鈴木智子報告──
前回の鑑賞ツアーが滋賀県近江八幡の「NO-MA邸」で少々遠出だったこともあり、
今回は京都市内でどこかいい場所はないか、いい展覧会はないものかと探しました。
主要な美術館は行きつくした感がありましたが、ふと目にした情報誌に
何やら私好みの絵が…。会場も”何必館”で「そうか、ここがあった!」という
思いでした。
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何必館というのは京都祇園界隈の然も四条通りに面しているという立地条件です。
これまでに2〜3度訪れたことがありましたが、「こんなところにこんな場所が
あるんだ…」と思うほど、外の喧噪を忘れさせ静かな時間を与えてくれるところです。
1フロアーはそれほど広くはないのですが、和を感じさせる部屋、吹き抜けのように
なっていて階段で昇り降りする部屋、茶室のある階には緑の美しい紅葉がガラスの
向こうに一本、ちょっと休憩しようかと近くのソファーでくつろぐことができる
空間もあります。
ここならば今までとはまた違ったおもしろさを感じてもらえるのではないかと
思いました。
もちろん建物だけでなく重要なのはどんな作品展かということですが、
それも下見に行った段階ですぐに決まりました。
開催されていたのは上野憲男という方の作品展でした。上野さんは北海道で
生まれ、現在は那須の地にアトリエを構えて制作をされています。
また、「青の画家」と呼ばれており、その作品に表れる青には、静かに何かを語り
かけてくるような奥深さがありました。
抽象的な絵画なので言葉で説明するのは難しいかも知れないと思いましたが、
作品には「ドルフィンストリート」「海上のスフィンクス」などの詩的な
タイトルがつけられていて、それを聞いた人、見た人が何を想い語るのだろうと
興味を持ったのです。
加えて、ラッキーなことに下見に行ったその日に作家さんも美術館にいらしていて、
作品とピタリとくるその風貌に圧倒され、声をかけることもできませんでしたが、
もしや当日もお会いすることができるかも…と淡い期待を持ちました。
さて、いよいよツアー当日。夏、真っ盛りの時期ということもあって、
カンカン照りのもと…と想像していましたが、残念!というべきか小雨まじりで
生憎の空模様。それでも全員で26名という結構な大所帯となりました。
作品を説明してくれるガイドの方には、初参加で然も名古屋から駆け付けて
くれた人もいて、嬉しさも倍増です。いつものように3人一組のグループに
分かれて早速そこここへ移動しました。
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今回の絵画は全てが抽象画ということで説明する側の者にとっては一度は
越えなければならない試練の場のようなものでした。
絵の中に描かれた四角や丸の形、矢印や文字など、また全体の色や部分的に
描かれた色、絵の具の滴り落ちるすじ…。
そういったものをただ説明するだけでは物足りない。かといって、タイトルを
見たら解決するものでもない。みなさんずいぶんと苦労をされているようで、
「どんなふうに言ったらいいかなー」と思案気味の声が聞かれました。
それではということで私も実際にひとつのグループの中に入って説明を
試みてみました。(「森のヴィナス」という作品です。)
まずは描かれた形を説明し、次に自分が感じたイメージを・・・
「真ん中に描かれた白い線が森の中にある一本の樹のようにも見えるし、それが
凛と静かに佇んでいるようでヴィナスを表しているのかも知れないですね。
若しくは、暗い森の中に分け入って、樹々の間からこぼれる一筋の光のようにも
見えます。その白い線のまわりにYの字やVの字型が描かれていて、枝のような
鳥のような、ヴィナスのまわりを飛ぶ天使のような…」など思い浮かぶ限りを話し
ましたが、聞いている方はちょっと困惑?だったようです。
また一方では、作品を点図にしたものを触りながら、(その点図はマス目のように
四角い形が並んでいて、それぞれの四角は点図のブツブツを並べて表してあります)
「なんだか(お菓子の)『おこし』みたい。」とおもしろい発想!が出ていたりで、
あんまりカチカチの説明ではイメージは広がらないものかも…と思いました。
そんなこんなでそれぞれのグループが一通り見終わったなーと思うころ、
なんとも嬉しいサプライズがありました。
ツアーの当日、この作品展の作家、上野憲男さんが会場にいらっしゃいました。
下見の時は近付くこともできませんでしたが、今日はそんなことを言って
いられないと勇気を振り絞って声をかけさせていただきました。
この鑑賞ツアーの意図を説明し、「もしよろしければ、絵について何かお話しを
していただけないでしょうか。」と図々しくもお願いをしてしまいました。
そして「私が何か説明をしてしまうより、見ていただいた方が自由に自分の思うこと
をお話ししていただければいいのですよ。」とのお返事。
これは当然のことと、ただただ赤面なのですが、上野さんはそのまま会場に居て
下さり、絵を鑑賞するグループの方から個々に質問があればそれに答えてくれ、
気さくにお話しをして下さいました。
こちらが大層に講演会よろしくの場をつくるのではなく、もっと自然に直接
感じたことをぶつけたらよかったのだと、そしてそれをちゃんと受け止めてくれる方
なのだと。
この展覧会に来てよかったと思いました。
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ツアーの締めはいつもの通り、近くの喫茶店でお茶会&感想会です。
視覚障害の方からの感想には、難しかったという声も多かったのですが、
それでも絵に対して「無限の感じがする。」という言葉や
「作品のベースになるブルーやグレーに重なる他の色や形が、バランスよく配置
されているようすは伝わってきた。好きな作品だと感じた。」などの言葉も
ありました。
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参加した人それぞれが何かを感じること、考えること、好き嫌いを言い合える
ということが鑑賞ツアーの醍醐味です。何だかこの日を十分に味わえた気がして
私としては満足でしたが、他の方々もそうであったことを願いつつ、更に
いろいろな展覧会をみんなで見ていきたいと思いました。
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