第14回鑑賞ツアー 「プライスコレクションー若冲と江戸絵画」



2006年10月15日(日)
場所 京都国立近代美術館
参加者数 見えない人/見えにくい人 9名
見える人 16名
サポート(ビデオ) 2名

─ 阿部こずえ報告 ─

若冲展チラシ プライス?若冲?(なんて読むの?)というレベルで、今回のツアーを決めましたが、お客さんの多い人気の展覧会だということを知りました。他のお客さんに迷惑かかるし、多いと見れないかなぁという心配がありましたが、しかし、美術館からの万全なサポートもあり、安心して臨め、また本当に見所多い作品の数々で、たっぷりと楽しむことができました。
プライスコレクションの「江戸絵画」は、にぎやかで表現豊かで個性的な作品が多く、これまでの日本画のイメージとはだいぶ違う印象を受けました。
また、今回は、見える人の参加申込が少なかったこともあり、いろんなところへ案内した結果、初参加の方がたくさん来て下さり、新しい出会いがいっぱいのツアーでした。いつもより男性の参加率も高かったです。

■ 点図を使って鑑賞
『白象黒牛図屏風』/長沢芦雪
会場入ってすぐに、この2匹がお出迎え。高さが背丈ほど、横が二双合わせて、3m以上ある大きな屏風の絵です。1双ずつ、屏風からはみ出ているほど大きく白い象と黒い牛が描かれています。
牛の絵の屏風
作品『白象黒牛図屏風』
点図牛の絵
点図『白象黒牛図屏風』
点図牛の絵を拡大
点図 牛の顔部分拡大

『鶴図屏風』/伊藤若冲
こちらも点図を用いた鑑賞です。
鶴の胴体はさらりと一筆で動きのある描き方、羽根や足、くちばしといった細部はとても細かに描かれているのが わかります。
おおまかな構図や、いろんな格好をした鶴の姿を点図で伝え、細部は言葉で鑑賞します。

もう1点、若冲の作品の点図はこちら。
鶴の絵の屏風
作品『鶴図屏風』
鶴の絵の点図
一羽の鶴の点図
■ 言葉を使って鑑賞
いつも、見える人からも見えない人からも、他のグループでどんな会話がなされているのか、どんな鑑賞が行われているのか知りたい、自分たちがどんな会話をしているのか知ろう、という意見が聞かれます。
今回はビデオにて様子を撮らせてもらうことにしました。少し意地悪をして、話が弾みそうなのと、弾みにくそうなのを選ぶことに・・。
この会話の様子は後日、ワークショップで使いたいと思います。(ビデオを撮ることで緊張されたかな?ご協力ありがとうございました)
さて、どんな会話が繰り広げられたでしょう?少し紹介です。(抜粋省略しています)


── 『三千歳図』を見ながらの会話(大きな桃が描かれた作品) ──
▼グループ1(A:見えない人  B,C:見える人)
C:桃の絵です。大きな木になっていますね。
A:木になっているの?
B:はい、でも木の全体は描かれていないです。
  桃は人の頭ぐらい。
A:デフォルメされているの?
B:はい。デフォルメされていますね。
  なんとなくおいしそうな・・・。
C:鮮やかで・・大胆に描かれています。
  おいしそうだと思って桃を描いたような。
  その人の感情が出ています。


▼グループ2(D:見えない人 E,F:見える人)
E:いつも食べているような桃のイメージではない。
  年寄りみたい。
D:年寄りみたい・・!?
F:桃のまわりの葉っぱは枯れている。
  桃は、みずみずしく力強いんだけど。
E:桃はキューピーの頭みたい。
D:へー・・何色ですか?やっぱり桃色?
E:とんがっている部分は赤でやわらかそう。
  血みたいな・・。
  怖いぐらいの生命力がある。
F:逆にはっぱに水分をとられたみたいな。
E:桃はこっちにむかってそう。
  おおいかぶさってくるみたいな。
D:動き出しそうな感じなのかなぁ・・。

『三千歳図』/岩井江雲
三千歳図
▼グループ3(G:見えにくい人 H,I:見える人)
H:大きな桃の絵。
G:おいしそうですか?
H:大きすぎて・・・。うーん。まんまるの桃というより先がとがっている。
G:うれているのですか?
H:桃はじゅくしているが、はっぱの多くは枯れている。
I:ごわごわした感じが不気味な感じがする。色もじぶいし。
G:取って食べようというより、神々しい感じですか?
  取ったらあかんような感じですか?
I:うーん。(解説を読んで)三千年に一度なる桃らしいです。
G:ということは、木はもっと古いということですね。
  そんじゃそこらにはえていないでしょね。
  あんまりかわいい感じではないですね。
I:ええ。迫力ある感じです!

桃は本当においしいそうだというグループと、少し妖しいというグループがありました。 桃太郎が入っているような桃だと話が発展したグループもあります。
この絵は次の絵よりも盛り上がっているグループが多かったようでした。


── 『白衣観音図』を見ながらの会話(観音様のいる不思議な作品)  ──
▼グループ4(J:見えない人 K,L:見える人)
K:滝の下に白い衣を着た観音様が岩に
  腰掛けています。
L:あら?鼻の下にひげがはえている?
  観音様は女性だと思っていたけれど・・?
K:ほんとだ。髪も長くて体はぽっちゃりしているのに・・。
  顔をみなかったら女性なのに。
J:・・?座り方はどんな感じですか?
K:あぐらです。後ろは滝があって後光がさしている。
J:・・??ひげがはえていて髪が長いのに
  神々しいのは不思議ですね。。

グループ5(M:見えにくい人 N,O:見える人)
N:観音様はおひげをはやしていますね。
  本当は性がないといいますがねぇ。
M:この絵には何か意味や物語があるのでしょうか?
  (作品に近づいて見て)
  霊気みたいなものはなんですか?
  (観音様の上の横の白い光)
O:ほんとだ。不思議ですね。
  光が右のほうから出ているみたいですね。
  あ、縦にも線がありますね。
M:「言葉」じゃないですか?下界から聞こえてくる言葉。
  下界の上にいるみたいだから。
O:あ、そうかも!
N:そういえば、左下に雲がみえますもんね!
『白衣観音図』
柴田是真

『白衣観音図』

グループ6(P:見えない人 Q,R見える人)

Q:真ん中に観音様がでーんと座っていて、真っ白な衣を来ています。
  がけっぷちみたいなところに座っている。
P:あ、修行中ですか?
R:ううん。落ち着いて座ってるので違います。
Q:上には滝みたいなものが流れています。
  子どもか小人が何かしゃべりかけている。後ろは後光がさして・・
P:後光の輝いている色はどんな色ですか?
R:白でぼやっとした色で。
Q:あれ?観音様って男なんですか?
R:うん。男じゃない。
R:そうですね。ひげがはえているもんね。でも女性的な体ですね・・?

観音様の絵は、少し不思議な絵なので、見えている人も見えてない人も同じく「?」の多い作品でした。
その為か、グループ5では、見えない人のほうがどんどんイメージを膨らませて、絵を細部まで、見える人に気づかせている様子でした。
背後の白いものは「光」だったり「滝」だったり「言葉」だったり、観音様の性別も男性だったり女性だったり、解釈は自由に行われていたようです。

■ 感想会
感想会ではグループごとに、桃の絵と観音様の絵がどのように語られていたか、話をしてもらう予定でした。
が、たぶん、客観的に自分たちがどんな話をしたかというのを、すぐに発表するのは難しかったようです。(私のまとめ方もまずかった、反省)
逆に、見えない人のほうが冷静に絵の感想を伝えていただいていました。

■ 終わって
ツアーが終わって2週間ぐらいたって、ある参加者が、桃の絵(「三千歳図」)が忘れられないとおっしゃっていました。
また他の方は、観音様(「白衣観音図」)が心に残っていると、おっしゃっていました。
その人ごとにいろんな絵が心に刻まれたんだなあと感じました。1点でも心に刻まれる、持って帰れる絵があったらいいなぁ、と思います。

作品は、その時のグループのメンバーにより、受ける印象が異なってくると思います。
ビューでは、そのメンバーみんなの言葉から紡ぎだされた絵を楽しんでもらえればと思います。
また、次はどんな作品鑑賞ができるでしょうか。また次回もお楽しみください。


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