。
 精神的にかなり追い詰められ、意味不明な行動に出たり、ひたすら他人の作品を漁ったり、と、モノを生み出す苦労がひしひしと伝わって来る。
 この本の裏表紙には、著者のこんな言葉が記されている。

「朝ドラ脚本家のアシスタント
が綴る執筆生活の内幕。
人間の限界に挑戦する
過酷なカンヅメ生活―――
脚本家志望の若者に告ぐ!!
これを読んで考え直せ!!」


と(笑)。
 ただ残念ながら、鈴木のように、いい師匠に恵まれた場合、むしろ素晴らしい体験が出来る、ある意味ワンダーランドである。君のアドバイスも、逆効果かもね。いやむしろ、それが狙いか(笑)。

 ちなみに、タイトル『もぼやき』とは、「もぼ鈴木(彼の通り名)のぼやき」ということらしい。


宮崎アニメの暗号 著者:青井汎(ヒロシ)
おすすめ度:★★★(3点) ジャンル:宮崎アニメ研究本
 宮崎アニメを、別角度から眺めた意欲作。
 宮崎アニメには、独特の含みがある。これは、観た人のかなりの割合が感じることではないか、と思われる。良質のアニメやドラマは、「見えない部分」の設定もしっかりと出来ている。著者は、その「見えない部分」を、五行説に求めたのである。
 五行説は、ご存知の通り、古代中国に端を発する、木火土金水の五元素を基盤とした宇宙論であり、陰陽八卦と共に、緻密な因果律を構築した見事な思想である。
 この本では、特に『もののけ姫』をクローズアップし、その作品中で、いかにストーリーが五行説に照らされて組み立てられているか、ということを延々と力説している。
 なるほど、確かにうまくはまり込む。特に火(タタラ)→金(石火矢と弾丸)→木(もののけ)という相克の連鎖の説明は、目からうろこの新説であった。
 しかし、この著者は、「現実の延長の虚構」こそが良い作品の基準である、と定義して、「事実を含んだ空想」でなければ深みが感じられない、といった感じのまとめ方をしている。そこが、ちょっと残念。
 そのせいか、『千と千尋の神隠し』の評価は低い。五行説以前のアニミズム、そしてファンタジー重視の世界観は、お気に召さないらしい。そこにこそ、さらに深い精神世界があることに気づいていないか、あえて無視をしているようである。
 五行説は、世界(現実)を外側から俯瞰するテクニックである。ファンタジー性は、むしろ人間の内面を披露するものである。それもまた「現実」である。外面・内面双方のつりあいこそが、

「現実世界」

である事を取り上げずに、外界とのつながりを失った事への危惧のみが語られている感が強い。宮崎駿は、そんなに甘くない。

 と思う。


産経抄 この5年 著者:石井英夫
おすすめ度:★★★★★(5点) ジャンル:産経新聞コラム
 タイトル通り、産経新聞の一面に載っていた、コラムを集めたものである。
 昭和44年から足掛け30年、ずーっとこのコラムを毎日続けてきたのである。すごい、の一言である。
 例えば、朝〇新聞のコラム「天声〇語」は、大学受験に取り上げられることで有名だが、胤舜的には、アレはどうにもぬるい。悪いとは言わないが、無難にまとまり過ぎている感じがする。
 対して産経新聞の「産経抄」は、確かに多少偏っているかもしれない。しかし、独自のバランス感覚と、確固たる主張、「良い物は良い、悪い物は悪い」とはっきり言い切る強さ、これは、産経新聞そのもののバランス感覚と同様、信頼が置けるのである。おんなじ話題の賛成意見と反対意見とを、同じ紙面に載せるのは、産経新聞しか無い。その公正さが、好きである。このコラムもしかり、である。
 しかも、投書に間違いを指摘され、納得すれば、コラム上で謝罪する。納得出来なければその理由を明記して、自分の意見を明確にする。こんなコラム、ほかの新聞には無い。
 この骨太コラムも、今年の春で、担当が変わってしまった。新しい人も悪くは無いのだが、イマイチ切れが悪い。重さが足りない。それは、長く続けてきた年月のなせる業なのか?

 この本の帯にある宣伝文句、

過激だが心優しい、日本最高のコラム集

  は、その通りだと思う。いっとこうか。


生前葬と父の本 著者:小池百合
おすすめ度:★★★★(4点) ジャンル:ドキュメント生前葬
 「余命二ヵ月半の父親に、家族が贈った本と生前葬」というサブタイトルが付けられている。内容は、そのままの本。
 肝嚢胞腺癌が発覚し、元旦に「あと二ヵ月半持つかどうか・・・」と宣告された父親に対し、著者である娘と家族が考えた、「生きているうちに、友人達の声を聞かせてあげたい」という気持ちを表すための一大イベント、それが、
「生前葬」
であった。前例のないところからの、暗中模索の末、なんとか「成功だった」と思える結末に至るまでの奮闘記である。
 人生の節目に行う、仕切り直しとしての生前葬ではなく、葬儀を希望しない父親の為の、本気の生前葬。
 「遺された人の為の儀式」ではない、「これから逝く人の為の儀式」としての葬儀。こういう考え方もあるな、と深く考えさせられた一冊。
 ただ、本編中にもあるが、生前葬を考えるあまり、実際に亡くなってからの告別式を考えていなかった為、人脈の広い故人を偲ぶ弔問客で、パニック状態になってしまったらしい。それらの諸問題も含めて、自分の死をいかに迎えるか、じっくり考えるのもいいかも知れない。家族の絆を考える上でも、この本は是非いっといてもらいたい。

 ちなみに、上記の理由で、全く知らせを出さなかった為、亡くなった事を全く知らなかった事に、故人の奥さんの兄弟姉妹からは、かなりのブーイングが出ていた。特に仲の良かった二番目の姉は、「色々と事情はあるにしても、水くさい!」と、かなりご立腹でした。


鬼がつくった国・日本 著者:小松和彦・内藤正敏
おすすめ度:★★★★★(5点) ジャンル:鬼対談本
 日本民族学の暗部に光を当てる事をライフワークとする小松教授と、『闇』をテーマとした写真を撮り続ける写真家内藤氏の、日本の歴史の『闇』をテーマとした対談モノ。
 夢枕獏氏や菊池秀行氏のオカルトテイストの作品の紹介を枕として、実際日本の歴史の中に現れる「鬼」とは、どういったものであるか?という核心部分に触れる、意欲的な対談である。
 対談形式、ということもあり、普通の論文よりも(言葉の選択も含めて)かなり読みやすい物に仕上がっている。そのため、かなりの数の作家にも影響を与えているようである。実際、伝奇系の小説の「参考文献」のなかにも、この本は良く見受けられる。
 「鬼」=「まつろわぬモノ」という視点を日本文化の中にがっちりと根付かせた功績は大きい。まつろわぬモノとは、ここでは権力者の敵対勢力・特殊な知識を持ち、権力者の支配を必要としない者達・権力者により差別の対象とされた者達を指している。そしてこの者達が、日本の歴史の流れを影で支えてきたのである。
 記紀(古事記と日本書紀)に記された歴史だけを見ていたのでは、到底想像も付かない世界が、歴史の奥底に眠っている。
 「これぞロマンだ!」
 と言い放つ小松教授、いい味出してます。この本はオススメです。


雅楽への招待 著者:監修・東儀俊美/撮影・林陽一
おすすめ度:★★★★☆(4.5点) ジャンル:入門書
 雅楽の入門書。雅楽に関する書物は、探せばいくつかあるのだが、その殆どが専門的すぎる傾向にある。雅楽、というジャンルに興味を持った時に、一番の壁となるのが、
 「参考資料が専門的過ぎる」
ということだろう。雅楽を西洋音楽の音階で表せばどうなるか?など、興味はあるが、読者の立場から言わせて貰えば、
 「今知りたいのはそこじゃない」
ということになる。
 そんな意味では、この本は正に入門書である。決して分厚い本ではない。説明も、ごくごく掻い摘んだ部分しか解説していない。しかし、それでいいのである。むしろ、ああ、こんなものがあるんだなぁ、というごく浅い知識で満足出来る。写真の量の半端じゃない多さが、この本の編集方針を如実に表していて、とても良い。完全に「紹介」と割り切った編集である。
 とかく雅楽を取り扱う場合、その歴史と内容の重厚さから、堅苦しいものになりがちである。実際、今までの雅楽の本は、<入門書>と銘打ってありながら、こ難しいものが多かった。実際雅楽用語は難解なものも多く、この本の中でもかなりの部分の説明を省いているため、言葉が宙ぶらりんになっている箇所も見受けられる。ま、そこの部分を知りたければ、専門書を読みなさい、ということである。
 この本は、雅楽の持つヴィジュアル的な部分を効果的に紹介した、真の「入門書」であると思う。一冊本棚に忍ばせておくだけで、高尚な趣味を持つ人だ、と一目置かれるかも?
 それはどうかな?


バーチャファイターマニアックスリプレイズ 著者:ファミコン通信責任編集
おすすめ度:★★★(3点) ジャンル:ゲーム画面写真集
 「バーチャファイター」という革命的対戦格闘ゲームが世に出てから、所謂攻略本というのは、それこそ星の数ほど出版された。そんな中でも、最も役に立たない(爆)攻略本?である。
 ジャンルにある通り、内容は「ゲーム画面の写真集」である。3Dポリゴンによる描画能力を生かしたゲームにおける「こんな風に見えるポーズ集」とでも表現すればいいか。
 ポリゴンの利点は、同じポーズでも、見る角度を変えられるところにある。その辺が、「スト2」などの2D格闘ゲームと決定的に異なる点なのだが、その優位点を無駄に活用している(笑)。とにかく膨大な量の対戦をこなし、その中で、ネタになりそうなシーンをスナップし、適当なタイトル及び解説を付ける。特に、リングアウトした時に絶妙なタイミングで技を入力すると、リング外でも技が発動する。この時には、カメラ(画面表示)の角度も普段とは変わってくる。そんな、かなり低確率な場面を狙ってスナップを撮る。その繰り返し。ハッキリ言って、気が遠くなる(笑)。
 内容といえば・・・。もう、見てもらうよりないです(笑)。「バーチャファイター」に特別な思い入れがない限り、大して面白くないかも。ただ、胤舜個人的には星6個はあげたい。特にP22の「まえにどっかで会ったよね?」と、P42の「ラウさん、俺もう呑めないっス」は秀逸。
 解説文は、新宿ジャッキーこと羽田隆之。知る人ぞ知る、正に変態(笑)。


鬼の研究 著者:馬場あき子
おすすめ度:★★★★★(5点) ジャンル:研究論文(評論?)
 研究論文、というくくりでいいのか分からないが、とにかく鬼についての考察をまとめた一冊。
 著者の馬場あき子女史は、歌人にして作家である。NHKの短歌の番組にも出ていて、ちょっと驚いた記憶がある。
 今でこそ、「鬼の研究」は進んでおり、「鬼」とは、<まつろわぬ者>という説が一般的になっている。つまりは、体制側から見た反体制側、征服者から見た被征服者(抵抗勢力)を指して「鬼」と呼ぶ、というのが定説になっている。が、この本が初版されたのは1971年であり、鬼の研究そのものがまだそんなに進んでいなかったのではないか、と推測する。そんな時期にこの内容は、かなり斬新だったのではないか、と思う。
 馬場女史は、政治的な反抗者としての民俗学的な「鬼」ではなく、社会の歪みにとらわれて苦しむ者たちの声にならない声こそが「鬼」である、と定義する。歌人らしく、叙情的・文学的な分析である。また、引用する古典作品群も、平安時代以降の、特に女性が鬼となった、あるいは鬼と関わった(殺される・攫われる)話を中心に用い、男性中心の社会で犠牲になる女性、という方向から鬼を捉えようとしている。
 純粋に民俗学的な「オニ」とは一味違う、人の精神の暗部に巣食う「鬼」にスポットを当てたこの本、その完成度の高さもかんがみて、是非一読して欲しい一冊である。


あれから4年 クラリス回想 著者:アニメージュ編集部
おすすめ度:★★★★(4点) ジャンル:アニメ本(笑)
 オタアイテム出現(笑)。『ルパン三世 カリオストロの城』の、ヒロイン・クラリスを扱ったフィルムストーリー本である。
 ただ、薦める部分は、クラリスのアニメ内での姿を追っかけた部分ではなく、後半のP122〜P158までの、「アニメージュ」からの再録インタビュー及び、この本用に書き下ろした文章である。この頃、宮崎駿43歳、まだ若い。故に、発言もかなりストレートである。

 引用文
 3年間つづいた新ルパンは、あるときは高視聴率をあげ、商売としては成功したかもしれない。が、時代の子には一度もなれずじまいだった。むしろ、時代とのズレを売り物にする、アナクロナンセンスドタバタのなかへ息ぎれしていったのは
           無惨
と しかいいようがない。

                              <原文ママ  強調は胤舜>
 無惨て(笑)。まあ、『(旧)ルパン三世』当時から加わっていただけに、言いたいことは多いのだろう。
 また、やはり再録だが、岡田英美子という聞き手が、非常にうまい。打てば響く、そんな表現が当てはまる、読み応えのある一文である。この宮崎―岡田の対談だけで、『カリ城』およびルパン、ひいては作品作りに対する、宮崎駿の考え方が明確に分かる。この話しの延長線上に、『ナウシカ』『千と千尋』『ハウル』があることが、はっきり見て取れる。きっちりと一貫性があるのである。
 古い本を引っ張り出してみて(1983年)、宮崎駿のモノづくりの確かさを、あらためて思い知った。


「カラー版」新しい単位 著者:世界単位認定協会・編
おすすめ度:★★★★☆(4.5点) ジャンル:BSフジテレビ企画本
 この本は、BSフジで放映されている『宝島の地図』という番組の中の、一コーナーを単行本化したもの。私がこの番組を知ったのは全くの偶然で、深夜の、テレビプログラム空白地帯で流されていたものを目にした、というものだった。その番組の作り方は、思わず『カノッサの屈辱』を思い出させるものであった。しかも、その内容は、『カノッサ―』よりも、さらにばかばかしさが爆発した(笑)、かなりいかがわしい物である。
 とりあえず、「色々な事柄に単位をつけるとしたら、どのようなものになるか?」という企画の元に、「若々しさ」「親不孝」「潔さ」など、およそ<単位で表す事への必要性を感じない>事柄への、執念とも取れる几帳面さでの単位認定がなされている。
 そんな中で、「ゴージャスさ」を表す単位<Pnp(パイナポウ)>、「うっとうしさ」を表す単位<Jk(ジョキン)>、「違和感」を表す単位<St(スクーター)>は、胤舜的にかなり共感(?)できる単位認定である。
 ばかばかしいことが好きな人は、見てみてもいいかも。特に薦めませんが(笑)。


THE STARTREK COMPENDIUM 著者:アラン=アッシャーマン
おすすめ度:★★★★★★★★(8点) ジャンル:データ本
 直訳すると、「スタートレック概論」。ロサンゼルスにいた時に、ダウンタウンの本屋でスタトレ関係の本を漁っていて、発見した本。後、日本でも『スタートレック大研究U』(住友進訳)として出版されている。
 この本の著者は、アメリカでも有名な(?)スタトレオタク(俗にトレッキーという)である。内容は、「スタートレック」が企画としてこの世に生まれ出てから、テレビシリーズとして動き出すまでの軌跡、全78話のあらすじと豆知識、映画全6シリーズの解説と、まさに「TOS(一番最初のTVシリーズは、通称こう呼ばれる)」全体を網羅した一冊である。
 日本でも、こういったデータ本が、一時期流行った事がある(今でもけっこう出ているが)。この本は、客観的にドラマの解説、役者の情報、撮影裏話などを掲載しており、データ本としてかなり優秀な部類に入ると思う。この本を読めば、シリーズを観たことがない人でも、「まるで観たかのような」気持ちになれる事請け合いである。
 なお翻訳本には、日本での放映時に付けられた日本語タイトル(それと日本での放映順リスト)も載っていて、日本人トレッキーの需要にもしっかり応えている。
 スタートレックが好きな人は、やはり持っておくべきでしょう。特に原書は、雰囲気がいいので、翻訳版よりお勧めである(英語が読めれば。ちなみに私も大して読めない)。


全国アホ・バカ分布考 著者:松本修
おすすめ:★★★★★☆(5,5点) ジャンル:ノンフィクション
 1990年1月20日土曜日深夜放送の、『探偵!ナイトスクープ』に、このような依頼が舞い込んだ。
 「私は大阪生まれ、妻は東京出身です。二人で言い争うとき、私は『アホ』といい、妻は『バカ』と言います。耳慣れない言葉で、お互い大変に傷つきます。ふと東京と大阪の間に、『アホ』と『バカ』の境界線があるのではないか?と気づきました。地味な調査で申しわけありませんが、東京からどこまでが『バカ』で、どこからが『アホ』なのか、調べてください」
 このなにげない依頼から始まった「『アホ』と『バカ』の境界線」という話題が、番組のプロデューサーである松本氏を、言葉の深みへと誘い込む。
 『アホ』と『バカ』については、私(胤舜)も気にはなっていた。この本によって、初めて柳田國男の『蝸牛考』という書物(及び理論)の存在を知った。
 『蝸牛考』とは、古代の政治的中心地(特に京都)を中心にした、流行り言葉の分布を表す考察で、時間経過と共に同心円状に言語が伝播していく様子を、言語分布調査結果を軸に説明するものである。一娯楽番組から始まったこの調査は、学会へもいい意味での刺激を与えたようで、松本氏は、「日本方言研究会」での研究発表までしている。
 この本は、企画そのものは『アホ』みたいなものだったが、その研究成果はとても『バカ』にしたものではない。知的好奇心を刺激されたい人は、読まなければ人生の何パーセントかを確実に損をする。読むべし!


陽のあたる場所 浜田省吾ストーリー 著者:田家秀樹
おすすめ度:★★★★★★(6点) ジャンル:音楽ドキュメント
 我が心の詩人、浜田省吾の伝記。このようなアーティストの伝記的な本は、これまで数多く出されている。さだまさしの伝記本も、波乱万丈で面白いものだった。もし現物が手元にあれば、紹介したいくらいだ。
 『誰がために鐘は鳴る』というアルバムのリリースに合わせて出されたこの本、浜田省吾がいかにして生まれ、いかにして育ち、いかにして曲を作るか、を非常に深い理解と愛情を込めて、描き出している。以後様々なインタビューに応じ、自らの生涯を語ってきた浜田省吾であるが、この本と少しも逸脱したところがない、それほど正確に「浜田省吾」を記した本である。
 私も、何度か浜田省吾のコンサートに足を運んだ。ある場所では、コンサートの最中に会場が停電する、というハプニングにも出くわした。そんな中で、「浜田省吾とはどんな男か」というのが、少しずつでも見えた気がする。
 彼は、私の期待を少しも裏切らない、見たまま、感じたままの、クールを装った熱い男だ。その熱さを表に出すのが照れくさいのか、歌でそれを表現する。その術に長けた人、当に「詩人」であると思う。最近では、『愛という名のもとに』というドラマで、主題歌に『悲しみは雪のように』、またドラマのBGMにも浜田省吾の楽曲が数多く使われ、メジャーな世界にも彼の名前が再び見られるようになった。が、その本当の魅力は、ライブによって初めて明らかになる。ライブで、彼の世界を共有する事によって、浜田省吾その人が見えてくる。
 この本は、そんなディープな部分を教えてくれる。浜田省吾に興味があるなら、読まないと損する一冊。