#17 ディスカス>野生個体の餌             可良時寿子
動物&植物の国 #359 91/12/7 より転載
可良時寿子 ID:KBB53931

Re:#339     Q>魚の餌   あり

 うーん、ありさん、絶妙のタイミング(と言っても、先日来のハンバーグ論争
とは、全く別の話しですが)で、難しい事聞いてくれますなぁ。
 最近、後20年くらい、つまり私の生きていそうな間に、何とか、新しいディ
スカスを作ってみたい物だと考え、色々調べています。
 絶妙のタイミングと言ったのは、ありさんが、あの質問を書き込んだ日、私は
原種(現地採集個体)の飼育に拘っている人と、かなり時間を掛けて、討論をし
て、原種ディスカスに関する意見交換をしました。

 で、質問の主旨ですが、
    『現地の魚が何を食べているかと聞かれても、私自身が、アマゾンの現地
    で、ディスカスが餌を食べているところを観察した事が無いので、良く解ら
    ない』
としか言えません。しかし、この返事だけでは、
    『何ちゅう、不あいそなヤッちゃ』
と言われそうなので、推定も交えて、知っていることを少し。

 ディスカスの、口の構造を観察する限りでは、大きな餌を咬みきる歯が無いの
で、ボウフラのような、小さな虫を食べていると推定します。また、解剖して、
消化器官の観察に依れば、動物食が多いが、植物も必要な雑食性でしょう。
 飼育下の個体を観察する限りでは、小さい中は動物質の餌が中心で、成長と共
に、植物質を多く取るように成ります。
 信頼できそうな文献で、現地で採集した個体の解剖記録を見つけたときは喜び
ましたが、餌に関する記述では、

        『ほとんどの個体の胃腸の中は空であった』

と言う事でした。
 でも、まさか、野生の魚は餌を食べていないとは、言えませんね。
 これは、採集し易いシーズンと言うのが、水位の低い、乾季の終わり頃であ
り、この時には、ディスカスの群れが棲む小さな水域の餌を食い尽くして、やむ
なく絶食中であったと、解釈すべきだと考えています。

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 と、言うわけで、ありさんの質問には明確に答えることが出来ませんでした
が、その代わりという訳でもない、餌に就いての雑談をちょっと。

 先日、原種に拘る者との話の結論の一つと言うのが、私たちが与えている、
ディスカス・ハンバーグと言う餌は、ディスカスという魚にとっては、随分と貧
しい餌(食い付きが悪いという意味ではなく)かも知れない、と言うことでし
た。

 ここで、ディスカスと、ハンバーグの関係に就いて、ディスカスを飼育してい
ない人のために、ちょっと一口解説を。

 まず、いま世間で売られている**ターコイスと呼ばれる、改良種の基礎をつ
くったのは、アメリカのJ・ワットレィ氏で、彼のターコイスと言うのは、現在
17世代くらいで、他の改良ディスカスは、バンコック産のRRBと言われる物
以外は、すべて、何らかの形で、ワットレィ・ターコイスの血を引いています。

 ワットレィ氏は、改良ディスカスの基礎をつくったと言うほかに、もう一つ、
ディスカスの為に重要な貢献をしました。それは、ディスカス・ハンバーグと言
う、牛ハツを主成分とした、清潔な餌の開発です。
 このハンバーグが発表されたおかげで、糸ミミズ等、病気の元となる不潔な
餌を必要としなくなり、ディスカス飼育技術が格段の進歩をしました。
 この、ハンバーグ。さまざまな業者から売り出されたり、各人が工夫を凝らし
て自作したりしていますが、改良ディスカスに与えると、餌食いもよく、健康な
魚を育てることが出来る、すばらしい物です。
 ワットレィ氏のハンバーグか牛ハツをベースにしていると言うことが発表され
て、アマチュアの中には、牛ハツだけを与えている人も居ますが(JDOのハン
バーグ論議とは無関係に、実際に広くみられる現象です)これは、ここで論ずる
ハンバーグとは、似ても似つか無い別物の、欠陥餌です。
 以上が簡単な基礎知識。

    \(・_\)ソノハナシハ (/_・)/コッチニオイトイテ

 で、お待ちかね、原種ディスカスと、ハンバーグの関係。ダレモ、マッテイナイカ?

 改良ディスカスを飼育するには、素晴らしい成長効果を見せてくれるハンバー
グですが、この餌を原種に与えると、どうも良い結果が得られないのです。
 広い川で成長した個体を、狭い水槽で飼育するということ自体、神経質なディ
スカスには、相当なストレスとなって、なかなか食欲が強くならない個体もいま
すが、これは別にしても、よく食べているのに、改良種のように太らないと個体
が多いという言う問題が発生します。
 この現象が成魚だけのことであれば、環境の変化によるストレスと解釈して、
一件落着ですが、実際には違う現象が観察できます。

 たとえば、現地採集個体を上手く育てて、繁殖させたとき、仔魚の成長課程を
観察すると、餌を食べているにも関わらず成長不良となる個体がやたらに多いと
いうことに気がつきます。

 改良ディスカスも、成長不良個体が出ますが、これは大体30%位でしょう。
 ところが、原種を繁殖させ、従来のハンバーグで育てると、半数以上が成長不
良という事態にぶつかります。(極端に言えば、本来の健康な成長をする個体
が、珍しい位)

 これらの観察結果から、
    「野生の個体は、実に豊かな餌を食べているらしい」
    「ディスカス・ハンバーグは、『ディスカスと言う魚』にとっては、余り良
    い餌とは言えないかも知れない」
と言うのが、私たちの仲間うちの討論の結論です。

 ここで野生個体が豊かな餌を食べていると言うのは、量の問題ではなく、質の
問題です。実際に食べている、ボウフラとか、水草の一つ一つを取り上げると、
栄養は貧しく片寄っているかも知れませんが、水中にすむ虫の種類が異なれば、
そこに含まれているアミノ酸の種類も違うでしょう。
 自然界では、季節によって、餌の種類も変動し、沢山の種類の餌を食べること
によって、全体として、豊かな栄養成分を確保していると言う意味で、ユーカリ
の新芽だけを食べるコアラ等とは、正反対の性格の生き物だと言うことです。

 では、ハンバーグがすべて欠陥餌かと言うと、よく研究されたハンバーグ(こ
の、良く研究されたと言うところが大切)は、
『改良ディスカスにとっては、実用になる餌』と言う認識をしています。
 わたしは、これを
    「改良ディスカスは、ハンバーグという餌のフィルターがかかった生物であ
    り、本来のディスカスとは、別の魚」
と表現します。

 つまり、改良ディスカスと言うのは、生まれたときからハンバーグで育てら
れ、この餌でよく育つという体質の個体が、次の繁殖の親に選ばれて、それがま
た、ハンバーグで育ち易い子供を沢山産むというサイクルを繰り返し、数世代
で、人工的な環境に適応してしまい、野生の魚とはかなり違った性質を持った魚
が出来上がったと言うわけです。

 これは、餌に限らず、水質に就いても同じことが言え、アワジヤさんも過去に
面白い説を述べていましたが、ここに触れると、話が広がりすぎ、今回のありさ
んの質問の主旨である『餌』からは離れすぎるので省略します。

 従って、原種ディスカスを調子良く飼育するためには、改良ディスカスでの飼
育、繁殖経験をそのまま当てはめず、慎重に再検討して、違った扱いが必要だと
いうのが、現在の認識です。

可良時寿子