── 日野陽子報告 ──
暮れも押し迫る日曜の午後、大阪中之島に位置する東洋陶磁美術館で開催中の
「ルーシー・リー展」へ行きました。ルーシー・リー(1902-1995)は、ウィーンに生まれ、
第二次世界大戦間際にイギリスへ亡命して以来、ロンドンの自宅兼工房で陶作を続けた
20世紀を代表する女流陶芸家です。彼女が生まれた20世紀初頭のウィーンは、丁度昨年12月の
鑑賞ツアーで訪れた「クリムト、シーレ/ウィーン世紀末象徴派展」(天保山サントリーミュージアム)の
芸術家達が活躍した時期と重なり、彼女自身も分離派やバウハウスの影響を受けたと言われます。
昨年末は世紀末ウィーンの絵画を中心に鑑賞することができましたが、今年は偶然にも同時代に
ウィーンで生まれ育ち、ロンドンへ拠点を移した工芸家の鑑賞をする機会に恵まれました。 |
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また、今回は「立体作品の鑑賞を言葉で行う」ということでしたが、ビューの大向さんが
ルーシー・リーの作品の特徴をとらえて、鉢や花器、水差し等の点図を作成してくださいました。
「実際に手に持ってみたらどんな感じだろう」と想像したいところに、触れるヒントを
お作りくださったので、皆さんの表情がパッと明るくなりました。
本当にありがとうございました。
鑑賞の中で聞かれた対話は、実用的な雰囲気の器の前で「ヘルメットを逆さに
したような大鉢です」、「リキュールを入れて飲んでみたいような一口鉢です」
「ああ、ちょうど塩からをちょっと入れたらよいような感じですか?」、といった
日常生活にイメージを取り込んでいく内容から、徐々にバーナード・リーチや
東洋思想の影響を受けた鉢物や茶碗の前で「とても日本的で私達には馴染みのある
形ですが、彼女達はイギリスで一体何を入れて使っていたのでしょうか?」と
いった疑問や話し合いも行われていました。
陶器の作品の合間に、几帳面な釉薬ノートや家計簿、バウハウスの建築家
エルンスト・プリシュケが内装とデザインを手がけたウィーン時代の彼女の家
(リビング)の写真等も展示されていて、それらを目にした後、微妙なゆがみや
不均衡のある鉢や花器を見ると「あんなに繊細で神経質そうなのに、この作品の
ゆがみは作為的に施したものなのか、そうではない(偶然にできてしまった)もの
なのか、どちらなのだろう?」といった話し合いも生まれていました。
1950〜60年代以降、円熟期に当たるセクションでは、さまざまな試行による釉薬が
花開き、一気に彩りがあふれ始めます。鮮やかなピンク、ブルー、イエロー等が
ブロンズや白釉の上に施されています。また、より洗練され、極まってきた朝顔の
ような形やかき落としの技法に、絵画を鑑賞する時と同じような言葉やイメージ、
そして感嘆の溜息があちこちから聞こえてきました。立体作品は触れてみなければ
わからないような気もしますが、この度の鑑賞ツアーでは、展覧会そのものの
内実と大向さんの点図によって、随分堪能できたように思われます。
最後に…私とルーシー・リーの作品の最初の個人的な出会いは、十年以上前、
大山崎山荘美術館に慎ましくたたずんでいた小さな白磁の器でした。一目惚れにも
近い出会いでした。そして、今回の展示の中にあった、物資不足の第二次大戦中に
作られたという陶製とガラス製のボタン群は、宝石のようなきらめきと可憐さを
放ち、生涯妖精のような女性だったルーシー・リーその人を象徴しているように
感じられました。年末のお忙しい時期にお集まりくださった大勢の皆さんと
ご一緒に、今回の鑑賞ツアーを楽しませていただきましたことを、心から感謝
しております。
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鑑賞後、「OSAKA光のルネサンス2010」でにぎわう中之島 | |