第33回美術鑑賞ツアー
京都国立近代美術館
「コレクション・ギャラリー 平成24年度第5回展示」

 
 


2012年11月18日(日)
場所 京都国立近代美術館
参加者 見えない人・見えにくい人 : 5名
見える人 : 17名
ビュースタッフ : 4名

── 戸田直子 ──

 企画展の鑑賞ツアーではこれまでに何度も訪れている京都国立近代美術館。 「時間が余ったらコレクション・ギャラリーも見て下さいね」と声をかけてはいたものの、 いつも時間ぎりぎりになってしまって、じっくり鑑賞する機会がありませんでした。 そこで今回は、コレクション・ギャラリーのみを鑑賞するツアーを企画してみようということになりました。

 鑑賞ツアー開催時は「平成24年度第5回展示」の期間で、日本画、洋画のコーナーには、 この時に開催されていた企画展「山口華楊」展に関連する作品が展示されていました。 また同じフロアで、「日本の映画ポスター芸術」展も開催されていました。

 午後1時半に美術館の講堂に集合し、ビューの鑑賞の4つのルールの説明、 鑑賞にあたっての注意事項、点図の使い方の説明(点図は、山口華楊「白露」、 石垣栄太郎「鞭うつ」、河井寛次郎「黄縞鉢」の3点)の後、主任研究員の 池田祐子さんから今回の展示作品について、またその見どころなどをお話して頂きました。 5つのグループに分かれ、1グループ4〜5人で鑑賞スタート。 その鑑賞の様子をいくつか紹介しましょう。
白露
「白露」の前で

ビエンナーレ
「東京国際版画ビエンナーレ展」の前で

「白露」(山口華楊)
『1つの茎に枯れて首を垂れた大きな花と、後ろのほうで咲き残る小さめの花がある。』
「生命の進退を感じさせるような感じなのかな?』

『バックはどんな色合い?』
『1色ではなくて、いろんな色合いが入り混じった感じ。』

『説明を聞いていると、主役だった大輪のひまわりが枯れ、脇役の小さな花だけが咲いてるというところに、何か寂しさを感じるなあ…』

「第六回東京国際版画ビエンナーレ展」(横尾忠則)
『ふつうの風景も描かれているんだけれども、その中に現実では有り得ないものも一緒に描かれている。』
『現実には有り得ないものって、例えば?』
『浜辺の手前には集合記念写真を撮っているような一団がいて、その遠景が半島のように突き出していて、緑の山がある。その山の上に看板のようなものがあって、その後ろからピースサインをしてるような人が覗いてるんだけど、それが実際には有り得ない大きさで、遠近感がむちゃくちゃ。それが不安感を感じさせる。』

『ポスターとしての文字情報は?』
『隅っこのほうに小さく書かれてる。ポスターとしてはバランスが悪いんだけれど、全体のインパクトが強いから、つい目が行ってしまう。』
河井寛次郎
河井寛次郎作品の前で

鞭うつ
「鞭うつ」の前で

「黄縞鉢」(河井寛次郎)
『点図は、作品をどういう目線から描いているのか?』
『前方斜め上から見下ろした感じ」
『ということは、模様の部分は鉢の内側が見えてるということ?』
『そうそう」
『点図を触ると楕円形に描かれてる部分は、実際には円形ということ?』
『そうです!」
『立体は描く時の目線によって形が変わるから難しいね。鉢を平面的に表すと、こうなるんですね。』

(模様の曲線や配置は点図を触って確認)
『模様の色合いや色分けはどんなふう?』
『濃い茶色の地色に太く大胆な黄色の波線があり、その波線の間々に挟まっている2本の縞と水玉も同じ黄色。 黄色と言っても原色の派手な黄色ではなくて、落ち着いた色合い』
『民芸調という感じかな? みかんやりんごを盛ったらいいような感じ?』

「鞭うつ」(石垣栄太郎)
『全体的に暗いダークな色合い。バックには工場のような建物が並び、煙突から煙がもくもくと出て いる。手前には目を見開き、首を曲げて後ろを振り向いた馬。馬には手綱を握って人が跨り、馬に 鞭を当てていて、筋肉が浮き出た身体は大きく後ろに傾いている。鞭は大きなカーブを描いてしな ってる。前面から奥につながる通路一面には、何かがごろごろと転がっている。石かな?金属? い や、人みたいな… 死体?』
『全体的な印象は?』
『力強さもあるけど、暗い色合いや馬の表情、下に転がるものが死体にも見えたりして、 すごく不安な気持ちを感じる。』
『工業が盛んになってきた時代を反映している作品なのでは? 馬も、馬を鞭打つ人も、 どちらも自分の姿を表現しているのでは?』

コレクション・ギャラリーには、日本画・版画・洋画・工芸(陶芸・漆芸・染織)と 様々なジャンルの作品が展示されているので、点図を用意した作品の他に、 各グループそれぞれに好みの作品を選んで鑑賞しました。
感想会  
鑑賞後は講堂に戻り、椅子を円く並べ替えて感想を話し合いました。今回は見える人の参加者に初参加の方が多かったこともあり、点図に関することを中心に感想や意見が出されました。
 初めて点図を見たという方達からは点図の作成方法について質問があり、コーディネーターから簡単に説明しました。見えない人、見えにくい人からは、「過去に見たことのあるもの、触れたことのあるものに関しては、点図を触ることである程度理解できるけれど、複雑な線になるとわからない。特に立体作品については、どの角度から見て点図で描くかで形が変わってくるので理解するのが難しい。でも絵も立体も、わからない部分、点図で描けない部分を言葉で補足説明してもらうことで、点図と合わせて作品のイメージをつかむことができる。」 見える人からも「使い方が難しいけれど、うまく使えば対話のツールとして有効だと思う」という意見が出されました。
 また初参加の方からは、「作品を言葉で伝えるのは難しかったけれど、新鮮な体験だった。色の説明をするにもぴったりの表現を必死で考えて、気がつくと普段は出てこないような言葉を使って説明していた」という感想が聞かれました。

 最後になりましたが今回のツアー実施に伴い、事前打ち合わせ、下見などにおいて美術館学芸課研究補佐員の朴鈴子さんに大変お世話になりました。またツアーの後には「鑑賞」に関する意見交換の時間も取って頂き、ビューのこれからの活動を考える良いきっかけを頂けたと思います。有難うございました。
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