それぞれの戦い
〜 拭えない過去の悔やみ、そして現在の居場所 〜


「アスラン!!!」
ザフトのパイロットの1人、アスランが出撃した。
声の主は同じくパイロットのニコルだった。
「・・・・・。」
地球連合軍がきた、ということは声を出さずともわかる。
「ち・・・っ。アスランの奴、ぬけがけとは卑怯な。」
「そういう問題じゃないでしょう。仮にもいまは・・・、あっ。」
そんな同僚、イザークに対するニコルの声もむなしく、バスターガンダム出撃の音でかきけされた。
「くそっ、ディアッカ!」
同時に、イザークはデュエルガンダムに乗り込んだ。


その頃。アスランは複雑な相手と対峙していた。
「アスラン・・・。」
そう呼びかける少年はキラ。敵、地球連合軍の戦士だ。
普通なら、ここで激しい攻防があるべきものだ。
しかし、彼らは戦いに徹しきれないでいた。
アスランにとってキラは、かつての親友だからだ。
「キラ、どうして地球連合軍何かに!同じコーディネイターだろう!?争う必要なんかないはずだ!」
「アスラン、俺は――――――」
キラが何か言いかけた時、無残にもその瞬間は終わった。
「アスラン!どけ!」
デュエルガンダムからの容赦ない攻撃がキラに向けられた。
「うわ!???」
キラはあまりに不意な事に体勢をくずした。
「イザーク!!!」
「殺ってやる!今度こそ!!!」
イザークがキラを追撃して、もはやアスランには見えなくなっていた。
急いでそれを追いかけようとした、その時。
「・・・ラン、アスラン。聞こえる!?」
「ニコル!?」
1人ザフト本部に残っていたニコルだった。
「撤退命令が出ました。すぐに引き返して!」
「え・・・!?あぁ、了解。」
突然の事に戸惑いながらも、アスランはイージスガンダムを翻した。

「アスラン、おかえり。」
ニコルがアスランを迎えた。
「あぁ。でもなぜ。」
「何か、大砲をうつとかで・・・・。あれ?イザークは?」
ちょうど先刻、ディアッカが帰還したところだった。しかし、イザークがいない。
アスランの頭に嫌な予感がよぎった。
「まさか。」
「どうしたって?」
ディアッカが話しに割って入った。
「イザークがまだ帰らないそうだ。」
「あっ、でも、すぐに帰ってくるかもしれないし。」
「だけどもしかして。」
「とりあえず、アスランもディアッカも疲れたでしょう!?部屋で休んで。」
ニコルは強引に2人の背中を押した。

アスランは1人になってから深刻な表情で考え込んでいた。
・・コツ・・・コツ・・・
聞きなれた足音。
アスランは平静を装う為にゆっくりと振り向いた。
「ニコル。イザークは?」
「いえ・・・、まだ。」
言いにくそうに視線を合わさずに答えたニコルは、イザークのしている行動の想像が明確にできているのだろう。
「そうか。」
と短く答えた10秒後には、本当の気持ちを口走っていた。
「やっぱりもう1度・・・!」
ガンダムに乗って出撃する、という前にニコルがそれを遮った。
「なぜ!?」
アスランは戸惑った。この数秒の間に必死に言葉を探す姿が、ニコルにはわかりすぎていた。
「いや、だから・・・イザークが心配だから。」
やっと出された言葉は苦しい事限りなかった。
なぜなら、アスランはイザークが嫌いなのだ。死んでしまえばいいと思っている。
イザークの事について、(未成年なのに)酒を飲みながらニコルに深夜まで愚痴をこぼした事さえあった。
苦しすぎる。
「嘘をつかないで下さい!!!そんな事あり得ないのに!!!!」
凄い否定の仕方。アスランの愚痴は相当なのだろう。
ニコルの目は潤んでいるように見えた。
「ニコル?」
「帰還前まで戦っていた、地球連合軍のパイロットが気になるからでしょう?」
「・・・・。」
どうしてニコルがキラの事を知っているのか、アスランには想像もつかなかった。
「どうして・・・。どうして目の前にいるのは僕なのに、アスランの目には違う奴が映っているんですか!?」
「ニコル?何を言って・・・」
ニコルの言葉はアスランに動揺を与えた。
ニコルの目から涙が流れている事に気付いた。
「僕は、アスランの考えている事はわからないし、頼りないかもしれない。だけどアスランが1人で苦しんでいるのを見るのは辛いよ!戦いの後のアスランはいつもそうだ!どうして・・・・、」
「ニコル・・・。」
「どうしてアスランにとって僕が1番じゃないんだろう。」
ニコルはそのまま冷たい床に崩れていった。
アスランは例えようのない気持ちに満たされていた。
それは一番近い言葉で言うなら‘嬉しい,だった。
もう自分を理解してくれる人間などいないと思っていた。
自分を思ってくれる人間などいないと思っていた。
でも、ニコルは自分を見てくれていた。
自分が何でもない存在でなかった事が嬉しかった。
だんだん外が、騒がしくなっていった。
「イザークが帰還したみたいですよ、・・・行かないのですか?」
「今日の任務は終わった。部屋に戻ろう。」
立とうとするニコルを手伝う為に、手を差し出したアスランの表情は、穏やかだった。



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