夏の夜と言えば
それはさておき、僕の地元は大阪でも有名な心霊スポットが密集している地域だったらしく、夏の風物詩を堪能するには事欠きませんでした。高校時代はどんな心霊スポットと呼ばれる廃屋も破竹の勢いで突き進んでいきました。進みすぎて2階のベランダを突き破り、1階に転落したことさえありました。
心霊スポットはたいがい人里離れた場所にあるので周囲は真っ暗闇です。道中のコンビニで買った懐中電灯の明かりだけを頼りに進んでいきます。とある廃病院の一番奥、裏庭らしき場所を抜けたトコロになぜか建っている朽ち果てたお社までたどり着いたとき、ふっと懐中電灯が消えました。何度スイッチを入れ直しても反応しません。まるでTVの心霊スペシャルのようなシチュエーションです。そこで友達が言いました。
そういう問題ではないと思います。
仕方がないので真っ暗闇の中を手探りでの帰り道、僕の手が何か生暖かいものを掴みました。
友達の手でした。
友達に変な誤解を受けつつさらに進むと、ふと足下が軽くなり、尻に強烈な衝撃を受けました。腐った床を踏み抜いて地下に落ちたようです。以前ベランダから落ちてからは慎重になっていたのですが、今回は1階だと思って油断していました。僕は肝試しのたびに落っこちているような気がします。
ちなみに懐中電灯は帰りにコンビニで良品と交換していただきました。
ある夜、自宅で寝ていると友人から電話がかかってきました。「肝試しに行って大変なことになったから来て欲しい」とのことです。何だろうと思って待ち合わせ場所まで行ってみると、なにやら訳のわからないことを口走って暴れている女の子と、その女の子を押さえ込んでいる友達数人がいました。どうやら
友人は僕を見つけると叫びました。
続けて僕に言いました。
知らねーよ。そもそも肝試しのプロって何ですか。
みんなが期待のこもった目で僕を見るので、とりあえず「おうちに送ってあげたら?」と適当に言ってみました。冗談のつもりでしたが見事に採用されてしまいました。暴れる女の子を車の後部座席へ無理矢理押し込んで走り去る数人の男。怪しすぎます。
女の子の自宅に着くと、当然ながらご両親にものすごい勢いで怒られました。成り行き上、僕も一緒に怒られました。結局ご両親の提案で山の麓に建っている神社でお祓いしてもらうことになりました。
神社では運悪く神主さんが体調を崩していてお祓いを断られてしまいました。しかしご両親が涙ながらに懇願を続けて何とかお祓いをしていただけることになりました。お祓いの前に神主さんからお説教をうけます。成り行き上、またもや僕も一緒に怒られました。
お祓いが始まって数分経った頃でしょうか、友達のポケベルが鳴りました。数字で『今何してるの』と表示されています。それを見た友達の1人が、「ちょっと待って! 何で俺らが神社におるってわかるねん」と叫びだしました。
素晴らしい意訳です。僕が見るにどこにもそんなことは表示されていないと思うんですが、みんな「ホンマやホンマや」と動揺し始めました。しまいには女の子に取り憑いている幽霊からのメッセージ説まで飛び出しました。
当の女の子はお祓い中におとなしくなって一件落着していましたが、周りは女の子そっちのけで大騒ぎ状態が続いていました。
僕はあまり幽霊の類を信じていなかったんで冷めた態度で一部始終を見ていたんですが、今思い起こしてみるにずいぶんと貴重な体験をしたように思います。
余談ですが、一昨年の夏、10年ぶりくらいに肝試しに行ったときは誰よりも先にビビってしまいました。大人になると恐怖心って増すものなんでしょうか。