誕生日




今日は大切な君の誕生日。

君だけの特別な日。




「誕生日・・・・・?」
俺は部屋の壁にかかっているカレンダーの前で立ち止まった。
そこには10/29の場所に赤いマジックで『アスランの誕生日』と書いてある。
だが、自分で書いた覚えはない。
ということは・・・・・・・
「たぶん・・・キラだな」
自然と微笑がこぼれてきた。





戦後・・・・・といって良いのか。ともかく一応終戦を迎え、世界にはそれぞれの平和が訪れつつあった。
俺といえば、最近一人暮らしをはじめ、日々有意義な生活を送っている。
でも・・・・・やっぱりこの幸せが訪れるまでいろいろあった。
たとえば。


ラクスが心を込めてあげた指輪を本人に突っ返し、こともあろうか「僕、本当はアスラン狙ってたんだよね・・」とか言いやがって、挙句の果てに状況が把握できなくて思考がストップしている俺にキスなんてしてきたことかな。ああ、それしかないよな!!だいたいものには言い方ってものがあるだろう!?あれからキレたラクスに追い回されて大変だったんだぞ!?分かってるのか?どうなんだ!!そう・・・・お前はいつもそうだった・・・・。思い出すのは幼年時代・・・。あの頃から俺は・・・・・(強制省略)


ふう・・・。
まあとりあえず、それが原因でキラとは・・・深い仲・・・になったという訳で。
もともと俺はキラのことが・・・その・・・好きだったし。
だから今はそういう関係で落ち着いている。





俺はすぐそばにあった電話を取り、かけ慣れてしまった番号を押した。
「はい・・・・もしもし」
5、6回ぐらいコールが鳴った後、ガチャッという音と共に、キラのかすれた声が聞こえてきた。
どうやら寝起きらしい。
妙に微笑ましくて、くすっと笑い、「俺だけど・・・」ときり出した。
「なに・・・・・何の用?」
あ・・・まずい・・・俺が起こしたかも・・・・。
無愛想な声と眠そうな言い方からそう判断し、慌てて時計を見ると、もう朝の11時を過ぎていた。
これはこちらが起こして悪い、と謝る時間ではないだろう。
気を取り直して話しかけることにした。
「今日、俺の・・・誕生日なんだけど・・・・」
自分から告げるのが少し恥ずかしくて、照れながら言った。
特に何が欲しいとか、そういうことではない。
ただ、おめでとうの一言が聞きたかった。

だが。

「だから何?」

・・・・・は?
返ってきたのは辛辣な言葉で。
思わず石化してしまった。
そんな俺を知ってか知らずか、キラは大きくため息を一つすると
「あのさぁ・・・・・もう17になったんなら、そんなことぐらいで騒ぐのは止めたら?みっともないよ?」

と、言いたいだけ言って電話を切ってしまった。

代わりにツーっ、ツーっという音だけがむなしく聞こえてくる。
俺はそっと電話を置くと、トボトボと寝室に向かい、ベッドに倒れこんだ。

頭の中は一言だけ。

それが好きな相手に言うことか?








「アスラン?どうなさいましたの?」
「!!?」
いきなりかけられた声に、俺はものすごい勢いで飛び起きた。
目の前には、いつの間にか勝手に侵入しているピンクのお姫様が存在していた。
「ラクス・・・・!?」
「はい。そうですわ」
そうふんわりと微笑まれて、俺はため息をつきながら、まだドキドキと鳴っている胸をおさえて、とりあえずベッドを降りた。
ちらりと時計を見ると、すでに3時間が経過している。
どうやらいつの間にか眠ってしまったらしい。
まあ、それはおいといて・・・・
「どうして貴方がここに?」
客人用のカップを棚から取り出しながら、気になることを問いかけた。
「あら、今日はアスランの誕生日ではないですの?」
そう首をかしげながらの言葉に、またため息がこぼれた。
だからって勝手に(しかも男の)部屋に入るなんて、普通はしないだろう。
やっぱりあんなハロをこの人にあげるんじゃなかった・・・。
俺はさっきから彼女のそばでうるさくしゃべっている物体を少しうらんだ。


戦後、彼女とはキラの件でいろいろあったものの、今ではいい友人として関係を築いている。
ただし、それからというもの事あるごとに結婚は?子供は?と聞いてくるので少しうんざりぎみだが。(できるわけないって・・・)
それに楽しそうに答えるキラもどうかと思うが・・・。
まあ、それなりにうまくいっている方だろう。
・・・・・ただ、最近あやしいものを送りつけてくるが悩みの種だけれども。


突然彼女はごそごそと丁寧に包装された大きな箱を俺の前に差し出した。
「はい。おめでとうございます、アスラン」

    ― 間 ―

「・・・・ありがとうございます」
俺は精一杯の笑顔でそれを受け取った。
なんとなく確信していた。
きっとまたろくな物じゃない!!


「ところでアスラン。キラはどちらにおいでですの?」
「え・・・・・キラ、ですか?」
「はい・・・。今日はきっといらっしゃると思ったのですけれど」
その言葉でズキっと心が痛むのを感じた。
「今日は、きっと来ませんよ」
自然とラクスから視線がそれる。
「今頃まだ布団の中かもしれません」
そう言うと、なんだか惨めな気持ちになってきて、余計に落ち込んでしまう。

しばらくの沈黙。

きっとそれはほんの数秒だったのかもしれないけれど。

俺に余計な考えを浮かばさせるのには十分で・・・・。

だから、ラクスに「大丈夫ですわ」と微笑まれたとき、
一瞬本気で救われた気がした。




それから数分だけ話をして、ひきとめる言葉も無視で帰ってしまった。
なにかしなければいけない事があるらしい。
少しさびしく感じたが、しかたがないことだ。
外まで見送った後、俺は静かに部屋に戻った。
そして、例のカレンダーを見つめる。
一人きりの誕生日。
それは決して珍しいことじゃない。
幼年時代はともかく、プラントに帰ってからの数年はいつも一人で過ごした。
でも、だからこそ一緒に祝って欲しかった。
一人きりの寂しさは、もう十分味わったから・・・・・あんなのはもう嫌だ。
そういう想いに染まった心は、すでに自分では制御しきれるものではなくなり・・・・

頬を生暖かいものが伝っていった。








「なに泣いてるの?」
ひくっと喉が引きつった。
「っ・・・泣いてなんか・・・ない・・・」
俺は急いで涙を袖でふき取った。
彼にこんな情けないところなんて見られたくなかった。
これ以上呆れられたくない。
「でも、声、聞こえてたし」
「それは・・・」
俺は慌てて言い訳を考える。
だが、キラが現れた時点で頭の中が混乱し、真っ白になってしまって何も思いつかない。
しかたなくだまりこむ。
きっとまた馬鹿にされるに違いない。
そう覚悟して目を閉じた。
しかし・・・
「・・・っ!?」
「・・・・・ゴメンね?」
背中に心臓の音を感じた。
そしてぺろっと涙の跡を舐められる。
いきなりのことに、再び流れ出した暖かさを感じた。
それはぽたぽたとキラの指へと落ちていく。
「バカ・・・」
来てくれた嬉しさと恥ずかしさが絡まりあって、つい、そんな言葉が漏れる。
「うん。別にかまわないし」
その傲慢さに少しあきれながらも、そっとぬれた手にキスをした。
「・・・・・・なんで来たんだ」
照れながら問う俺に彼は優しく微笑んだ。
「とりあえず、言っておこうと思って」


『おめでとう。アスラン』


そう耳元でつぶやかれた声。
俺は少しだけ驚いたようにキラを見つめると、同じように微笑んだ。

「ありがとう」

キラの声が、さっきまでの不安を追いやっていく。

望んだ言葉を、望んだままそのままで僕にくれる君。

だから・・・・かもしれない。

的確に俺の心を知る君だから。
きっとこんなにも好きなんだ。



Happy Birthday , ATHRUN.