── 山川秀樹報告 ──
今回のワークショップは、1月26日から2月5日まで開催された、「奈良県障害者芸術祭
HAPPY SPOT NARA 2011-2012」の一環として開かれた展覧会の関連企画です。
奈良県内でこうした形の美術鑑賞会が行われるのは、おそらく最初。そんなこともあって、
今回のワークショップでは、展示作品やその作品の鑑賞自体というよりは、見えない・見えにくい人と
見える人による美術鑑賞や、対話しながらの鑑賞そのものについて、感じたり気づいたりしたことを
みなさんで共有したり、こうした形の鑑賞会を体感してみての率直な疑問や感想を出し合って
話し合いを深めることを主眼におきたいとも考えました。
今回みなさんと共に鑑賞したのは、「アートリンク・プロジェクト」と題された企画です。
今回の「アートリンク・プロジェクト」は、奈良県内の障害を持つ方と、様々なジャンルの
アーティストがペアになって、お互いの感性や創造性を大切にしつつ、約4か月という期間を
かけて制作した作品と、その作品の制作のドキュメント(制作の過程)を展示したものでした。
実は前日、ギャラリートークを聴かせていただきつつ、少し作品を鑑賞したりもしたのですが、
インスタレーションを中心とした作品の多様さと量の多さに圧倒されてしまった次第です。
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ことばで説明したり、その作品を前に対話したりするのが難しそうな作品が多いようにも思われます。
けれども、ご一緒した見える方のことばからは、とても面白い、制作者のエネルギーや生命力に
満ち溢れた作品ばかりであることが、とても生々しく伝わってはくるのでした。
若干の不安を抱えつつ、いつものように自己紹介から始めました。見えない・見えにくい方は、
奈良県内の方を中心に募集したこともあり、やはり初参加の方と、12月の本ワークショップの
プレ企画に続いて2回目の参加という方がほとんどのようでした。見えなくなった時期は様々ですが、
やはり見えた経験、かつて絵を見た経験がある方が多いように見受けられました。
見える方は、地元奈良でアートのイベントをなさっている団体のメンバーの方々、障害者福祉の
現場で相談や支援をなさっている方、学生さんや子ども関連の施設のスタッフの方など、各方面に
ご案内をしたこともあり、様々な職種や分野の方が参加してくださったようで、やはり初参加の方が多いようでした。特に初参加の方々は、対話による鑑賞とか、見えない人と見える人が共に鑑賞すると言われても、
いったいどんなことをするのか想像がつかないといった様子のようでした。
対話による鑑賞のルールなどの説明の後、展示会場に移動して、いよいよ鑑賞のデモンストレーションです。
すぐ目の前にたくさんの作品が展示されていましたし、参加者の方々同士やその場の雰囲気も
ずいぶん和んでいたこともあってか、デモンストレーションを始める前からすでに作品を前に
鑑賞する小グループでの対話が始まっているのが聞こえました。
デモンストレーションで取り上げたのは、色紙をたくさん使った作品でした。いつものように
作品を前にやり取りを始め、「かわいいというけど、どんなかわいさ?」などと矢継ぎ早に質問を
繰り出していきました。すると、会場からも質問や説明をする人、感じたことを語り始める人が
現れ始めて、開始から10分くらいで、その場に集ったみんなで、その折り紙をちりばめた作品を
鑑賞しているような状況になっていきました。
というわけで、その後、約1時間ほど、各グループに分かれて思い思いに鑑賞や、作品を前にしての
会話を楽しみました。
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みなさんがそろったところで、今回参加してどうだったかなどを自由に話し合ってもらうことにしました。いつものように各々のグループから1・2名ずつ発表していただくなどの形式はとらずに、あえてみなさんで輪になって、まったくのフリートーク形式で話し合ってみることにしました。 |
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ある見えない参加者からは、「もっと鑑賞の仕方を教えてもらえたり、作品について系統的に
説明してもらったりできるのかと思っていたけれど、作品を前に自由に会話するというのが今日の会だった。
見えない人への作品についての説明の仕方など、海外の例も含めて、方法やマニュアルなどはあるのか?」
という趣旨の感想と質問が出されました。
すると、別の参加者からは、「どんな作品なのか(形や大きさや何が描かれているのかなど)を
きちんと説明してもらえるのもありがたいし大切なことではあるけれど、それよりも、作品を見て
自分は何をどのように感じるのか、自分にはどんなふうに見えるのかなどを、たくさん話してもらえると
楽しくて面白い。」という旨の発言がありました。
さらに、別の参加者からも、「いろんな人の異なった説明や、見て感じたことを聴けるのはとても楽しい。
いろんな人の見方や感じ方や説明をたくさん聴くことで、自分の中に作品の像がどんどん出来上がって
いくようだ。」との感想が語られました。
鑑賞や制作の経験を多く積んだ見えない参加者からは、「国内外を含めて、見えない人への作品の
説明の仕方などに、これといった体系化された方法論のようなものがあるわけではない。もしも、
作品や展示についての詳しい解説などが聴きたいのであれば、事前に美術館や博物館などに連絡を入れて、
作品や展覧会について説明してほしい旨を伝えておけば、学芸員などが何らかの対応をしてくれるのでは。」
との提案もなされました。
一方、見える参加者からは、「最初どのように説明したら見えない方によく分かってもらえるのだろうか、
自分が見えないとしたらどのように説明してもらえば分かりやすいのだろうか、などと考えを
巡らせていたけれども、いざ作品を前に話し始めてみると、結局自分が作品を見て感じたままの
ことしか話せなかったし、それでいいのかなあと思った。」との率直な感想が語られました。
また、別の見える参加者からは、「これまでは作品を黙って鑑賞することが当たり前だったし、
鑑賞していろんなことを感じても、その感じたことは自分の胸に秘めておくのが当然だと思い込んでいた。
けれども、今回質問されたりもして、作品を前に何かを語らざるを得ないという状況を初めて経験した。
夢中で話しているうちに、作品を見ながら感じたことを話すのが楽しくなっている自分に気がついた。
感じたことを話したり、お互いの見方を共有するということをやってもいいんだと気づいたとき、
とてもすっきりした気持ちになった。」との体験が語られました。
こんな見える方の体験を聴くと、見えない人のことばがちゃんとメガネの役割を果たしているのかも
しれないなあと、嬉しくなります。
感想会終了後もあちこちで話が弾んでいたようで、今後の奈良での取り組みへの期待感を
強くさせられたひとときでした。
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