── 中山登美子報告 ──
当日の午前中のお天気は黄砂がはびこる異状現象で白くぼんやりしていたが、幸い、午後からは青空が見え、すっきりすみやかな春日和、エッシャー日和。
今回は奈良市視覚障害者協会の人たちと奈良県立盲学校の先生生徒たちが鑑賞ツアーに大きな関心と興味を持たれて参加されたことも新しい嬉しい出会いでした。
最初は学芸員からのエッシャー・レクチャー、難しい作品事前解説ではなく、エッシャーが高校時代はできのいい生徒ではなく週2時間の美術の時間だけが救いだったこと、エッシャーの父親は水力工学の技師で明治政府のお雇い外国人として日本に6年間滞在したこと、この父親がとても教育熱心でエッシャーへ浮世絵版画の魅力も伝えたと思われるなどエッシャー像のある一面のお話。
いよいよ会場をまわっての自由鑑賞、作品展示はエッシャーの生涯を追ってのテーマ分類別、青少年時代からイタリア時代の作品「空中の城」「バベルの塔」など、独自の世界の作品「上と下」「昼と夜」などから無限の挑戦への時代の作品「凸凹」「婚姻の絆」など80点。
会場にはエッシャーの版画技法のリノリウム版画、板目木版、木口木版、リトグラフ、メゾチント、スクラッチドローングへのていねいな説明ポイントも展示、創作技法も勉強できました。
しかし、作品の画面空間はほとんど白黒のみの連綿とつながる幾何学パターンが多く、移り変わる画面を見ているうち、巧みな絵巻ふう話しにだまされる快感には酔えるのですが、観てる側の脳も分割されてるようでとても疲れました。
最後はカフェでの自由参加による感想会。
”高校生グループは説明する人よりも作品の謎解きが早かった”
”「婚姻の絆」での中身が抜けた顔の説明にリンゴの皮をナイフで螺旋状に剥いていくって例えがとても分りやすかった”
”観る側にかなりの想像力が要った”
”アニメやグラフィックの世界の感覚にも似てた”
”「爬虫類」の変容ぶりが面白かった”
”作品すべてに動きを感じたが変化していく過程が見えないもどかしさもあった”
”鏡やレンズを使った作品への驚異”
”船酔いした時に見た光景と似てた”
などのユニークさでした。 |
|
エッシャー作品世界はエッシャー自身。
20世紀の空間世界への分析試みは彼の構造的な眼によっての平面分割手法で動かすことができたのではと、'エッシャー学'へ目が開けた想いです。
エッシャーの視覚言語の強さはその後の写真、絵画、彫刻などの世界まで影響を与え、彼の作品の背後にはあきらかに歴史が働いていました。
21世紀の人間の生存の目標は立体空間の場所と交わることでしょうか。
| |