新年会

去年だったか一昨年だったか、珍しく同僚から新年会のお誘いを受けました。しかし僕は仕事の納期とぶつかっていたので断りました。僕は派遣社員として今の職場に来ていて、お誘いは別の職場へ派遣に出ている同僚からです。職場も違えば納期も違います。

参加者の中に、ちょっと苦手な天敵がいたのとは特に関係がありません。

そして新年会の当日、定時までに作業が終了しなかったので残業することになりました。しかし僕と同じ会社から派遣されてきているHさんとSさんが、ちょっとだけ苦手な天敵の存在をみんなに話してしまいました。するとどうでしょう、同じチームの仲間達が一致団結して、僕を早めにあがらせてくれました。とても思いやりのある仲間たちに囲まれて、僕は幸せです。

僕はHさんとSさんに両脇を抱えられ、まるでFBIに捕まった宇宙人のような姿で職場を後にしました。

「残りの仕事は僕たちに任せて、新年会を楽しんできてください!」

楽しんでいるのはあなた方ではないでしょうか。

僕たちは結局1時間遅れで飲み屋に着きました。メンバーは僕を含め計5人。もちろんちょっとだけ苦手な天敵もいます。

まず乾杯し、ビールが入ったグラスをテーブルに置いた途端に天敵さんが口を開きました。

「はい、それ私の」

いきなりビールを奪われました。僕はアルコールを受け付けない体質なので全然かまわないのですが、なんだか釈然としません。

湯豆腐を食べていると、天敵さんは「つゆが濁ってきた」と言って、自分のつゆを脇にどけます。何をする気かと思えば、今度はつゆを奪われました。

そしておもむろに僕の携帯を取り上げ、勝手にメールを朗読を始めました。傍若無人と言う言葉がよく似合います。

僕の隣ではHさんが、まだ残業をしている仲間たちに僕と天敵さんのやりとりをメールで報告しています。ついでに天敵さんの写メールも送っていました。

間髪入れずに返事が返ってきます。

「めちゃくちゃ可愛いじゃないですか。1人だけズルいってブーイングの嵐ですよ」

僕を新年会に行かせたのはあなた方ではないでしょうか。

そのめちゃくちゃ可愛いと言われた天敵さんは、今、僕の目の前で両方の鼻の穴にタバコを突っ込んで口から煙を漏らしてます。どうにもやり切れない気持ちでいっぱいになりました。

2次会はビリヤードです。酔っぱらった天敵さんは好き勝手に行動しています。僕はそれほどビリヤードに詳しくないですが、毎回好きなところに玉を置いて突いてもいいなんてルールはなかったような気がします。さらに点数を書き込むホワイトボードに「ぼくもさゆら。よろしく」と書き殴ったりもしています。

僕は自分の番が回ってきたので、火をつけたばかりのタバコを灰皿に置いてビリヤード台に向かいました。視界の端に、僕のタバコをもみ消して、ホワイトボードに「けしたった」と落書きしている天敵さんが映っていました。

自分の番が終わったあと、喉が渇いたので自販機で缶コーヒーを買いました。そして天敵さんが飲みました。

次に僕の番が来た時は自分からタバコの火を消して行きました。戻ってきたとき火がついていました。ホワイトボードには「つけたった」と書かれています。何がしたいのかサッパリわかりません。

3次会のカラオケで、新たな敵が増えました。アルコールをがぶ飲みしたHさんが泥酔してしまい、ヘルニアを患っている僕がHさんを駅までおぶっていく事になったのです。なんで僕なんでしょうか。

腰が砕けたらどうしよう、という不安から、一歩一歩が大変重かったです。道すがら、Hさんはろれつの回らない口でひたすら叫んでいました。

「私は酔ってます。酔ってますけど、もさゆらさんよりはマトモですよ。ええ、もさゆらさんよりぜーったいにマトモです」

貴重なご意見ありがとうございます。あなたが普段僕をどう思っているかがよくわかりました。

Hさんは駅についてもまだ大声で僕に勝ち誇っていましたが、僕は路線が違ったのでそのまま退散することにしました。宴会は酔ったものの勝ち、と改めて実感できた1日でした。