"世界報道写真コンテスト2005"
審査委員長ディエゴ・ゴールドベルク氏のメッセージ
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東京都写真美術館で、2005-06-18〜07-31 に開催された
「世界報道写真コンテスト2005」の審査委員長のメッセージが
とても素晴らしかったので、記憶にある内容を記します。
「審査委員長 ディエゴ・ゴールドベルク氏のメッセージ」は、
今回のコンテストの写真集にも、ネット上のどこにも、記載がありませんでした。
会場の入り口のパネルにあるだけのようです。
今では私の記憶の中にしか存在しないので私にはとても貴重です。
会場に入ってすぐのところに、審査委員長のメッセージは、掲げてありました。
どのようなコンテストもそうですが、審査は、人間の創った作品を、人間が審査
をするので、完璧ということは不可能です。
審査する方の考えや、審査の有り方が、そのコンテストの意義を決めると思います。
ですから、審査員の考えが、どのようなものなのか、を知ることは
コンテストの価値や意義を知る、貴重な手がかりになります。
私は"世界報道写真コンテスト2005"を鑑賞して、とても素晴らしいと感じました。
そしてメッセージから、審査委員長の考えも、素晴らしいと思います。
今年で48回目を迎えるコンテストで、過去最高となる4,266人のカメラマンから
7万点近くの応募があったそうです。
ガイドブックは全て英文で、会場以外では入手できないようです。
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世界報道写真コンテスト 2005
審査委員長 ディエゴ・ゴールドベルク氏のメッセージ
この展覧会や本で今年の入賞作品を見た人は、毎年そうであるように、
「世界は変ったのだろうか?」と自問し、その答えを探そうとするだろう
写真の持つ力の中でも、間違いなく世の中に、より貢献しているひとつが
問題提起する力なのだ。
写真はあいまいさにあふれている。一枚一枚の写真が未知への旅だ。
何が、どこで、いつ、だれが?
それから、当然ながら、なぜ? 答えは写真そのものの中にはない。
写真はただ、触媒となって善悪の判断や意識をかきたてるだけだ。
見る者の心の中にあるデータベースを、起動させ、思考を促し、感性を
豊にする。補足的な情報を集めることで、はじめて私たちは理解への道を
歩み始める。
ここにある写真は、今ある世界の多様な実態を見せてくれる。
文化の衝突、内なる悪魔、砂の津波、水の津波、絶望と希望、そして血…。
毎年、血の流れた写真が登場する。多くの人はそれを見て嫌な気分になる。
そうあってしかるべきだろう。しかし多くはこうした暴力的な出来事を
自分には関係のないものと考え、恐怖にかられた観客になって、なぜこんな
暴力的なメッセージを送るのかと、メッセージの伝い手を非難する。
確かに写真で見せられる光景は不快だし、できれば目にしたくない。
だからこそ、もしかしたら写真家は映し鏡を掲げているだけで、私たちが
見ているものは自分たちの姿の反映なのではないだろうかと、問い直して
みてほしい。
洞窟で火をたいて暮らしていた時代から、人間は寄り集まって話をしたり
聞いたりしてきた。それによってアイデンティテーを築き、経験や知識を
伝達し、感情の対処の仕方を学んだ。地球上での種の存続をかけた戦いに
ついての終わりなき一大叙事詩を、歌や踊り、文学や絵で表現してきた。
テーマは繰り返される。私たちは何度も同じことについて語るが、世代
ごとにその表現の仕方を発展させてきた。シェークスピアが愛について
書いたように、私たちも愛について書く、トロイが侵攻されたように
イラクもまた侵攻された。
聖書で洪水について読む一方で、インド洋沿岸に津波が押し寄せる。
伝えたいという欲求に駆り立てられるのが人間だ。そうすることで私たちは
結びついている。人間は進化し、進化の物語はDNAの中にもうひとつの
物語として書き込まれている。
これから紹介する写真の数々は、みごとなほどに多様性に満ちている。
世界中から集まった声、異なる文化から生まれた異なるスタイル、理解を
阻むような出来事や優しい瞬間をとらえたもの。写真から、花の香りも
弾薬のにおいも漂ってくる。赤ん坊の肌の感触も、彼らの飢餓感も伝わって
くる。自然のうなりを聞くと同時に、沈黙の悲しみも耳に届く。
そして見終わったときには、もしかしたら、わずかなチャンスではあるが
われわれは何者か、という究極の問いの答えにほんの少し近づいていける
かもしれない。
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「世界報道写真コンテスト2005最優秀賞の写真です。」
以上です。
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