スポーツ格闘技は侮れない

 武術をたしなんでいる人が、一度は言う、或いは一度は聞く言葉に、こういうものがある。
 「ルールが無ければ、負けない」
 この言葉は、武術・武道の練習者が、柔道・競技空手・ボクシングなどに不覚を取った時に、よく聞かれるものである。
 果たして、本当にそうだろうか?
 確かに、ルール上の制約は大きい。ルールが少し変るだけで、戦局、戦術は大きく変る。例えば桜庭の惨敗、ホイス=グレイシーの惨敗、レ=バンナの惨敗など、違うルールの中に身を投じる事による屈辱の結果は、プロ格闘技の世界では良くあることである。
 寝技が禁止されている、組技が禁止されている、急所攻撃が禁止されている、掴みはだめ、肘がだめ、頭突きがだめ、背中は攻撃するな、後頭部は危険だ、等々。色々な種目により、様々なルールが存在する。
 では、逆に、それら全てが許された場合、「さあ、勝てますか?」
 近代的な格闘技は、安全性を高めることにより、世界に普及していった。ボクシングも、ほんの50年前には、「ニュートラルコーナー」の概念さえ無かった。一度倒れた選手の横には、いつでも殴れる体勢にある選手が、立ち上がるのを虎視眈々と見守っていたのである。そこを改めたことにより、ボクシングはどんどん「純粋に殴る技術(とスタミナ)を競う競技」に成長した。また柔道も、当身を廃し、投げ技に特化したことにより、怪我の危険性が大きく減り、「勝ち負け」の概念がはっきり判別しやすくなり(きれいに技が決まる、等)、「投げ」の技術の純度が増した(これらの理由のほかに、「見て分かりやすい」という<観客側の視点>というものも大きく作用しているが)。
 特化・純化というのは、一口に言うと「より早く、より美しく、より効果的に」用いやすい技術、ということである。「立ち技最強」の誉れも高いムエタイは、ワンツー、フック、肘、膝、回し蹴り、ローキック、首相撲に尽きる。後は打たれ強さくらいか?様々な格闘技・武術・武道があり、膨大な量の技術体系が伝えられているが、立ち技に限って言えば、ほとんどがムエタイ技に集約されてしまうだろう(回し蹴りは少し違うが)。
 つまり、スポーツ格闘技の技は、武術・武道のシェイプアップされた一形態、とも言える。取り立てて劣っているわけでも、優れているわけでもない。表現方法が違っているだけなのである。
 だからこそ言える。「スポーツ格闘技は侮れない」