単翼頂

 あるサイトで、「うちの八極拳が正当な八極拳だ。他の八極拳は亜流に過ぎない。疑うなら、うちの老師と、他の八極拳家の同じポーズを見て、どちらが正しいか判断しろ」という記事が掲載された。
 そこの「正当な」伝承者代表は、馬賢達氏。ほかには呉連枝氏、譚吉堂氏、劉雲樵氏などの写真(単翼頂)が挙げられていた。
 そこは、馬家秘伝の通備拳(劈掛、翻子、八極を統一した流派)こそ本流だ、と力強く訴えている。が、私的には首をひねらざるを得ない。上記の四名の拳法家の中で、唯一馬賢達氏だけが、全く違う形なのである。他の八極拳家が、八極の特徴である身体中正、内円外稜を表した形なのに対し、馬氏のみは劈掛の特徴である呑吐伸縮、大開大合を表した形なのである。確かに馬家の本門は劈掛である。劈掛の理論で三派を纏めたのが通備である、と高らかに宣言している。ならばなぜ、劈掛の伝承家が八極の伝承家を批判するのか?
 このサイトでは、明確に呉氏開門八極拳宗家を、名指しで「傍流だ」と批判している。孟村呉家とは親戚関係にあるにも関わらず、である。更に言うと、馬家側の提出した呉家の家譜(ややこしい)には、孟村呉家の家譜にはない名前が続出する。特に馬賢達氏の弟の、馬明達氏の論文は、孟村呉家をあからさまに傍流と決め付けている。
 私個人としては、別に馬家を否定するつもりはない。孟村呉家も、馬家を否定するつもりはないらしい。が、馬家は、いきり立って孟村呉家を否定する。なぜだろう?なぜ馬家は、偉大な劈掛門伝承者・馬鳳図公の一族、劈掛の伝承家である、という事実で満足できなかったのであろうか?「八極に劈掛を加えれば、鬼神も恐れる」と言われるが、劈掛の特徴を全面に出しているのは、馬家通備門だけである。なぜ八極を主にしていない彼らが、八極専門の孟村呉家をいちいち攻撃するのか、どうしても理解できない。
 「我々は、劈掛、翻子、八極の三派の良い所を劈掛で統一した、新しい流派だ!」と堂々と喧伝することは出来なかったのか?そのほうがずっと良かったのでは、と思う。
 私個人は、呉連枝氏の単翼頂が一番八極拳の理論を体現していると思う。

 なお、以下に各派八極拳家の単翼頂の写真を掲載するので、皆さんも見比べていただきたい。どの単翼頂も、「各派の理論での正しい形」であると理解して欲しい。

各派八極拳家の単翼頂
馬家通備拳
馬賢達氏
呉氏開門八極拳
呉連枝氏
呉氏開門八極拳
呉大偉氏
強氏八極拳(通称)
朱宝徳氏
霍家八極拳
霍慶雲氏
孟村古伝
陳桂田氏
長春八極拳
譚吉堂氏
長春八極拳
李英氏
霍家八極拳
霍文学氏
霍家八極拳
安天榮氏
旧中央国術館系八極拳
郭瑞祥氏
季氏八極拳
季昭華氏
武壇八極拳(劉雲樵氏の弟子)
周明永氏
中央国術館系八極拳
銭源沢氏
武壇八極拳
劉雲樵氏
八極蟷螂拳
蘇c彰氏
武壇国術推広中心系八極拳
黄偉哲氏
大内八極武学発展協会系八極拳
金立言氏
武壇八極拳(?)
松田隆智氏
武壇八極拳
大柳勝氏
?
呉伯焔氏
?
青木義教氏

参考文献(順不同・敬称略)

『呉氏開門八極拳』著:呉連枝 ベースボールマガジン社
『続呉氏開門八極拳』著:呉連枝 ベースボールマガジン社
『中国伝統開門八極拳』著:松田隆智・野上小達 福昌堂
『八極拳』著:劉雲樵 新星出版社
季刊『武術』 福昌堂
『全伝八極拳』 武術別冊 福昌堂
『全伝八極拳U』 武術別冊 福昌堂
『全伝八極拳V 月刊空手道9月号別冊』 福昌堂
『八極拳』著:張世忠 福昌堂
『八極拳2 秘伝六大開の真諦』著:張世忠 福昌堂
『中華武術大観 霍氏八極拳』著:安天栄 湖北科学技術出版社
『真法八極拳』著:呉伯焔 ベースボールマガジン社
『続真法八極拳』著:呉伯焔 ベースボールマガジン社
『八極拳戦闘理論』著:青木義教 愛隆堂
『大内八極武学発展協会』ホームページ(中国)より 金立言
『笑 傲 江 湖』ホームページ(中国)より 周明永―劉雲樵の弟子
『横坑八極』ホームページ(中国)より 季氏八極―季昭華