戦争が激化してからはあまり取れなくなった貴重な休暇。 アスランは軍の仕事の合間に作った新しいハロと小さな花束を助手席に置いてエレカを走らせていた。 久々のクライン邸訪問。 婚約者、というとなんだかまだ慣れない感じだが ラクスはいつも嬉しそうに迎えてくれるから、ここに来るのは自分としても楽しみなのだ。 微かに笑って前方を見る。 到着だ。 荘重な作りの門の前で車を止め、呼び鈴に手を伸ばしかけた時、涼やかな声が自分を呼んだ。 「アスラン」 「あ………」 呼び鈴を鳴らすまでもなく、ラクスはすでに家の前に居て、こちらに手を振っていた。 「こんにちは、アスラン」 「ラクス。すみません、待たせてしまいましたか?」 「いいえ」 ハロを、見ていたんですのと微笑むラクス。 多分、自分が気を遣わないようにそう言ってくれたんだろう。 アスランはそれ以上は何も言わず、ラクスの好意を受け取ることにした。 「中でお話ししましょう?」 「そうですね」 アスランはエレカを降り、花束を取って、ラクスに差し出した。 「どうぞ……」 「まぁ! ありがとうございます」 ラクスは花を受け取った。 途端に香る甘い匂い。 「……いい匂い」 ふふっと花が綻ぶような綺麗な笑みを浮かべ、ラクスはその花の顔を近づけた。 アスランはスッと目を眇め、幸せそうにラクスを見ていた。 けれど、ふと思い出して助手席から忘れ去られていたハロを取った。 「あの……ラクス、これ……」 もらっていただけますか、という前にラクスの顔が輝いた。 「まぁ!! 新しいお友達ですの!?」 すごく嬉しそうなラクス。 そんな風に喜んでもらえると作り手としても嬉しいものだ。 「えぇ、まぁ……今回はわりと時間が取れましたので」 カチリとスイッチを入れると、早く飛び回りたいというようにハロが手の上でパタパタと耳を動かした。 こんな生き物めいたプログラムをした覚えはないのに。 苦笑しながら手を離してやると真っ先にラクスのところへ飛んだ。 「ありがとうございます、アスラン」 ラクスは両手でそれを受け止め、よりいっそう笑みを深くした。 間違いなく自分だけに向けられた笑顔。 先程花に向けられていたものよりも数倍綺麗なそれに思わず目が釘付けになる。 もちろん、笑みを返すような余裕は自分にはなかった。 これに弱いんだよなぁ、俺。 アスランは照れを隠すように髪をかき上げた。 ラクスの興味がハロの方に移ってもラクスから視線を外すことのできない自分はかなり重症かもしれない。 「ハロッ! ゲンキッ!」 「こんにちは」 「ハロハロ! ラクス〜?」 「はい! ラクスですわ」 「テヤンディ!」 新しいハロと、ひととおり会話ともいえない会話を交わして、 ふと、ラクスがこちらに目を向けた。 視線が絡み合う。 「どうかしましたか?」 「い、いえ!」 ぶしつけな視線を向けていた事に気付き、慌ててアスランはラクスから目をそらした。 しまった。 あまりに不自然すぎたのではないだろうか。 ラクスは何か言いたげな視線でこちらを見ている。 気分を害した? 傷付いただろうか? あまりに浅慮な自分の行動に泣きたくなった。 「あのっ! ラクスッ、これは………」 何とか取り繕いたいのに、言葉が続かない。 正直に見惚れていましたと言えば良かったのかも知れないが、 正直言ってアスランはそんな恥ずかしい事を真顔で言えるほど大人ではなかった。 「これは………」 あぁ、もう! 何でこんな時に限って気の聞いた言葉の一つも出ないのか。 どうしようどうしようと悩むアスラン。 と、そこへ 「オマエッ! ゲンキか〜?」 沈黙の空間に突然の乱入者が現れた。 ラクスが、いつも持っているピンクハロ。 普段なら疎ましいその声だが、アスランもこの時ばかりは少しだけ目の前の球体に感謝した。 けれど、喜びも束の間。 次の瞬間には乱入者を見て固まるハメになる。 「ハ……ろ?」 嫌な感じに語尾が上がったのが自分でも分かった。 乱入してきたハロは一匹ではなかったのだ。 先頭をきって進むピンクハロと、その後ろからそれを追うようにして続くハロ、ハロ、ハロ。 異常増殖。 アスランはその光景を茫然と眺めていた。 いつの間にこんなに大量になったのか、自分が渡したハロの数は、もう両手を使っても数え切れる量ではなくなっていた。 「………ラクス」 「はい?」 「なんなんですか、これは!」 「あら、ハロですわ。」 あくまでのほほんと答えるラクス。 アスランはマイペースな婚約者に溜め息をついた。 「いや、そういうことを言っているのではなく……」 「???」 「いえ、やっぱりいいです」 頭に、はてなマークを浮かべながらこちらを見るラクスにアスランは早々に戦線を離脱、白旗を上げた。 「ハロッ、ゲンキ!!」 あぁ、お前はいっつも元気だよな。悩みもなさそうで羨ましいよ。 アスランは心の底からそう思ったが、敢えて口にはしないでおく。 もちろん自分がこんな能天気ロボットの開発をしたという事実は、綺麗さっぱりアスランの脳みそから消えていた。 ひとしきり跳ねた後、その球体はラクスの手に収まった。 よく見ると、それはさっき自分が渡したハロだった。 「あなたの名前はオレンジちゃんにしましょうね〜」 オレンジ色だから、オレンジちゃん。 ……そのまんまじゃないかと内心突っ込みを入れつつもアスランは苦笑してみせる。 「そんなにこれがお好きなのですか?」 アスランは飛び回っていたハロのうち一体を捕まえて、問いかけた。 自分が作ったロボットを送ったのはラクスが二人目。 ひとつは親友との別れの時、再会の約束と共に渡した鳥のロボット。 あげたときは彼もこんな風に喜んでいたような気がする。 「もちろんですわ」 「どこを……そんなに気に入ってるんですか?」 そう、それは製作者としても今後の参考に是非聞いておきたいところ。 ラクスは唇に手を当て、少し悩んでから言った。 「……丸くて、お話して、ぴょんぴょん跳ねるところですわ!」 それに……と少し間をあけてラクスは続けた。 「アスランが作ってくれたものですもの。」 ちょこんと首を傾げて、なぜそんな事を聞くのかという様子のラクスに、アスランは自分の体温が上がるのを自覚した。 いつも、突然なんだこの人は。 自分の都合なんかおかまいなしに告げられる言葉。 ふとした時に思い知らされる。 自分は自分が思っているよりもラクスが好きなのだ。 だから、どんなところも可愛く見えてしまうし、多少のことなら許せてしまう。 少し常識ハズレなところも、おっとりしたところも、自分にとっては美点でしかない。 「そういえば、今日はアスランのお誕生日ですわね」 言うなり、ラクスはアスランに顔を近づけた。 「お誕生日おめでとうございます、アスラン。」 ちゅ、と音を立ててラクスの唇がアスランの唇に触れる。 「ラクスっ?!」 アスランは真っ赤になって口元を押さえた。 惚れたものが負け。 結局はそういうことなのだ。 END アスラク。遅くなりました。 気に入らなかったので最初から全て書き直しをかけたのです。 自分的にはお気に入りなので書き直してよかったと思ってます。 が、誕生日関係ないかも……。取ってつけたようなかんじで。。。 これは軍に入るよりもずっと前のお話ですね。 14歳くらいでしょうか、血のバレンタイン前なのでアスランの性格がまだだいぶ幼い。。。 尻に敷かれるタイプだよなぁ(苦笑。 |