闇鍋をご存じでしょうか。気の置けない仲間が集まり、互いに内緒で持ち寄った食材を鍋に入れ、目隠しをしてつつきあう。まさにビックリ箱のような鍋料理を指します。
一度箸でつまんだ具は必ず食べほさなければならない。これが唯一絶対のルールであり、闇鍋の醍醐味でもあります。例え
僕の記憶が確かなら、小学生後期か中学生前期の頃だったと思います。それは、友達とファミコンで遊んでいる最中、何の脈絡もなく放った僕の一言から始まりました。
そして瞬く間に段取りが組まれました。僕は自宅にある茶室の囲炉裏を使おうとしましたが親父に阻止されたので、大方の家庭よろしく、携帯コンロで鍋を炊くことになりました。そこで問題になったのが目隠しです。目隠ししたまま鍋を突いて引っ繰り返してしまったら、非常に危険です。囲炉裏なら自在鉤で鍋を垂らせば、そんな心配はなかったのでしょうが。
僕達は部屋の明かりを消して真っ暗にすることで目隠しの代わりとしました。これならコンロの明かりも見えて安全です。
闇鍋大会の前日はみんなで会場となった友人宅に泊まりました。次の日の朝は、友達のお母さんが豪華な朝食を作ってくれました。コップに入ったジュースで乾杯の音頭を取ります。
ゴクゴク、ぶふぉおっ!
ジュースが気管に入っていきなりむせました。まだ誰も手を付けていなかった朝食に向かって盛大に吹いてしまい、僕ひとりで平らげることになりました。
夕方。コンロの上には冷たい土鍋が載っています。各々好き勝手に調達してきた食材を手に、まるで互いを牽制しあうようなピリピリした空気が流れていたと記憶しています。
やがて鍋に湯が注がれ、火が灯されました。
そんな返事は聞きたくありません。
消灯と共に、1人3品ずつ持参した食材の中から、1品入れて鍋を掻き混ぜました。1回戦の始まりです。僕は比較的硬い感触の物体を箸で摘み、口に放り込みました。種付きピーマン(生)でした。当時はまだ子供だったので、あまり凝ったものは誰も持って来なかったようです。辛子を半生のパン生地で包み込んだ爆弾を作ってきた輩はいましたが。
何を食べたのか知りませんが、いきなり脱落した者もいました。
2回戦の内容はど忘れしました。
3回戦開始。次の具を口に入れた途端、思わず吐き気をもよおしました。先程までとは明らかに味付けが違います。どこかから、ぶほぉっという音が聞こえました。
電気を点けてみると、鍋の中で茶色く濁った不気味な液体
がグツグツとあぶくを吐いていました。爆弾を作ってきたWが、板チョコを鍋に放り込んでいました。チョコレートは完全に溶けきって、今や立派なダシ汁の仲間入りです。なかなか思い切った行動をとる男です。
ふと隣を見ると、ゆでミカン(皮付き)を口にほおばったまま、泣きそうな顔をした友達がいました。相当不味かったようです。チョコ風味がなかなかの曲者で、普通なら食べられる程度のものでも、吐き気を催すほど気分が悪くなりました。
ダシ汁が使いものにならなくなったので、闇鍋大会はお開きとなりました。闇鍋を食したことのある者から、美味しいとか不味いとかいう感想は出てこないのではないでしょうか。強いて言うなら、激しい食べ物です。みなさんも重々に気を付けてください。