第9弾お絵描きワークショップ 「えのぐで遊ぶ・色で遊ぶ」
 
 


2007年8月19日(日)
場所 山科身体障害者福祉会館
参加者 見えない人・見えにくい人 : 8名
見える人 : 6名
講師 : 鈴木ともこ

── 鈴木ともこ報告 ──

ビューのお絵描きワークショップも第9回を数えました。
今回のワークショップタイトルは、「えのぐで遊ぶ・色で遊ぶ」。
そのタイトル通りに中心の画材は”えのぐ”です。
えのぐは触ってもわからない・・・けれど、 あえてチャレンジしてもらえないかと取り上げてみました。
というのも、以前、目の見えない方から「盲学校の授業では、えのぐを使って絵を描くことがなかった。」 と聞いたことがあり、えのぐを使ってのワークショップがなんとかできないものだろうか? と思っていました。
でも、やはり難しいのかな・・・触れるからこそ、自分の作品だ!と楽しめるのだろうし。
そんな折、私が主宰する絵画教室の子どもたちに、「大きな紙にえのぐで思いっきり色をつけよう!」 という授業をしました。
何か物体を描くというのではなく、好きな色をどんどんぬっていく。 筆じゃなくても、手でも足でも使っていい。
そんな時は子どもたちのテンションは一気に跳ね上がり、ワーワー、キャーキャーと楽しみます。
普段は、「えのぐでぬるのはあんまり好きじゃないんだ」と言っている子どもでも、 「次は何色にする!?」と友だちと嬉しそうに相談しています。
画面に自分のぬった色が次々と表れ、変化していくところがおもしろいようです。
えのぐだからと言って硬くならずに、こんなふうに遊ぶ感じでワークショップをしてみたら、 子どもたちと同じように楽しめるかも知れない。
多少、強引ではありますがやってみないとわからないのなら、やってみようと決めました。

ワークショップで使用する画材はえのぐ。えのぐには水彩えのぐとアクリルえのぐを用意することにしました。
アクリルえのぐは、例えば中におがくずをまぜておけば、触ってもわかるようになりますし、 盛り上がりの緩急があれば、作品の表情も変わり、いろいろ試してみることができると思いました。
えのぐで描くときの道具としては、筆、刷毛、スポンジ、歯ブラシ、あとは自分の手や足です。
道具は何でもいいのですが、できるだけ身近なもので、描きやすいものを準備することにしました。
また、ワークショップの内容は、あまり枠をつくらないで自由にやってもらいたいと考え、 1部と2部に分け、1部では、まずえのぐと道具を知ることから。2部では、大きなテーマを 決め、そのテーマからイメージする色をどんどん画面に描いてもらうことにしました。

さて、当日。まずは会場の準備です。
ビニールシートに座って描き始める人達 今回のワークショップでは、手や足が、えのぐだらけになることを想定。
ですから、いつものように机にきちんと座ってもいられません。
床座りでやってもらう方がいいであろうと、会場にビニールシートを敷き詰めます。と言っても、床座りには抵抗がある方がいるかも…と机も用意しました。

8月、お盆過ぎの一年で一番暑い時期。そして、一番暑い時間帯にもかかわらず、 たくさんの方に参加していただきました。

受付をすませ、周りを見回すと机も椅子もなく・・・。みなさん、ちょっと戸惑いのご様子。 それでも、お好きな場所へとご案内して、スペースを確保してもらいます。
今回は、えのぐでべたべたと描くので、参加者の方には、エプロンの用意をお願いしてありましたが、 中には、服をまるっと着替えている人も。「おっ!やる気だな〜」とその意気込みが嬉しい。
参加者全員が揃ったところで、挨拶と参加者の方の組分け(目の見えないかた、見えにくいかたと サポーターさん二人一組です)、そして簡単な自己紹介をしてスタートです。
テーブルに向かって描き始める人達 サポーターと相談しながら筆を使う人
まずはワークショップ1。
前述のように「えのぐと道具を知ってもらうことが目的です。」と伝えます。
描くための用紙は色画用紙で、これは、最初の足がかりとして、その用紙の”色”について サポーターさんと話しをしてもらい、その紙の色からイメージするものを考えて色を決め、ぬって、 また次の色を決めていけるようにと思っていました。
更に、「何か物体を描く必要はないので、道具として用意したものでどんな感じに描けるのか、 えのぐと水の割合を変えるとどんなふうに違って描けるのかをいろいろ試してみてください」と説明します。

色画用紙が各グループに渡り、まずは話し合い…けれど、みなさんは、さて何から始めたら良いものかと またまた戸惑いのご様子です。
それでも、「じゃあ筆から…」という人もあれば、「ん〜、スポンジでやってみましょう。」という人も。
迷っている様子のグループがあったので、「描かれている色を見ると、山や苔、薄暗い森のような イメージを持ちます。私の言葉からまた何かイメージしたものを色にしてみてください。」と話してもみました。
第1部の作品1 第1部の作品2
第1部の作品3 第1部の作品4
みなさん大人の方ですので、子どものようにあれもこれもどんどん使ってみよう!というよりは、 一つずつ丁寧に取り組んでいかれます。
もちろん、中にはいきなり手でどんどんと画用紙にえのぐをぬっていく人も。これはなかなか勢いがあります。
「それぞれの方で違うものだな。」と、当たり前のことながら、強く感じます。
時間の区切りがきたところで、ひとまず休憩。お茶を飲みながらの歓談です。
サポーターさんには、この間にえのぐのパレットを洗ってもらったのでかなりハードなお役目です。

大胆にえのぐを使って描く ほっと一息入れた後、次はワークショップ2です。
1部は練習と位置づけていたので、ここからが本番(?)。
テーマが何もないと漠然としすぎてしまうと思い、かと言って、あまりイメージが固定されないように、 「美しいと思うもの」または「醜いと思うもの」と題させてもらいました。
2部で使う画用紙は、半切りサイズ(790×556mm)のものです。
制作に集中している様子 結構大きいかと思いきや、会場の広さがあればもっと大きくても良かった!
「手も足も使ってべたべた」するにはちょっと小さすぎに映りました。
また、私の気持ちの中には、あまり具体的なものを描かない方が今回の趣旨にはあっているかも知れないと 思っていました。例えば、桜をイメージしても桜自体を描くのではなく、桜の色をべたべたと描く。
けれど、前半の練習の様子を見ていて、いきなり手や足でどんどん描いて!と言われても、 やはり少し抵抗を感じる方もいるように思われ、強制せず、好きな道具で描きたいものを描いてもらった方が いいと判断しました。
足を使って描いている人 テーマを告げ、「形を描かないで色だけで表現してもいいですし、イメージした物を描いてもらっても 構いません。」。
すると、1部の時より、みなさん筆が進んでいる様子です。えのぐで描くことに慣れてきたのか、 イメージが湧き上がって早く描きたいのか。
スポンジに水を多めに含ませたえのぐをつけ、画面をさっ、さっ、とぬっていく方。
筆でピンク色に染めていく方。真っ黒にぬった方。こちらでは、足でもう画面を踏みしめています。
けれど悩みながら…の様子の方もいて、やはりえのぐに対してのそれぞれの向き合い方があるのだなと感じました。

できあがった絵の中には、美しい青い空にふわっとした雲が広がり、下は一面の草原というものや 暗い色を背景に画面が青・黄・白の色で3つにぬりわけられ、とても迫力を感じるものなどがありました。
足をえのぐだらけにして描いた作品はえのぐの強弱があって、色がたくさんあって、「描いた人の心の中の風景」 のように見えました。
第2部作品1 第2部作品2
第2部作品3 第2部作品4
久しぶりにえのぐで描いたという方も、こんなに手にえのぐをつけてぬるなんて初めて!という方も、 少しでもえのぐで描くことを楽しんでもらえたら嬉しく、また触れてもわかりにくいかも知れないですが、 画材として、えのぐはいろんな可能性を持っていると感じてもらえたのなら幸いです。

最後に、このワークショップをするに中り、当初は「子どものようにえのぐまみれになって」と考えていました。
できるだけ、それに近づきたいと模索する中、
「一枚の大きな紙を用意して、みんなで足や手で描いたらどうだろう?」
「でも、会場を汚してはいけないし、作品を持って帰ることもできないし・・・」
「形があるものを描くのは禁止にしたらどうだろう?」
「でも、それでは触れないだけに作品を想像しづらいし・・・」
と葛藤しました。結果、ちょっと安全策のような内容になってしまったと、実は少し反省をしています。
また、このワークショップが終わったあと、すぐにビューのブログに感想を書き入れてくれた方が、 「もう少し色について、色を楽しめるような日常から解き放されるような仕組みを作っておいてほしかった。」 とあるように、ちょっと説明しただけで、いきなり「描いてください」は実に乱暴だったと。
またワークショップをさせてもらう機会があれば、描くという行為までに誘う仕組みを、 もっと考えなければいけないという私の今後の課題となりました。経験するごとに勉強になります!
参加して下さった皆様、サポーターさん、ありがとうございました。
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