幽霊になる

実は僕、最近まで油気のある物はたとえポテチだろうと素手で触ることができませんでした。周りから奇異の目で見られつつスナック菓子を割り箸で食べていました。

何でかなーってずっと疑問に思ってたんですが、どうも過去に経験した事故がトラウマになっているみたいです。今回は僕が油を触れなくなった原因についてのお話です。

今は大きなマンションに建て替えられましたが、昔、ウチの近所に廃工場がありました。火事が原因で封鎖されたらしく、そこら中が焼け焦げ、床一面が油だかタールだかでベトベトでした。だからこそ、子供たちにとってはいい遊び場になってました。

僕が幼稚園に行ったか行ってないかの頃、その廃工場で鬼ごっこをしてたときの話です。

鬼から逃げる最中、僕は油に足を取られて転んでしまいました。そして運悪く床から飛び出していた針金で、眉の辺りを刺してしまいました。

全身油でベトベト、眉からは血をドクドク流しながら、一緒に遊んでた友達に助けを求めました。

「オバケや! オバケが出たっ!」

みんな叫びながら逃げて行ってしいました。薄情です。

僕は友達の言葉を真に受けて、自分がすでに死んでしまっているんだと思いこんでしまいました。

今日からは僕も幽霊です。幽霊らしくしないといけません。そうそう、こないだTVで見た番町皿屋敷のお岩さんは、確か胸の辺りで手をブラブラさせていました。さっそく真似することにします。

そのまま廃工場から出たとき、たまたま近所のおばさんに会いました。僕は幽霊らしく振る舞わねばと思い、口をついて出たのが…。

「う、うらめしや?!」

でした。おばさん、ちょっとビビってましたね。顔面血だらけの子供がうらめしや。確かに怖いです。色んな意味で。

でもおばさんは立派でした。一瞬にして気を取り直すと、ちゃんと僕を病院まで連れていってくれました。僕を自転車の買い物カゴに入ようとしたあたり、ちょっと混乱してたのかもしれませんけど。