お絵描きワークショップ第7弾 「言葉から生まれる絵」



2006年11月26日(日)
場所 山科身体障害者福祉会館
参加者数 見えない人 4名
見える人 8名
講師 白井翔

─ 白井翔報告 ─
今回のワークショップ「言葉から生まれる絵」は、私(白井翔)がミュージアムアクセスビューで、 美術館展覧会などを言葉による鑑賞をしてきましたが、参加者(私を含めて)の心のキャンバスに、 どのような映像を写し描いているのか気になり、アクセスビューのあべさんに提案のメールを 送ったのがきっかけでした。
以下その提案のメール本文です。

「昨日の展覧会は、なかなか私を受け入れてくれない作品で、唯一観音さんの作品と動物たちの天国の楽園の作品のみ、絵の世界に入れることができたように思います。
さて、今後のアクセスビューのワークショップでの提案がありまして書いてみます。
昨日も沢山の視覚障害の人たちが作品を鑑賞しました。
その視覚障害者それぞれ頭、心の中には、別々の作品のイメージが浮かび上がっていると思います。
その描いている作品を、実際にキャンバスに書いてみるのも面白そうだと思います。例えば何か面白そうな写真や作品を数枚用意して、イメージを膨らませたあとに、実際にキャンバスに描いて見ましょう。という方法でするのが1番やりやすそうだなあと思います。
じつは昨日伝えたいと思っていたのですが、お話しできる機会がなかったので残念です。」

ワークショップの説明をする白井君と阿部さん 初めてアクセスビューで前に出て話すのは、知っている人も多く、少々緊張気味でした。
しかし、ワークショップが始まり、少し経ってから緊張がとけ、いつものミュージアムアクセスビューの雰囲気と自分を表現するカラーになったと思います。

前で話していますと、いつものワークショップとかなり違う側面が見えてきました。参加者それぞれ、いろいろな言葉や表現をしています。
特に心に残っている参加者は山川さんです。
私の前で、ばんばん机をたたいていると思ったら、自分の世界に入り込んでいるようでした。そして遠藤さんと田中さんのグループは、対話型鑑賞のときからアイマスクをはずさずに、制作のときもアイマスクをして作品を作っているという、私を驚かせる表現をしていました。遠藤さんは少し見えるようです。
光島さんはオイルパステルを使用して描いていました。
白坂さんはかなり悩んで描いていたとおもいます。
前にいて参加者の皆さんを見ていますと、サポーターに無理難題を言っているなあと感じ、私も参加者のときはこのように言っているんだなあと初めて感じることができたのです。
制作風景1 制作風景2
制作風景3 制作後の懇談風景
ワークショップが終了し、それぞれの作品を見せて頂きました。特に印象に残っている作品を二つ上げます。

山川さんはモデリングペーストを使用し、紙粘土などを多く取り入れて作品づくりをしていました。心に描いた作品は現代ブラジル展のアニマルです。あの毒々しい、食事のときに見ると多分気持ちが悪くなるような作品からは、手で触って創造できないふわふわし、モデリングペーストとよくあっているような作品だったと思います。
遠藤さんは毛糸、私が持ってきましたどんぐりを使って作品を制作。心のキャンバスに創造した作品は犬の絵。お腹の胎児を創造。アイマスクをしていたのに本当に面白い作品ができていてびっくりしたのと、なにやら作品の絵をコピーした一部を切り抜いたものも使っており、遠藤さんと田中さんのアレンジは良かったように思います。

─ 参加者の感想 ─
遠藤れん子
白井先生に「面白い」とほめられてうれしいです。見える世界と見えない世界の境界線にいる者として、 これからどんな作品が作れるのか自分でも楽しみです。またWSに参加したいと思います。
参考
下の4点の絵を、目の見える参加者が、それぞれの印象を心に浮かぶまま、言葉で表現。
目の見えない参加者は、それらの言葉からイメージをふくらませ、制作をしました。
菊の写真
1.『菊』白井翔撮影
キッチンタイルのような絵
2.『キッチン用タイルにさまざまな獲物たち』
アドリアナ・ヴァレジョン作
不思議な形の絵
3.『そばに06-3』徳田奈穂子作
鳥の絵
4.『大家族』ルネ・マグリット作

作品を見ながらの会話より抜粋
※■印の付いたイニシャル(赤色文字)は見える人、▼印の付いたイニシャル(青色文字)は見えない人の言葉です。

1.『菊』の写真を見ながらの会話
2.『キッチン用タイルにさまざまな獲物たち』を見ながらの会話
3.『そばに06-3』を見ながらの会話
4.『大家族』を見ながらの会話

── 1.『菊』の写真を見ながら
▼白井さん 「この絵は、どのように観えますか?」
■Sさん 「写真だと思います。菊…ボール型の菊が真ん中にボン!とあります。」
■Oさん 「あのね、丹精こめて育てた菊だと思います。」
■M.Mさん 「これは菊の展覧会の菊だと思います。」
▼Yさん 「ひらぱーの菊人形?」
■誰ともなく 「菊人形の菊とは違う。」
▼Yさん 「丸いの?球なん?」
■誰ともなく 「さっき、ボールって言わはったやん!」
▼Yさん 「あ、そうやったっけ?」
■Tさん 「全部で3つの菊があるんですけど、真ん中の菊が一番大きくて…右側 のは紫で…」
■Hさん 「(構図の説明)…」
▼Yさん 「これくらいの大きさ?(手を動かして確認する)」
■Hさん 「そうそう」
■Dさん 「落ち葉っぽいのが見えるので、庭だと思う。」
▼M.Tさん 「天候とかは?明るい、暗いとか…」
■Sさん 「写真って言ったけど、写真をカラーコピーしているので…色が暗っぽ くて…庭かもしれないけれど、ちょっとよくわからないですね。右下に影と光 のあたってるような筋のようなものがあるので、天候はよいのではないか…」
■Oさん 「品評会で見るような菊なので…真ん中の菊は、まだ散りそうではない 感じ。」
▼Yさん 「菊って地味な印象があるけど…色はいっぱいなの?」
■M.Mさん 「色は、黄色一色よ。大輪ですね。」
■Tさん 「タンポポみたいね。」

── 2.『キッチン用タイルにさまざまな獲物たち』を見ながら
▼白井さん 「これは、どんな絵ですか?タイトルは後で(質問が終わったら)言 います。」
■Dさん 「タイルを組み合わせて、1枚の絵になっています。タイル1枚1枚に…白地に青で描かれたタイルを使って…」
▼Yさん 「本物のタイルなん?」
■Dさん 「本物…あっ写真なので、本物なのかはわからない。実物のサイズもわ からない。」
■Hさん 「背景がタイルで、人体、動物の部分、魚の部分などが切り離されて、 組み合わされて並んでいます。例えば右上は魚の頭で…コラージュのような作品です。
▼M.Tさん 「パズルのような?」
■Hさん 「パズルではない?」
■Tさん 「一面に絵の入ったタイルがモザイクに貼ってある作品です。…パズルを分解して置きなおしたような…基調になっているのは白地にブルーのタイルですけど、バラバラに崩したものを組み込まれて…不思議な、不気味な感じです。」
■M.Mさん 「白地にブルーなので、はじめはさわやかなイメージなのに、見れば見るほど不気味、グロテスクな印象になってきます。…(構図の説明)…壁にぶら下がっている。これからのご馳走にしようとしてるのか…」
■Oさん 「見れば見るほど、いやぁ〜な絵やね。キッチンだとは思うけど…足首を縄でくくって食材(肉)をぶらさげているような…」
▼M.Tさん 「それが青いの?」
■Oさん 「それは青くなくて…」
(さらに、M.Tさんは青にこだわった質問を続ける。)
■Sさん 「…魚だけは、頭が上に…」
■Oさん 「食材のなかに、なぜ人間がはいっているのかなぁ?」
■Sさん 「そうですね。人間も切断されたからだです。顔はないです。」
▼M.Tさん 「血はしたたり落ちてるの?」
■Sさん 「血は無いです。鶏肉のような…タイルの上にペタッと貼り付けるの感じ。」
▼白井さん 「ちなみに、下から見るとどんな感じですか?」
■Sさん 「写真なので、平面だから…下から見ても…」
■Aさん 「みんなの(発言)を聞いていて、ポップなキッチンに、切り刻んだ食材が並んでいるギャップがあるのかな、と思う。」
▼Yさん 「絵じゃないの?写真?」

── 3.『そばに06-3』を見ながら(不思議な形の絵)
▼白井さん 「思いついたら、バンバン!お願いしま〜す!では、Oさん。」
■Oさん 「画面としては正方形です。さっきの菊と一緒で黄色。黄色のグラデーション。」
▼Yさん 「グラデーション?」
■Oさん 「グラデーションっていうのは…(説明)…今回のは可愛い感じ。」
■Hさん 「暖かい感じのグラデーション。私は、これは出来損ないのパン。揚げパン?ぼよ〜ん。ぽわ〜ん。」
▼M.Tさん 「丸くはないの?」
■Hさん 「だから、出来損ないの揚げパン…さっきの作品と比べて、ちょっとホッとした。」
■Tさん 「申し訳ないけど、私は、胎児みたいな感じがした。」
■Aさん 「私は、胎児に近いけど、犬に見えた。」
▼M.Tさん 「生き物なの?」
■Oさん 「これが胎児だとしたら、生まれたら…白井君が生まれると思う。」
■M.Mさん 「幸せな気持ち…きれい…」
■Sさん 「描かれている物体がオレンジがかった黄色で…ちょっと人間の体が 持っている色に近いから、そう思うのか?…背骨からお尻のラインが出ている形をしています。」
▼S.Kさん 「今の作品が、一番つかみにくい感じがします。」
▼白井さん 「心のキャンパスに描けましたか?みなさん。」

── 4.『大家族』を見ながら(鳥の絵)
▼白井さん 「みなさん、思いつくままにお願いします。では、Oさん!」
■Oさん 「なんで、私ばっかり…私は、見たことのある有名な絵なので…(構図の説明)」
▼M.Tさん 「日本画ですか?」
■Oさん 「洋画です。」
■Hさん 「Oさんが画面の下にどんよりとした海と言われましたが、画面の上には 嵐の前兆か、暗い空があります。鳥の形にくりぬかれていて…青空が…」
■Sさん 「暗い空で、海も嵐が来そうな風景に、一羽の鳥が…むずかしい。青空を描かれた鳥なので…」
▼Eさん 「鳥は大きいの?」
■Sさん 「はい。翼を広げていて、かなり画面いっぱいに描かれています。鳩かな?」
■Tさん 「鳩のシルエットの向こうに青空が…鳩って平和の象徴なので、くりぬかれた 鳩に青空が見えるのは、なにか平和をあらわしているのかなって思います。」
▼M.Tさん 「どっち向いて飛んでいるの?」
■Tさん 「…飛び立とうとしているのではなくて…」
■M.Mさん 「尾っぽは、海にかかっているし…降りようとしている?」
▼Tさん 「…力強く羽ばたいている感じ?」


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