神戸在住 著者:木村紺
おすすめ度:★★★★★★(6点) ジャンル:何気ない日常マンガ
 木村紺のデビュー作。大学入学と同時に、家族で神戸に引っ越して来た主人公・辰木桂のキャンパスライフを、日記調に綴った作品。
 とにかく、神戸の風景を切り取ったお話の感じが、のんびりしているというか、何というか、あまり構えずに読めるのが、いい。独特の間合いで、『ヨコハマ買い出し紀行』に通じるものがある。ただ、『神戸―』の方が、より日常を意識した内容なので、物語の起伏は少ない。逆に、大きな起伏さえ意識しなければ、日常全てがドラマになり得る、そんな視点を与えてくれる作品でもある。
 途中、イラスレーター・日和洋司の死が、主人公に大きな影を落とすが、作品初期に大きく影響を与える、震災の記憶も含めて、
 人と人との絆
を考える、そんなテーマが根底にはあるのだろう、と思えるのである。

 絵は決して上手では無いが、ユルイ感じの読後感がある。それを求める人には、とてもいい作品。
 ほんのりとした感情を刺激してくれるので、あくせくした時の清涼剤として、一服どうぞ(笑)。
H200301


東京爆発娘 著者:伊藤伸平
おすすめ度:★★★★(4点) ジャンル:セーラー服ガンアクション
 フツー(っぽい)女子高生が、クールでドライに銃を乱射するアクションコメディ。伊藤伸平の得意技である。連載当時のものに加筆訂正してあるらしいが、オリジナルを知らないので、特に問題ない。
 国際テロから邦人を守るために特別配備された特命コマンド(憲法違反―笑)、晶少佐の娘、満里子が主人公。この娘が、父親から伝授された特殊戦闘技術と、日本国内ではおよそ考えられない重火器で暴れまわる。内閣調査室から派遣された小暮静江と共に、非常識極まりないガンアクションを展開する。
 話はとことん非現実的だが、火器の描写は、描画力も含めてかなりリアル。「美少女と銃」という性的劣情のはけ口ツートップに、使えない・おバカ・無脳と三拍子の揃った内調のメンバーが巻き起こす、地域破壊作戦は、何となく爽快感がある(笑)。
 この作品の面白さは、言葉では表現しづらい。是非一読をオススメする。
H180615


士郎正宗初期作品集 ブラックマジック 著者:士郎正宗
おすすめ度:★★★★★(5点) ジャンル:同人系SFアクション
 今をときめく(?)マンガ作家、士郎正宗のメジャーデビュー作品。
 超古代の金星(地球ではない)を舞台にした作品で、この後の全ての士郎作品の根幹をなす作品である。
 元々同人誌に連載していたもので、時系列的統一性を持った短編の連作である。中央政権的な巨大コンピューター、またそのコンピューターの意思をサポートする「バイオロイド」など、いかにも『アップルシード』の元ネタ的な設定が目白押しである。さらには『ORION』以外ではほとんど扱われていない「魔法」という便利(諸刃の剣)な設定も生きている。
 商業誌に公開することを前提としていないからか、とにかくのびのびと描かれているこの作品、士郎ファンならずとも、是非内容を確認して欲しい。特に「マリオ66」の話は、それだけでひとつの短編で独立出来るほどの完成度の高さである。
 登場人物のネーミングは、そのほとんどがギリシャ神話を用いており、その名前の神のエピソードをモチーフにした物語展開が、違和感無く展開する。これも、『アップルシード』の原型である。作品的には、かなりライトに仕上がっている。

 ただ、この作品からでも判る通り、映画『アップルシード』の結末は納得しかねる。この意味を知りたい方は、作品を読んで下さい。とりあえず面白いので、損は無いッす。


ファントム無頼 著者:史村翔・新谷かおる
おすすめ度:★★★★★(5点) ジャンル:航空自衛隊マンガ
 『Dr.くまひげ』『右向け左!』の原作者史村翔と、『エリア88』『ふたり鷹』の新谷かおるのコンビが生み出した、自衛隊マンガの金字塔(と勝手に今決めた)。
 百里基地に勤務する野生のファントム乗り・神田と、スーパーコンピューターとあだ名されるクールなナビ・栗原のコンビが繰り広げる航空自衛隊コメディ。
 最初、松本零士っぽい絵に、なかなかとっつけなかったのだが、読めば読むほど、航空自衛隊の雰囲気というか、空気というか、そのへんの微妙なところをうまく捉えたお話のセンスに、しっかりと囚われていた。朝鮮戦争で活躍したF-86セイバーから、音速戦闘機F-104スターファイターを経て、日本の空の守りを固めてきたF-4ファントムを乗りこなす一流パイロット達の、おかしくもハードな日常を描いた作品である。
 まあ、コメディ色が強い作品なので、「そりゃ、ありえんだろう!?」というお話もある。しかし、そんなノリもありそうなのが、自衛隊である。現役自衛官がどう思うかはともかく、自衛官の家族の目から見た自衛隊の雰囲気は、まさにこのマンガに描かれている通りなのである。命ギリギリのところで仕事をしている彼らの、一種病気とも思える底抜けの明るさは、「いま」を大事に生きている証であろう。
 特にコミックス11巻の、基地祭と呼ばれる一般開放日のイベントの雰囲気は、私が知っている自衛隊そのままである。私は実際に、ブルーインパルスが、基地祭での演技飛行の際に墜落する現場に立ち会ったが、マンガに描かれたシチュエーションと余りにも似通っていた。あの時の底抜けな陽気さと、事故発生時の素晴らしく機敏な反応は、まさしく『ファントム無頼』の世界そのままであった。
 昭和56年という時代柄、多少古臭さが漂う作品ながら、その面白さは充分であると思う。とりあえず、いっとこうか。


 P.S.:「史村翔」と「武論尊」が同一人物である、ということを、今まで知らなかった。うーん、奥が深い(?)。


辺境警備 著者:紫堂恭子
おすすめ度:★★★★★★(6点) ジャンル:ほんわかファンタジーマンガ
 少女漫画はあまり読まなかった私が、完璧にはまった少女漫画系のファンタジーマンガ。
 この作品に遭遇するまでは、ファンタジーというものは、『コナン・ザ・グレート』に代表されるような、マッチョなイカツい主人公、きわどい服装のヒロイン、むちゃくちゃムカツク魔法使い(魔女)、取っ付きの悪い味方の魔法使いのじじい、泥棒、おぼこい少女の僧侶、頑固なドワーフ、強力な魔剣、凶悪なドラゴン、てんこ盛りのモンスター、伝説の魔法のアイテム、こういったキーワードで全てが片付く物だと思っていた。そして、そんなパターンにはまらない、もっとのどかな感じのファンタジーはないか、と常に思っていた。
 そんな私の(ほぼ)理想形のファンタジーが、この『辺境警備』である。
 都から、西(ルーマ)カールというど田舎の兵営にサウル=カダフ隊長が飛ばされて来るところから、物語は始まる。のんきで戦闘行為そのものを知らない純朴な兵隊さん達、女性と見まごう美貌を持ち、上に「バカ」が付くくらい純粋な神官さん、そして兵隊さん達と同レベルな村人達との「ほんわかファンタジー」な生活が、コミカルに綴られていく。
 緻密に構成された世界観は、非常に安心感がある。また、けっこうオールマイティーな隊長さんが、のんきなばかりではない世の中を垣間見せて、作品全体を引き締めている。隊長さんは、かなり平和なこの世界で、隣国との小競り合いの絶えない国境線での戦闘行為を体験している、数少ない登場人物の一人でもある。
 物語の後半は、神官さんの生い立ちに関するお話で、結構暗くて重たいエピソードが続く。しかし、そんな重たい空気を打破するのも、辺境ののどかな空気なのである。
 『ヨコハマ買い出し紀行』とも共通するスローさを持つこの作品、心のふるさとを探しているあなたにオススメです(笑)。


ヨコハマ買い出し紀行 著者:芦奈野ひとし
おすすめ度:★★★★★★★(7点) ジャンル:近未来のほほんマンガ(?)
 アフタヌーンに連載中の、SFマンガ。SFマンガというと、宇宙船に乗ってビューン!とか、光線銃でババババッ!とか、怪獣みたいな宇宙人がギャオーッ!とか、超能力でドカーン!とか、とかくそっち系を連想してしまいやすい。事実そういった作品は多い。
 が、この作品は、そういったキャッチーな作品群とは一線を画している。時代設定としては、22世紀にも入っていないかも(その辺すらあやふやである)。なんらかの気候変動があり、海面が上昇、海沿いの大都市は水没してしまい、文化レベルが大きく後退した、そんな世界。これを作者自身は、
 「夕凪の時代と呼ばれるてろてろの時間」
と表現している。この「てろてろ」という表現は、この作品を読めば、的確(?)に理解出来る。
 主人公は、喫茶店を経営する人間女性型ロボット、アルファさん。このアルファさんを中心に、近所のガソリンスタンドのじじいやその孫、じじいの先輩の女医さん、同じロボットの女の子・ココネなどが繰り広げる、その世界での日常的風景。
 変わり果てた世界で、しかしその環境にしっかり順応して生きている人間の姿を、のどかに描写する。その独特のセンスは、けっこう気持ちいい。
 ただ、アルファさんの「たからもの」がオーナーから貰ったヘッケラー&コックだったり、配達の仕事をしているココネが、仕事中に友達にいきなり脅かされて、反射的にその友達に銃を突き付ける、また以前は通れた道が、海面の上昇により通れなくなった、など、決して能天気なばかりではない世界を垣間見せているところが、この作品の持つ「突き抜けたのどかさ」という雰囲気を醸し出す大きな要素になっている。
 この作品、連載そのものも結構呑気で、隔週刊にもかかわらず、表紙を入れて4ページだけしかない、というときもある。なので単行本がなかなか出ない。しかしそれを、「まあそんなもんか」と思ってしまうあたり、この作品の<てろてろ感>に同調している、ということか。


仏(ブツ)ゾーン 著者:武井宏之
おすすめ度:★★★★★(5点) ジャンル:仏像マンガ(著者談)
 現在『シャーマンキング』を連載中の、武井氏のメジャーデビュー作。仏教系のネタを使った作品は、『孔雀王』『明王伝レイ』などいくつかあるが、「仏像」そのものが変身するというパターンは、ちょっと珍しい。
 主役は、千手観音のセンジュくん。弥勒菩薩の生まれ変わりのサチを護り、インドへ送り届けることを使命としている(未完)。敵は、仏敵魔羅(マーラー)。やはり仏像を借りて現世へ現れる。
 設定は、かなり秀逸。仏像の形状や、功徳によって戦闘性能が違い、その戦闘性は天衣(アーマー)の性能によって左右される。天衣とは、仏像それぞれにある光背、持物、乗物などで、それが仏像にみあった武器・防具になる。この天衣は、チャクラエネルギーで操ることが出来る。ちなみにセンジュ君は、千の手がそのまま武器となり、必殺技は「千手パンチ」(!)。ちなみに「千手パンチ」は、チャクラエネルギーを膨大に消費する。そのため、一日に一撃が限界。チャクラが尽きた時に敵の攻撃にあうと、一気に「千手ピンチ」となる(笑)。
 先に挙げた仏教系マンガは、かなり内容的に重く、殺伐としているのに対して、『仏ゾーン』は、「少年ジャンプ」連載、ということもあり、かなりほのぼのとしたギャグマンガスタイルである。が、お話のネタを仏典に求めているので、そこそこ教訓的な部分もあり、長く続けば、仏典紹介情操教育マンガとしての地位も得られたのではないか、と思われる完成度であった。
 コミックスとしては全3巻と短編ではあるが(早く終わってしまったのは、同時期に連載していた『地○先生ぬ○べ○』が、設定をパ●ったから)、その緻密な世界観は、読む価値大!いっとくべし!

 ちなみに何故「仏ゾーン」というのか、については、「仏の世界から来た仏像だから、ブツゾーン。アメリカ人をアメリカンと言う様にね」という説明が、センジュ君によってなされていた。このセンス、素晴らしいと思いませんか?


宇宙家族カールビンソン 著者:あさりよしとお
おすすめ度:★★★★★★☆(6,5点) ジャンル:不条理ギャグ(?)
 知る人ぞ知る、ギャグマンガの新境地、奇才・あさりよしとおの出世作である。今は亡きマンガ雑誌『キャプテンコミック(徳間書店)』に、創刊号より連載されたマンガである。同期には『強殖装甲ガイバー』などがある。
 タイトルの語源は、『宇宙家族ロビンソン』というアメリカのSFTVドラマ(『ロスト・ユニバース』のタイトルで、ハリウッド映画でリメイクされた)である。ある宇宙人の旅芸人一座が、地球の宇宙船とニアミスをしてしまい、その宇宙船は、近くの惑星に墜落してしまう。宇宙船の唯一の生き残りの地球人の赤ちゃん・コロナちゃんを、「地球人として」育て、いつか来る地球からの捜索隊に返すため、旅芸人一座の一世一代の大芝居が始まる…。
 こう書くと、なんだかまともな内容じゃないか、と思ってしまうが、なんのなんの、読者の期待を裏切らない(裏切る?)絶望的ギャグのオンパレード。例えば、ホルモンバランスが崩れ、片方の鋏が異常に大きくなってしまい、死に至る奇病に苦しむカニ型宇宙人が、他の生命体から甲状腺ホルモンを奪う事により、奇病の特効薬にしようとする、というお話がある。それが阻止されそうになった時、カニの出してきた武器、それが「プロレタリア1号」という巨大カニ型ロボット。結局、そのロボットは「おとうさん」に倒されてしまうのだが、この話、どう考えても、巨大カニ型ロボットの攻撃兵器
「カニ光線!」
このネタをやりたいが為の話にしか思えない。(このネタが分からない人は、高校の国語の資料を読み直していただきたい。)
 マイナーマンガやマイナー映画のパロディ続出のこのマンガ、洒落の分かる人なら、是非読んで欲しい。で、なるべく怒らないように(笑)。
 ちなみに、雑誌変更による新シリーズ開始の際に、タイトルを(版権の都合で)一時変えた事がある。今は『カールビンソン』に戻っているが。そのタイトルは『ロスト・イン・ユニバース』!とことんオリジナルをパクるつもりらしい。その心意気は、ある意味凄い。