#27 アロワナ>アロワナ讃歌 (2/2) 可良時寿子 可良時寿子 ID:KBB53931 ◆真打ち代理オレンジアロワナ アロワナ界の王様と言えば、誰が見ても文句無しにアジアアロワナのレッドタ イプ、所謂レッドアロワナに止どめをさすであろう。 現地ではレッドアロワナは赤い色の出方により三つのタイプに分けられている。 最高級品はグレード1と言われ、全身が赤い鱗に覆われる正真正明の『レッド アロワナ』で、世界中の華僑が商売の神様として買い集めている為にとても高い 値段が付いており、これが今迄日本に輸入されショップに出回ったと言う話は聞 いた事が無い。 CITES(サイテス=所謂ワシントン条約)の規制が厳しく成った今、この レード1が今後輸入されることも期待出来ないであろう。 それより少し赤味の薄いものはグレード2と呼ばれているが、これは我が国で はオレンジアロワナと称され85年の秋位より我が国にも輸入され始めたので、 これを持っている人は少なからず居るであろう。 それより更に赤味が薄く殆ど金色に近いものは、グレード3に分類され、現地 ではゴールデンと呼ばれているが、我が国では従来これをレッドアロワナと呼び、 名前の”インフレ”が起きていた。 と言う訳で、真打ちのレッド(グレード1)は入手が望めないので、真打ち代 として、我が国で入手可能な物の中での最高級品である、グレード2のオレンジ を入手することにした。 ショップに予約を入れ、入ったら必ず買うから電話をくれと頼んでおいたのは、 未だオレンジが数尾しか我が国に入っていないと言う早い時であった。 夏休みの家族旅行から帰って来てもショップからの電話が無いので、問い合わ せて見ると、『電話をしたけど誰も出ないので他の人に売ってしまった』と言う 返事である。 これはえらい事に成ったと思い、色々と問い詰めて見ると、オレンジアロワナ は数尾入り、すぐに売れたが、一番良いのを1尾だけ隠してあるということが分 かったので、結局これをプレミアム付きで購入することが出来た。 予約をしておいた客に、他より高くプリミアム付きで売るなんて、いかにも大 阪商人らしいが、全く大阪商人は商売の仕方が上手いので困る。 N.バラムンディが喧嘩の揚げ句に死んだ後では有ったが、性懲りも無くアロ ワナ雑居水槽に収容し混泳させることとした。 もし、死んでしまっても、それはそれで仕方が無いと割り切ることにした。 ◆お見合い、愛のスイートホーム この時のオレンジアロワナは幼魚とは言え少し大き目だったので、ゴールデン やS.バラムンディに丸飲みされる様なこともあるまいと考え、これ等先輩アロワ ナの水槽に収容し混泳させたが、期待通り大した喧嘩にもならず水槽の平和は保 たれた。 購入したばかりの時、オレンジアロワナの各鰭はピンク依りももっと濃い美し い紅色をしていたが、体はどこにも赤味が無く、純白に近い白色であった。 これが奇麗なオレンジ色に成るのかと思っていたが1年半も辛抱しているとやっ とそれらしい色になり、最終的にはショップで見本に泳がせていた個体よりも遥 かに赤味が強い個体に成長し、私の期待に十分に応えてくれた。 それにしても、この手の魚はディスカスと同じで、幼魚の中に成魚になった時 の色の見当を付けるのが難しく、半分は賭けの様な積もりで高価な魚を購入しな ければならないのが辛い所だ。 そのうちに世間ではCITESが守られていないと言うことに対する風当たり がきつくなって来て、将来はアジアアロワナの輸入が完全にストップする恐れが 出て来たので、一つこのアロワナを繁殖させてやろうかと言うことになった。 オレンジのペアが居ると理想的であるが、値段が高いと言うだけの理由では無 く、其の後かなり多く輸入されたオレンジの品質が余り良いものとも思えなかっ たので、新規購入は控え、手持ちのゴールデンとオレンジで繁殖に挑戦すること とした。 繁殖と言えば当然♂と♀が必要であるが、手持ちのアロワナの雌雄の判別等出 来る訳も無く、まあ1/2の確率に期待して、運を天に任せることとした。 先ず、ペアのスイートホームに他のアロワナが入っていると邪魔になるので、 ゴールデンとオレンジだけを残し、他はショップに捨て値同然で引き取ってもら うことにした。 次に、仔魚が孵化した時に収容先に困って慌てて水槽の準備をする様では”泥 棒を捕まえて縄をなう”と言うことになるので、そうならない様に、手回し良く 120cm水槽を用意し、水まで張って、電子サーモとパワーフィルターをセット し、準備万端整った。 全く私のやり方と言えば何時もこの様に先手先手と先回りして、準備に手抜か りが無いのは、自分でも偉いと何時も感心している。 ◆ペアリングの失敗 アロワナの雌雄を判別する決定的な方法は知られていなかったが、ゴールデン は少しフックラとした太り気味の体付きで有り、性格も温和しくいかにも雌では ないかと思われた。 それに対し、オレンジの方は体付きがスマートな上、各鰭が長く、餌を取る動 作にも精悍さが有り、いかにも雄と言う雰囲気をもっていた。 その上、仔魚の水槽迄既に準備出来ているのであるから、これで繁殖に成功し なければ嘘である。 なんて思っていたが、2尾だけになったアロワナは、始めのうちは、お互いの 様子を窺う様に相手を横目で見乍らピーンと神経を張り詰め、水槽の中をグルグ ルと回っていた。 雑居時代と違ってかなり緊張しているが、この分なら大丈夫かなとホッとした 途端に2尾は猛烈な喧嘩を始めてくれた。 鰭は裂け、鱗はふっ飛び、喧嘩の余波で奇麗に植え込まれた水草は引きちぎれ、 愛のスイートホームは一瞬のうちに”修羅場”となってしまった。 こうなる事も全く予想していなかった訳では無いので、そのうちに喧嘩が収ま ることを期待して暫く眺めていたが、どちらかが死ぬ迄闘うと言う気迫が有った のでレフェリーストップと言うことに成り、網を入れゴールデンを掬い、仔魚用 に予かじめ用意して置いた120cm水槽に隔離した。 アジアアロワナを一つの水槽に2尾収容するとこんなにひどい喧嘩に成るとは 予想外であり、私の目論見は見事に外されたが、仔魚用の水槽を用意すると言う 手回しの良さに救われ、可哀相な犠牲者を出さずに済んだことは不幸中の幸いで あった。 『転ばぬ先の杖』とは良く言ったものだ。 この時は、未だペアが若過ぎたのかとも思い、それ以来2度程、ひとつの水槽 に入れてお見合いをさせて見たが、その度に猛烈な喧嘩になるので、今はペアリ ングをすっかりと諦め、120cm水槽に夫々1尾ずつ収容している。 今でもペアリングの実験をして見たいと言う未練は残っているが、アロワナは 2尾共更に大きく成ったので、今では喧嘩が始まっても簡単に網ですくうことも 侭(まま)ならず、同居の実験は出来ない状態になって今日に至っている。 ◆手乗りアロワナは雌? アロワナのペアリングを諦め、夫々に個室を与え、気侭な独身生活を謳歌させ ることとした或日、水槽の掃除をしている時にゴールデンが奇妙な行動を執るこ とに気が注いた。 何時もの様に水槽の中に手を入れ、ガラス面に付いた苔をゴシゴシとこすって いると、ゴールデンがいかにも珍しい物でも見る様に興味深気に近寄って来て、 鼻面に手が当たっても離れ様としないので掃除の邪魔になるのである。 仕方無いので手の平で横の方に押し退けても、懲りもせずにまとわり付いて来 るので、この様子を見ているうちに一寸閃くものがあった。 人の手を恐れ無いのであれば『手乗りアロワナ』になるのではないかと考え、 試しに魚の腹を手でなでて見ると流石に始めての経験に驚いたのか、一時的に逃 げる様な素振りを示したが、すぐにまた寄って来るので、この日から手乗りアロ ワナに成るべく特訓を始めることになった。 毎日の様に水槽に手を入れ、ゴールデンの腹を撫でていると、魚の方もそのう ちに慣れてきて、撫でている間じっと温和しくしている様に成った。 魚に限らず、一般に動物を教調する時には、うまくいった時に餌をやって褒め てやる等して教え込んで行くものであるが、私の場合は餌等やらず、唯ひたすら 手を入れ、人間の手が怖く無い事を経験させた。 慣れとは恐ろしいもので、そのうち水槽に手を入れると魚の方から撫でること を催促して来る様になり、水替えで忙しい時等、まとわりついて来る魚を無視し てガラスの掃除などをしていると、終には怒って頭突きをかまして来る程に迄 成った。 話は変わるがアロワナの雌雄の判別に就いて、敦賀在住の”サングラスのMさ ん”は 『水槽の前でパンツを脱いで見せて魚が興奮すれば雌』 等と言う、全く見かけ通りの”ヤッチャン”の様な、品の無いことを言ってくれ たが、そんな下品なことをする必要は無く、私の手に乗って御機嫌な魚を見た妻 はもっと上品に、『男に身を任せて歓んでいるのは雌に違い無い』と曰(のた)も うてくれたものだ。 その伝でいけば、私に撫でられるのを嫌うもう一方のオレンジはきっと雄に違 いない。こうなれ、ばもう一度ペアリングの実験をして見る必要が有りそうだ。 ◆アロワナはなぜ鳴く こうして私のゴールデンアロワナは目出度く手乗りアロワナと成り、毎日の様 に腹を撫でて遊んでいたが、魚は益々慣れ、尻尾を振って歓ぶ様に成った。 或時、何時もの様にゴールデンの腹を撫でていると、魚は目一杯鰭をピンと伸 ばし、尻尾を振り乍ら極度の緊張状態に成って居る様で有った。 そのうちに魚の腹に当てた手にブルブルと異様な振動が伝わるのが感じられる 様になり、そのまま手を添えていると、しまいには、はっきりと耳に聞こえる様 に『グーッ、グーッ』と鳴き声を上げるのである。 遂に我が家のゴールデンアロワナは『トーキングアロワナ』に進化した、と言 う訳であるが、この鳴くと言う行動は、単に餌を欲しがって甘えているのとは少 し違う様で有り、何か性的な行動と結び付いているのでは無いかと思われるが、 どんなものであろうか。 腹を撫でていると、初めは尻尾を振っているが、そのうち鰭を広げ、体全体 を硬直させ乍ら、積極的に体をこちらの手に押し付けて来て、最後に一声 『グーッ』と大きく鳴くと同時に、バシャリと跳ねて手から離れ、水槽を一周り して来て、又、手に乗って来るのである。 それは声を出して鳴くと言うことを除けば、丁度多くの種類の魚に見られる産 卵の時の行動に非常に良く似ている様に思われる。 詰まり、飼育者の手を異性の体と間違えている様な行動で有るが、これはゴー ルデンだけに見られる行動で有り、同じアロワナでももう一尾のオレンジに就い ては、この様な行動を決して見ることが出来なかった。 唯、この様な行動を取らせる為には撫で方にコツが有り、アロワナが興奮する のは、胸鰭のすぐ後ろの部分の横腹を、前から後ろの方に向かって静かに撫でて やった時だけで有り、頭や尻尾を撫でた時には、唯温和しくしているだけで、鳴 く様なことは無く、ましてや、異常な興奮状態になる様なことは決して見られな いと言うのは、不思議なことである。 アロワナが鳴くと言うこと自体は決して珍しいことでも無く、他でも良く聞く 話で有るが、大概は夜ひとりで鳴いていると言う話が多く、人の手に体を擦り付 けながら鳴くという話は今迄聞いたことが無い。 誰か、この行動の意味が解っている読者は居ないであろうか。 ◆究極の混泳術 アロワナというのは肉食性、それも魚食魚であるが、良く観察して見ると他の 魚食魚と違い、餌を口に入れる動作が非常に慎重である。 例えば餌用の金魚等をやった場合、オスカー等は大きな口を開け、手当たり次 第に餌を飲み込むが、アロワナともなるとこれから口に入れようとする特定の金 魚に良く狙いを定め、慎重に構えてから餌に飛び付くという食べ方をする。 この為に俗に餌金と呼ばれる小赤をを100尾位まとめて水槽に放り込み、こ の金魚が自衛本能から一団の塊となって泳ぎ始めると、餌が多過ぎ、特定の金魚 に狙らいを注けることが出来なく成り、目の前に沢山の餌があるにもかかわらず 1尾の餌も食えないと言う現象が起きる。 そして、たまに団塊から離れてフラフラと泳ぐドジな小赤が居ると、一瞬にし て食われてしまうという現象を観察することが出来る。 アロワナが餌を食う時のこの習性を積極的に利用すると、アロワナと小型魚、 それも小赤よりも、もっと小さな魚との混泳を実現することが可能になる。 この時注意すべき事は、水槽の中には魚食魚は1尾だけしか入れてはいけない と言う事で有り、一つの水槽の中に2尾以上の魚食魚が入っていると、小型魚は 身を守る為にどちらの方に逃げたら良いのか判断に迷い、小型魚の塊が崩れるの で、大型魚は狙を付け易く成り、毎日少しずつ食われて行くことになる。 試しにアロワナ水槽にネオンテトラ等を100尾位まとめて入れて見ると、ネ オンテトラは1尾も食われること無く、平和共存が実現する。この時、ネオンテ トラは100尾位まとめて入れることが必要で5尾や10尾では忽ち食い尽され てしまうから、試して見たい方は注意してもらいたい。 アロワナと混泳させられたネオンテトラは、昼の間、魚食魚の攻撃から身を守 る為に一団の塊となり、絶えずアロワナの後ろに回り込む様な行動を見せてくれ、 夜間、照明を消すと安全な場所を求め、水草の間に潜り込み寝ている事を観察す ることが出来る。 大型魚を飼育している人には、是非とも一度試してもらいたい美しさで有ると 思っている ◆水槽の植木職人 ところで、皆さんは魚を飼育すると言うことに就いて家族の理解は得られてい るであろうか?。 また、理解を得る為にどの様な努力をしているであろうか。 私の場合は家族の理解を得る為には、見た目に奇麗に飼う事が必要と考え、こ れを実行している。 先月紹介したアロワナとネオンテトラの混泳も奇麗に見せる為の一つの方法で あるが、もう一つ、アロワナ水槽を含め各水槽には水草を植え込んで奇麗に仕上 げると言う努力をしている。 兎角、大型魚を飼育している人は、水槽の中を何もディスプレイしない、所謂 (いわゆる)”丸太飼い”と呼ばれる飼い方をする人が多く、仮令ディスプレイし たとしても、流木か丸い石をゴロンと放り込んであるだけで、水草は、魚が暴れ た時に荒されると言うことで、植えていない人が多い様に思う。 私の場合、水草は魚を引き立てるのが目的で有り、あくまで脇役であるから、 育成に手間のかかる難しい草は植えていない。 アロワナ水槽に水草を植えると確かに一部は引き抜かれたりして荒されるが、 荒され方には一定の法則がある。 先ず、背の低い水草は大丈夫で有り、抜かれるのは泳ぐのに邪魔になる背の高 い草である。 アロワナは与えられた水槽を自分の縄張りとして、常にこの縄張り内をパトロ- ルしているが、パトロールの為に泳ぐコースは決まって居り、このコースの邪魔 になる草は確実に抜かれることに成る。 ラッフルソード等をこのコースに植えると、賢いアロワナは口に銜(くわ)え 引き抜き、何度植え直してもすぐに抜かれてしまうが、パトロールコースから離 れた草は全く被害が生じないから、抜かれた時には場所を変えて植え直す必要が 有る。 ミクロソリゥム等が流木等にしっかり着いていると、葉の先端部だけが齧(かじ り)取られ、まるで植木職人が鋏で刈り込んだ様になる。 アロワナ水槽に水草を植える時には、この水槽内の植木職人と、植える場所を 相談しながら植えなければならず、自分の好みとセンスだけでディスプレイを決 めることは出来ないが、魚と相談し乍ら水草を植えるのもまた楽しいもので有る。 ◆掃除屋、カージナル・テトラ 前に紹介した、アロワナと混泳しているネオンテトラは1年程大丈夫で有った が、夏休みの家族旅行で一週間程家を留守にして帰って来て見るとネオンテトラ は一尾も残っていなかった。 アロワナもおなかが空いたので餌を捕るのに必死の思いをしたであろうし、留 守中水槽の照明を消していたのでネオンテトラは何時も寝ており、きっと寝込み を襲われたに違いないと思う。 そこでもう一度ネオンテトラを100尾入れ直し、暫く観察しアロワナに餌を やっている限り大丈夫と言うことを確認したので、今度は調子に乗って、もう少 し値段の高いカージナルテトラを100尾追加した。 ネオンとカージナルは見た目に良く似ていると言うだけで無く、習性も良く似 て居り、水槽の中では一つの塊と成ってゴチャ混ぜに泳いでいたが、翌年の夏休 みにはこの二つの魚の決定的な違いに気が付いた。 例によって一週間程家を留守にして、帰って来て見るとなんとなく魚の数が少 ない様な気がしたので、点呼を取って見ると、カージナルは減っていないのにネ オンは全滅し、たった1尾だけしか残っていなかった。 アロワナが意識的にネオンだけを狙い打ちしたとも思えないから、普段は同じ 様に見える魚も、いざ逃げる段となれば素ばしっこさに決定的な違いが有り、こ の経験で、ネオンはカージナルよりも遥かに鈍クサイと言う事を初めて知った。 こうして、魔の夏休みも生き抜いたカージナルは、段々とあつかましく成って、 最近ではアロワナを全く恐れなくなった。 アロワナはおなかが一杯になり機嫌が良い時には、よく腹を底に着けて休む様 な行動を取るが、この時、良く見るとアロワナの体にカージナルが取り付き、ゴ ミや粘膜を齧(かじ)っているので有る。 カージナルは身の危険を知っている為に、流石にアロワナの頭の方には近寄ら ないが、後半身の部分に取り付いてせっせとアロワナの掃除をしている訳であり、 アロワナの方もクリーニングされるのはまんざら嫌でもなさそうで、温和しくク リーニングさせている。 大型魚の皮膚を掃除するクリーナー魚としては、海水魚の場合、ホンソメワケ ベラとかシュリンプの仲間が知られて居るが、淡水魚も、環境に拠ってはクリー ナー魚に成る事を知った。 (アロワナ讃歌 終わり) 1988年11月 可良時寿子 動物&植物の国 ライブラリー より転載