#23 pHメータ>乾燥させず、定期的な較正がカギ 可良時寿子 動物&植物SIG FORUM8 #475 91/12/29 より転載 可良時寿子 ID:KBB53931 現在市販されているpHメータのセンサー部分は、ガラス電極と、半導体電極 の2種類有りますが、いずれにしても、長持ちさせるためには、ちょっとした注 意が必要で、箇条書きにして置くと、 a、使用後は、センサー部をきれいな水で洗う。 b、洗った後、センサー部を乾燥させない方がよい。 c、センサー部が乾燥すると、測定不能となるので、時々使った方が良い。 d、定期的な較正をしないと、測定値が信頼できなくなる。 と言うことです。 何故こうした方が良いかを理解してもらうため、以下に、電極の構造と、動作 原理を簡単に説明して置きます。 ◆電極の構造。 pHメータと言うのは、被測定液の水素イオン濃度に応じた起電力を発生する 電極と、基準となる液体の起電力の差を測定して、液体のpHを表示させるもの です。 基準極は、過飽和塩化カリ水溶液の中に、塩化銀電極を取り付けてあります。 ガラス電極式の場合は、中に液体の詰まったガラス極が見えるので理解し易い でしょう。このガラスのなかが基準極です。 このガラスというのは、薄いだけでなく、イオンが通るように、微孔が開いて おり、ここが乾燥すると、中に閉じ込めて有るKClが表面で結晶化して、微孔 を塞いでしまい、測定できなくなります。 プロが使う場合は、普段から蒸留水に漬けて置くのですが、こうすると、微孔 を通して、塩化カリが流失して、濃度が薄くなるので、多少流失することを考慮 し、過剰な塩化カリの結晶を閉じ込めてあります。 半導体式の場合は、FET(Field Efect Transister = 電界効果トランジス タ)のゲート極の上に、窒化タンタルの薄膜を蒸着したものが外部から見えるだ けですが、実は、基準電極は、見えないところに隠されており、やはり、塩化カ リの過飽和水溶液の中に塩化銀の電極が取り付けられています。 この基準電極部の塩化カリ溶液は、タンタル薄膜の横の方に開いた微孔を通し て、毛細管現象のような形で、外部の被測定液とつながることによって、水素イ オンの濃度が10倍になる毎に(つまり、pHが1変化する毎に)、FETには 59mVの電圧が変化することになっています。 これは、理想的な理論値ですが、pHに比例した電圧を取り出せるという事 で、直線性の良い測定器が出来上がります。 従って、半導体式の場合も、基準電極部は見えないが、過飽和塩化カリ溶液 が、微孔を通して、外部とつながっているので、やはり、センサー部が乾燥する と、塩化カリの結晶で微孔が詰まり、使えなくなります。 つまり、pHメータの寿命と言うのは、 a、水に漬けて保存した場合は、基準極の塩化カリが流失して、濃度が 下がった時 b、乾燥状態で保存したときは、塩化カリが結晶化して、微孔が詰まっ た時 の二つあり、aの方は数年持ちますが、bの方は数カ月で使えなくなります。 アマチュアの場合、使った後、蒸留水の中に漬けて保存している人は居ないよ うですが、使った後は、水道水でセンサー部を洗い、センサー部に付いた水は拭 き取らないようにした方が、センサー部の乾燥による故障を防げるので、安全で す。 以上の説明でも解るとおり、センサー部は、華奢に出来ているので、ゴシゴシ と擦るような事は禁物ですが、説明書で、使った後、センサー部の水をティッ シュ・ペーパー等に吸収させると書いてあるのは、殆ど毎日使うことを前提にし ているのであり、たまにしか使わないので有れば、センサー部の水は切らない方 が良いと考えて下さい。 また、余り長期に使わないと、センサー部が乾燥するので、時々使った方が、 却って長持ちします。使う必要がなくても、センサー部に水をかけて下さい。 心配な方は、座りの良い瓶の底に少し水道水を入れ、ここにpHメータを立て て保管すれば言うこと無しです。 ◆較正。 ディジタル・pHメータは、0.1刻みで表示してくれるので、なかなか精度 が高そうに思いますが、測定値が信頼できるかどうかは、普段の較正にかかって います。 普通、pHメータの較正といえば、4,7,9の3点較正をするのですが、ア フリカン・シクリッド等を飼育する場合を除けば、pH=4,7の2点較正で十 分です。 3点較正というのは、スパンと、リニアリティを別々に調整するのですが、熱 帯魚ショップで販売されているpHメータは、調整箇所が1カ所しかないと言う 簡易形なので、pH7の標準液(厳密にいうと、pH=6.86 at25℃) で、校正し、pH4の標準液を測定したとき、どの程度の誤差があるかを確認し て置けば良いでしょう。 較正は、2カ月に1度くらいは行う必要があり、校正していない測定器は、ど んなに高価な測定器でも、信用できないと考えるべきです。 ======================================================================== 余談になりますが、数年前まで、私自身が研究を本業にしていたときは、自分 の使っている測定器の定期較正だけに、年間70万円の予算をとって、実行して いましたが、新しい職場に来てみると、高価な測定器が沢山あるのに、 『この測定値は、どこまで信用出来ますか?』 って聞いたら、壊れない限り、較正などしたことがないと言うので、誰も精度を 保証できないと言う、笑い話にもならないような、お粗末な話が有りました。 最近やっと、計測器は定期較正が必要と、認識してもらったばかりです。 プロがこれでは、アマチュアが、測定器を無条件に信頼するのも、無理は無い なぁ、って言うのが最近の思いです。 可良時寿子