遠い日の思い出。











 過ぎ去った日は帰ってこない。

当たり前の事だけど、
でも・・・『今』も、何もかも『昔』のままだったらよかったのに・・・。








・・・・・・カタカタカタカタ。。。。。

ノートパソコンのキーボードを打ってる音がする。・・・僕が今やってる事だ。
ふと、その手を止め、空を見上げる。

「キラ・・・。」

口から零れるのは、大事な・・・とても大事な友の名。
 今は、・・・敵軍、地球連邦軍にいる。
 そこで、ストライクのパイロットをしている。

(友を守るため・・・か。キラらしいな・・・・・・。)

くすっ・・・と思わず笑みが零れる。

 以前、月の幼年学校に通っていた頃、そのときもやっぱりキラはお人好しで、
頭はいいんだけど、ぼーっとしていた。


















「・・・っめ・・・・・・・だ・・・・・いぢめないで!!」


(・・・今のは、キラの声?)

少し遠くから、何か争うような声。
嫌な予感に、眉間にシワを寄せながら、声のした方へと足を進める。


「だあーめ!!いぢめないでったら!」

・・・やっぱりキラだ。
でも、
周りをぐるっと大勢に囲まれている。

「そこどけ!!てめえにゃ用はねぇんだよ!さっさと渡せ!」
「イ〜ヤ!!」

(なるほどね。・・・キラ、またなんか(誰か)かばってるんだな。)

キラは、友達がイジメられたりするのを、黙って見てるような子じゃない。
いつも、
その小さな体をいっぱいに伸ばして、張って、
かばって、
守ろうとする。
そしてそれは、
なにも人とは限らない。
犬、猫・・・・etc.動物も、例外じゃない。

 そんなことはしょっちゅうで、対外はキラの頑固さに根負けして、引き下がっていく。

 アスランは、ほうっておこうかとも思ったが、
一応、顛末は見守っていこうと思い、踏みとどまる。

(今日は、ちょっと様子が違う。何か、雰囲気が暗雲立ち込めている。)
キラを囲む連中は・・・ずいぶんと年上ばかり。
少なく見積もっても、18、9歳ぐらいだ。

「おい、どかんかい!」
「い・や!!」

 キラは、こうと決めたら頑固なので、案の定、うなずかない。

「おい、ちょっと・・・・・・。」
「ん・・・?」

一人の男がリーダー格の男に、何やら耳打ちする。


 ・・・表情は読めない。
 アスランが隠れている所からは、キラはよく見えるが、
 他の奴等、キラを囲んでる奴等の顔はあんまり見えない。
 ちょっとばかり、離れすぎてる。

が!!

(・・・キラが危ない気がする・・・!)

 わかるんですか・・・君は。
キラの危険センサーでもついてるのでしょうか?

・・・・・・だが、それは的中する。


「・・・お前、可愛い顔をしているな。」

ニヤリ。と、男が笑う。

いやらしい男の手が、キラのあごにかかる。

「・・・?」

不審そうにしながら、その男を見るキラ。


「もうアレはどうでもいい。・・・おい、こいつを押さえろ!!!」

「え・・・?・・・っうわああ!?」

キラが、男達によって押さえ込まれる。

(キラ!!!)


気がつくと、アスランは走り出していた。

「・・・っな、・・何すっ・・・・!?」
「暴れるな!!・・・お前、男・・・・・・まあ、こんだけ可愛けりゃどっちでもいいか。」

 男達は、笑った。

 そして、キラに男達の魔の手が群れをなして襲い掛かった。


「い・・・やだああああああ!!」
「キラを放せ!!!」

キラが泣き叫んだその時、アスランが、キラ達の目の前に、立っていた。

「!!・・・なんだ、ガキか。・・・こいつも、ずいぶんと可愛らしい顔してるぜ。」
「ははは。」

男達は、アスランを見て笑った。

アスランは、そのことに眉をひそめながら、キラの腕を握っている男を蹴った。

 ゲシッ!!

「痛っ!!このガキ〜〜〜!!!」

 どうやら、そうとう痛かったらしい。

 男達は、アスランに殴りかかった。

 ゲシ!ベキ!!ドカッ!!!


 が、そんなのは今のアスランの敵じゃなかった。

 ベシ!バキッ!!・・・バチィイイイイィ!!!


 エリート家の跡取り息子である彼、アスランは、
武道全般できる上、頭も良く、強い。

 それだけでも強いのに、今のアスランはスタンガンまで所持している。
 ・・・どっから出したんだ、一体・・・?

「こ、このガキ・・・強い・・・!?」
「は!!・・・オイ、やべえ人が来た・・・!逃げようぜ!!」
「え・・・オイ、待てよっ!!」

リーダー格の男一人を残し、あとの奴等は皆、逃げてしまう。

「お、俺も逃げ・・・!?」

 ガッ!

逃げようとした男の服を、アスランは足で押さえた。

「ひっ・・・。」
「・・・誰が逃がすか。」

くすっ・・・とアスランは笑った。

 逆光で、男からは、やけにアスランが怖く見えたことだろう。



 自分よりも年下で、背も低いアスランに怯える男を見て、
騒ぎに駆けつけた大人達はあっけにとられ、アスランに言われるまま、
男を捕まえていき、去って行った。


「・・・キラ?・・・・・・・・キラ。もう、大丈夫だよ。」

 男達が去り、大人達が去ってもなお、うずくまってるキラに、
 優しく話し掛けるアスラン。

「・・・・・・・」

 でも、キラはうずくまったまま、しゃべろうともしない。

(よっぽど、怖かったんだろうな。・・・アイツ等・・・今度会った時は殺してやる・・・)

「キラ。・・・アイツ等はもう行っちゃったし、僕とキラ以外にはもう誰も居ないよ?・・・もう、大丈夫なんだよ。」

 もう一度、ゆっくりと、小さな子供をわからすように言う。

「・・・・・・・・・ほんと?・・・もう、あいつら、いない?」

「ああ。」

 アスランはしっかりと、うなずく。

 それを聞いて、やっとキラは顔をあげる。・・・泣いていた。

「う・・・アスラン・・・・うわああん!!!」
「・・・・・・・・大丈夫、大丈夫だよ・・・・キラ・・・・・・。」

 泣きながらしがみついてきたキラをしっかりと抱きしめ、
背を軽く叩いてやるアスラン。

 しばらくして、キラはゆっくりと、話し出した。

「・・・・・うっ・・・ううっ・・・この子・・・・死んじゃった・・・僕・・・・・・・
僕、・・・守れなかっ・・・・た・・・・」

 そう言ったキラの手には、可愛らしい黄緑色の鳥がのっていた。
・・・もう死んでいる。

 (これを、守ってたんだな・・・。)

見れば、その鳥には紐がついており、翼なんかや胴体に、傷がたくさんある。
 ・・・あの男達がやったのだろう。

「・・・・・・・この子は、埋めて、お墓を立ててあげようね。」
「・・・・・・・・・・・・うん・・・・・。」


 そのあと、二人で鳥を埋めてやり、・・・その日はもう遅かったので、
 二人して寮に泊まった。


 その日の夜。。。

 カチカチかチ・・・・

「う、う〜ん・・・・・?」

 キラが寝ているすぐ近くの机で、アスランはメカをいじっていた。

(明日は、キラが帰る日・・・それまでには、仕上げないと・・・・・。)

 明日、キラはここを出て行く。もう、荷物は運び出した後だ。
 アスラン自身も、もうじき出て行くので、もうほとんど荷物はない。

「・・・・最後に、・・・別れる前に、辛い思い出なんて、嫌だもんな・・・。」

 ひとり呟き、キラの前髪に触れる。

 さらり・・・。と、キラの髪はアスランの手から零れ落ちた。

(・・・だから、ちゃんと仕上げないと・・・。)

 そして、またメカをいじり始める。・・・それは、深夜まで続いた。




 翌朝。
今日は・・・キラが、帰る日。

「ごめんね、アスランの服まで借りちゃって・・・。」
「ううん、いいんだよ。・・・あの服は、あとでちゃんと送るからね。」

今、キラはアスランの制服を着ている。
・・・昨日着てた服は、汚れているので、アスランが自分の服を着せたのだ。

「・・・・・また、会える?」
「もちろんだよ。」
「戦争になんか、ならないよね?」
「・・・大丈夫だよ。・・・・それに、キラもプラントに来るんだろ?」
「・・・・・・・・うん、たぶん・・・・。」

 しばらく、間。

「・・・・・・これ、作ったんだ。」
「・・・!これ・・・・」
「少し、似てるだろ?」

 アスランは、手に乗っている物をキラに差し出した。

『トリィ?』

 その物が、鳴いた。

黄緑色をした、小鳥の形のロボット。

「これ・・・・」
「・・・キラに、あげる。・・・忘れないで、キラ。
僕は、・・・・君が一番大切なんだよ。」

「・・・・・うん。それは、僕もだよ、アスラン。ありがとう・・・。」

 ニコリ。と、キラは微笑んだ。

 いつものキラだ。心がほっとあったかくなる笑顔。


 ・・・・そしてキラは去って行った。あの、戦場のさなかで会うまで、
ずっと会えないまま・・・・。









「アスラン様、そろそろお時間です。」
「・・・・はい。」

 手にしていたパソコンを閉じる。

その隙間から、一枚の写真が落ちた。

「・・・・・・・・。」

 アスランは無言でその写真を見、すぐに服の中にしまった。

(・・・そう遠い思い出じゃないのに。
 ・・・・あの頃の時が、止まってしまえば良かったのに・・・。)



写真には、まだ幼い二人の少年が、笑って写っていた。
 裏には、『キラとアスラン、誓いの桜にて。』と書かれていた。

(・・・・僕は、次に君に会ったら、本気で戦う。
 それしか、僕の思いを伝えることができないから・・・・――――。)








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