── 戸田直子 ──
ビュー主催のこのテーマでの鑑賞ワークショップとしては、2010年7月に次いで2回目。
見えない人・見えにくい人から疑問、質問を投げかけてもらいつつ、対話によって作品を伝え、
感じ合い、鑑賞を深めていくためのワークショップです。
今回はまず講師の山川さんの挨拶と参加者の簡単な自己紹介/講師からビューの4つの鑑賞の
ルールの説明/対話による鑑賞や、見えない人が見える人のメガネになることについての
簡単なレクチャーの後、全体で鑑賞のデモンストレーション、休憩をはさんで4グループに
分かれての言葉・対話による作品鑑賞、最後に振り返りのフリートークというスケジュールで行いました。
≪鑑賞のデモンストレーション≫
■作品1
縦長長方形(人の背丈より少し高いくらい)の油絵3枚を横並び1セットにした作品。
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まず、ビューのスタッフ2人が口火を切りました。
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3枚の絵は、左から右へと連続していると思う。左の絵は種のような形。
真ん中の絵は女性の長い髪の毛の先が手になっていて、その手が子どもが描い
た絵のような、おもちゃのような何かを抱えている。 |
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私は画面全体として縦方向の動きを感じる。全体的には暗い色合い。上下に
1本線が通ってるイメージ。真ん中の絵の、手で抱えられているものが下へ
落ちて行って、それが3枚目の絵に繋がっているように思える。
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スタッフの発言をきっかけに、参加者からも作品の様々な解釈、印象、
イメージに関する発言が続きました。
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私は連続の順番が全く逆で、右から左に連続しているように受け取った。
自分の意識の中にある混沌としたものが底に沈んでいて、それがすくい上げ
られて大きな世界(宇宙とか)に繋がっているというようなイメージ。
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真ん中の絵、私には女性の身体を表してるように思える。
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左と真ん中の絵は淡い色合い、右の絵は深海のような色合い。全体的に優し
い感じ。
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左の絵に描かれてるのは種。真ん中の絵は、女の人がその種を抱えている所を
上から見た感じに描いている。右の絵はその種を埋めて、そこからまた
いろんな楽しいことが出てくるという感じ。
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絵を言葉で説明する人たちに対して、講師の山川さんからは様々な質問が飛び出しましたが、
その中でも印象的だったのは、「色」に関する質問でした。
山川さんには、「色」の体験がありません。右端の絵の説明の中で、「深い黒」という言葉が出たのに対して
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Q: |
深い色ってどんなの?
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A: |
すごく濃い感じ。奥がありそうな… 暗闇のような…
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Q: |
奥行きがある感じ?
「奥の深い文章」とか「厚みのあるサウンド」みたいな?
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A: |
それの色バージョン!
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「色」は作品のイメージに大きな影響を与えます。色体験のある見えない人には、
「…のような赤」とか「…っぽい緑」とかの表現で、ある程度イメージを伝えることが
できますが、色体験が全くない見えない人に対しては「色」をどのように伝えればいいのか…
その答えがこの会話の中にあるような気がします。
つまり、視覚以外の感覚や経験に置き替えて説明するという方法です。かなり難しい表現方法だとは
思いますが、深めていけたら面白いと思いました。
■作品2
鳥の翼、または蝶の羽のような形の2枚のパネル(版木)を十字に組み合わせた白黒版画の立体作品。
版画の裏側は彩色されている。
ともかく立体の形状のインパクトが大きく、また見る角度によって見え方が変化するので、
みんなで作品の周りをぐるぐる回ってみました。
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その後、まずは形状の説明から始まりました。 |
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立体である/大きい/2枚が交差することで自立している/
鳥の羽根のような、あるいは蝶の羽根のような形 等々…
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そして版画の内容の説明へと進みます。 |
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1枚のキーワードは、ジャングル、先住民族、動物、お面、むせかえるような暑さ |
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もう1枚のキーワードは、中世のヨーロッパ、お城、2人の道化師のような人、
ジャグリング、1人は宙に浮いてる、羽根の生えた魚、飛行機、洋風の夏の夕方
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形状的にも、内容的にも非常にインパクトの強いこの作品は、説明をするのが難しい作品でした。
見えない人がこの作品の形状を理解するには、様々な角度からの言葉による解説、
その言葉をじっくり頭の中で組み立てる時間が必要だったようで、作品の内容説明に移ってから、
もう一度形状の説明に戻るということがありました。
また描かれている内容についても、描かれているパーツの1つ1つは全て単語で説明できるものなのに、
全体のイメージを伝えるのは思った以上に難しいものでした。その理由としては、
≪作品が個性的なので、見える人にとっても作品から受ける印象や感じ方がいろいろだった/
「中世のヨーロッパ的な世界」「メルヘンの世界」「あり得ないような、非現実の世界」というのは、
見えない人にとっては想像ができない≫というようなことがあったと思います。
両作品ともそれぞれに個性的な作品であったこともあって、行きつ戻りつしながら双方が
積極的に言葉を交わすデモンストレーションになり、その体験が後のグループ鑑賞にも
活かされていたと思います。
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■4つのグループに分かれて鑑賞 |
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版画(抽象)2点、洋画(抽象)、日本画(具象)の、趣の異なる4点の小品を用意し、
1グループ5〜6名で1作品を鑑賞しました。
各グループの鑑賞の様子を見て回っていて気付いたのは、見えない人がいるグループは、
見えない人から出される質問を中心とした鑑賞になり、また、見えにくい人がいるグループは、
見えにくい人独特の作品の見え方、とらえ方が鑑賞を引っ張っている面があるということ。
アプローチの仕方は違っていても、言葉のやり取りによって作品に近づいていく鑑賞が
できていたように思います。
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■振り返り
この日はワークショップということで、たっぷり時間を取って1つの作品と向き合うことが
できました。いつもの鑑賞ツアーでは、行き詰ると途中で切って次の作品へ移ってしまうことが
多いのですが、ワークショップでは1点の作品を集中して鑑賞でき、深いところまで鑑賞を
進めることができたようでした。
また、感想の中で印象に残ったのは「色」の認識と表現についての話。色体験のない見えない人は
色をどのように認識しているのかという話になり、「見る」体験のない人には「映像の世界」は
ないけれど「体感」はある。「色」も「体感」によって認識しているところがあるとのこと。
それに対して見える参加者から、見える人でも「色」の認識は自分の体験と結びついているところが
あるのでは?という発言がありました。確かにそういうことはあると思います。 |
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もう1つ印象に残ったのは、人が思い浮かべる「イメージ」についての話。
デモンストレーション2の会話の中で出てきた「洋風の夏の夕方」のキーワード。
会話が進む中で、2人の見えない人の間で思い浮かべているイメージが全く違うものであることが発覚!
心の奥にしまわれている体験や記憶が、意識しないまま物事のイメージを創り上げていることに
気付かされました。振り返りの中で、それは決して見えないからではなく、見える・見えないに関わらず、
人は同じ見方をしていないし、イメージを共有しているわけではないという話になりました。
それは考えてみると当たり前のことなのですが、鑑賞中、説明に熱が入り過ぎるとつい忘れてしまいがち。
自身の印象を伝えつつ、作品を正しく伝えるためには、イメージを共有できているかどうかの
お互いの確認が必要ということを、改めて感じました。
見えない人がメガネになり、見える人の近視眼的なものの認識を修正し、修正した視力で
見たものを見えない人に返していく、その方法が今回のワークショップで少しわかりかけてきたのでは
ないでしょうか。メガネをかけたり外したりしながら、共に作品に近づいていける術を探っていくために、
今後もこういうワークショップは継続していきたいと思いました。
※作品貸出協力 ヤマゲン イワオ/サジ・トモコ
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