それぞれの戦い 〜 戦争への悔やみ、そしてアスランへの想い 〜 |
「アスラン・・・。また戦争ですか・・・。」 ラクスは悲しげにつぶやいた。 「仕方ないですよ、ラクス。」 「皮肉ですわね、あんなに平和を望んでいたあなたが。」 「ラクス、それは言わない約束です。」 そういうアスランの顔も苦渋に満ちていた。 「ラクス・・・・。」 アスランはそう言ってラクスを抱きしめた。 「アスラ・・・・。」 「戦争をしている僕がいうのもおかしいけど、僕は戦争を終わらせるために戦ってるんです。」 「ええ、わかっていますわ。あなたはとても優しいお方。お辛いでしょう、キラ様とも戦わなくてはいけないし・・・・。」 「オマエモナッ」 深刻な話の中突然ハロが元気よく飛び出した。 「ハロ・・・、おまえはいいなぁ、幸せそうで。」 ピピピピッピピピピッ 通信機だ。 「ラクス、ちょっと待ってて。」 アスランは急いで通信機の前に行った。 「はい、アスラン・ザラ。」 「アークエンジェルを発見!出動せよ!」 「はっ!」 通信が切れた。 「アスラン・・・。」 アスランは、少し困ったような表情をした。 「すみませんラクス。行かなければ・・・。」 「・・・・。」 「イテッ」 ラクスはうつむいて、抱いていたハロを落とした。 「・・・それでは行って参ります。」 アスランは部屋を出て行こうとした。 「あなた1人で背負わないで下さい。アスラン、必ず帰って来て下さいね。」 「えぇ、必ず。」 扉が閉まってからは、アスランの走っていく足音が聞こえた。 「ラ〜クス〜?」 「・・・。」 ハロの呼びかけにラクスは答えなかった。 代わりに、ハロの上に水滴が落ちてきた。 「うっ・・・。」 「ゲンキカ〜?」 「・・・・っ」 その水滴はやまなかった。 あなたはとても重いものを背負っている。 ずっと1人で背負ってる。 私には言ってくださらない。 私はアスランの何の力にもなれない・・・・。 「ハロ・・・私はどうすれば良いのでしょう・・・・。」 アスラン、ご存知ですか?あなたの帰りをお待ちしているこの間が、どれだけ長いのかを・・・・。 ズガガガガガガッ イージスの攻撃の音が響いた。 ストライクがそれに応戦している。 「坊主!大丈夫か!?」 フラガがキラの援護にやってきた。 「ええぃ、ちょこまかと!」 デュエルの激しい攻撃が援護を阻む。 ストライクが、ためらいながらもイージスにむかって攻撃を発射した。 「させない!」 ロストしたブリッツが、ストライクを背後から撃った。 「く・・・っ。」 体勢を崩したストライクに、容赦なくイージスから攻撃が発射された。 「アッ・・・アスラ・・・・ッ!」 キラの声はアスランには届くはずもなかった。 キラ・・・おまえは僕に言ったんだ。友達が、守りたい者がいるのだと。 僕はキラと戦いたくはない。でも僕もキラと同じなんだ。 ザフトの艦に。 あそこに守りたい人がいるんだ。 僕は人殺しをしている。 誰を救える訳でなく、誰を幸せにできる訳でなく。 ここで君に殺されたってかまわない。 でも。 待っている人がいるんだ。 例え君を殺しても、泣かせたくない人がいるんだ。 もっとも、もう遅いかもしれないが。 それでも。 ドンッ 鈍い音が響いた。 イージスの放った攻撃が、ストライクを貫いた。 ストライクが落ちていくのが見えた。 その後の事は覚えていない。 気がついたらザフトの艦に戻っていた。 「お帰りなさいませ、アスラン。」 「ラクス・・・・。」 「ゲンキカ〜!」 アスランの顔から、少し笑みがこぼれた。 「お疲れでしょう。さぁお部屋に。」 そう言って差し出したラクスの手を取った。 「・・・・。」 「どうかなさいましたか?」 「あ、いえ、別に・・・。」 しかし、アスランのその顔が、何かあった事を示していた。 「アスラン、私は戦うこともできませんし、ずっとあなたの側にいる事もできない。でも、少しでもあなたをわかりたい。」 アスランを握る力が少し強まった。 「ラクス・・・。」 アスランはラクスを握るその手を見つめた。 「僕は・・・。この手でキラを・・・・・。」 ラクスの表情が揺らいだ。 「キラ様は・・・死なれたのですか?」 その声は少しこわばっていた。 「いいえ、わかりません。キラを撃って、ストライクが落ちて・・・・それから・・・・。」 「そうですか・・・。」 部屋の中に入って扉を閉めた。 「僕が・・・っ、この手で・・・・。」 ラクスはアスランを抱きしめた。 「自分を責めないで下さい。私は・・・あなたが無事で戻って下さった、それでようございます。他は何もいりません。」 「ラクス・・・。良いのですか?私は人殺しですよ。」 「いいえ、あなたは平和を願っていらっしゃる。人殺しなどではありません。あなたは皆を守りたいが為に戦っているのでしょう?苦しまないで下さい。」 「ぼくは・・・・。あなたを守りたいから戦ってるんです。でも結果的にあなたに悲しい思いばかりさせて・・・。」 「いいえ、アスラン。私は幸せです。あなたがこうやっていてくれるだけで。」 「ラクス・・・・愛しています。」 「私も愛していますわ。」 「あなたの為にハロを作っている時は、戦争を忘れられるんです。いつもあなたの喜ぶ顔が見たくて・・・。」 「有難うございます。私もとても嬉しいですわ。本当に・・・何故戦争など起こるのでしょう。皆が愛し合えばいいのに、私がアスランを愛するように・・・・。」 アスラン、私は何もできない。 それでもあなたのそばにいます。 あなたが血で汚れて帰ってきても、洗い流して差し上げます。 何度でも。 あなたは平和を愛する方なのだから。 |