── むかひらまゆみ報告 ──
銅版画・・・聞いたことはあるけど、それを作るなんて、見える人にとっても見えない人にとっても、ほぼ未知の体験。
今回の会場は、講師の岸中延年さんが主宰されている版画工房ENNEN FACTORY。地下鉄松ヶ崎駅からすぐの閑静な住宅街にあるご自宅兼工房は、建築雑誌に出ているようなモダンでステキな建物。
工夫を凝らしたお庭、建物の中もオシャレで開放的な空間。口々に「わぁ!」とか「すごい!」とか言いながら、おうちに上がらせていただきました。
まずは自己紹介から始まり、銅版画の説明や制作の手順や注意点などを聞きました。
今回の銅版画はドライポイントという手法で、ニードルという尖った金属製の道具で銅板を直接引っ掻き、インキの詰まる溝を作るという方法。
引っ掻く力の強弱で線の濃淡を表現し、また、その線に「ささくれ」が出来ることで、太くなったり、にじみのような面白さも出るとのこと。
他に、彫った線を消すバニッシャー、転がすと点々のような柔らかな線を表現できるルーレットと、三つの道具を用意していただきました。
また、刷り作業に使う用具やプレス機なども、見たり触ったりしながら説明を聞かせていただきました。 |
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次に、すでに出来上がっている見本の銅板と、それで作った作品を貸していただき、岸中さんの説明を受けながら、見えない人や見えにくい人は銅板を触り、サポーターが説明を加えて、作業への理解を深めていきました。
さて、今回描くのは、ここENNEN FACTORY。建物、家の造り、そこにある家具や物、お庭・・・それらを自由に触ったり説明を聞いたりしながら、制作する人はイメージをふくらませていきます。
いざ、ENNEN FACTORYの探訪へ!
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《描画》
家の探訪が一段落したところで、さぁ、いよいよ銅版画制作にチャレンジ!
どの方も、あまり躊躇することなく制作を始めました。
引っ掻いた線を、すぐ触って実感できるので作業もはずむ様子。サポーターとのやり取りで、さらに色々工夫を加えて進めていきます。
中には、力一杯、銅板が突き抜けるんじゃないかと心配するくらい引っ掻いている人もいます。
こうして描いた線が、その後、どのような仕上がりになるのか?それは刷ってみないと分からないお楽しみ!
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《インキ詰め》
銅板の描画が出来上がったら、次はインキ詰めへと進みます。
ウォーマーという温めた金属板の上に銅板を載せて、ゴムベラで銅板全体にインキを薄く延ばしていく作業です。もとは堅い1センチほどの量のインキをウォーマーの熱で柔らかくしながら、平均に薄く延ばさなくてはなりません。ゴムベラの使い方に慣れないうちは、ちょっと難しかったかも。
《余分なインキの拭き取り》
インキの詰まった銅板を作業台へ移動し、丸めた寒冷紗で版面のインキを拭き取り、最後に残った油膜をロール紙で拭き取ります。これで、引っ掻いた線の中にだけインキが詰まった状態になります。
《刷り》
まず銅版画用紙の準備です。用紙は適度な水分を含んでいる必要があるので、水に浸してあるのを取り出して、吸い取り紙に挟んで余分な水分を吸い取ります。
プレス機は、大きく重いロールを手動ハンドルで動かしてプレスするという仕組みの機械です。先の銅板をプレス機の平らな金属板部分に載せ、その上に銅版画用紙を重ねて置き、さらにその上にフェルトをかぶせて、ロールを動かします。重いロールでプレスされて、さぁ、作品の完成!
恐る恐る?フェルトを捲り上げて出てきた作品の一つ一つに、「わぁ〜!」というサポーター達の歓声が上がります。 |
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《後片付け》
作品鑑賞のワクワクする気持ちはちょっと抑えて、先に後片付け。刷り終えた版を溶剤できれいに拭かなくてはなりません。
事前に、最も汚れるかもと気になっていた作業でしたが、服が汚れたっ!なんて騒ぎも起こらず、思いのほかスムーズにいきました。
いくつもの工程がありましたが、制作者はサポートを受けつつ、どの作業も自分の手で体験されていました。
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さて5名の方の作品を壁に並べ、いよいよ出来あがった作品を互いに鑑賞しあう時がやってきました。
額縁に入れて、家の部屋の壁に飾りたい!・・・思わず私の心に浮かんだ気持ちです。どれもみな本当にステキなアート作品。
それぞれの作品について、制作者の思いや感想、サポーターの感想を話してもらいました。他の見えない人は話を聞きながら、その銅版を触ることによって作品を感じ取っておられました。
お庭の様子を描かれたある方は、版画は左右が逆になるからと、それを考えて描いたとおっしゃっていました。
本棚にあったたくさんのLPレコードのコレクションに心を動かされ、そこから音楽をイメージして自分自身を表現したと、力強いタッチの作品を作った方もおられました。
また、今回はサポーターさんとのコラボレーションを楽しみながら制作したという人も。
暖かい陽ざしの日だったので、春の兆しを感じてか、庭の木々の蕾を表現する方もあれば、外階段を上った所にあったドアの向こう側に、"ネコちゃんがお昼寝してるかも?"なんて空想を巡らせる人まで。
同じ空間にいながら、それぞれがイメージを大きくふくらませて、こんなに個性ある作品が出来あがる・・・とても興味深く皆さんのお話を聞きました。
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『my funny valentine』 山川さん
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『道』 宮沢さん | |
『芽生え』 田中さん |
『延年さんちの庭の木』 光島さん&たねさん (コラボ) |
『陽だまりの中』 白坂さん | |
制作過程では、ニードルがスムーズに動かないので曲線を描くのが難しかった、細い線や小さな点も印刷するとけっこう出ていることが分かった、点々を表現するルーレットをもっと使えば良かった・・・などなどの感想がありました。
後日談ですが、作品を家に持ち帰って、今までのワークショップの作品の中で、家族から一番褒めてもらったという方もおられたとのこと。
ビューのワークショップの時、私はいつも、行く前は「一体どうなるのやら」と思いながら参加するのですが、最後は「みんなスゴイなぁ」という感動で終わります。
今回は、特にその感が強かったように思います。
場所、道具、機械など全てを快く提供していただき、今回のワークショップを全面的に支えてくださった岸中さんと奥様に心から感謝申し上げます。ありがとうございました。 |