どれくらい時間が経ったのだろうか?
いや、おそらくそれほど経った訳じゃない。
その時のミリアリアにとって数分は何十年の時にも感じられた。
トールがくれた、木箱をぼんやりと見つめていた。
後ろに小さなぜんまいがついている。
ほとんど無意識のうちにぜんまいを巻いていた。
気が付いた時にはもうぜんまいを巻き切っていた。
かぱ・・・・・・。
俯いたまま半分夢の中にいるような頼りない意識で蓋をあけた。
♪・・・・ξё£Й¢¢☆!・・・・・
「・・・・・!?」
ミリアリアはいきなり現実に引き戻された。
何これ。
曲になってないじゃない。
作るの、失敗したのかな。
帰ってきたら教えてあげなきゃ、帰ってきたら・・・・。
それでもそのオルゴールは最後まで鳴り続けていた。
―――――――――――――トールは帰って来なかった。
ミリアリアは部屋の整理をしている。
もう、いつまでも思い出を連れて行くわけには行かない。
「何してるの?」
男が部屋に入ってきた。
彼の名前はトール・・・・ではなく、ディアッカ・エルスマン。
元ザフトのバスターガンダムパイロット。
「あ・・・あんたには関係ないでしょ!出てってよ!」
ミリアリアはディアッカを部屋から追い出す為に体を強く押した。
―――――――――――――――ガチャッ
ディアッカがぶつかった棚から、木箱が床に落ち、中身が床に転げ落ちた。
「あっ・・・・!」
「ご、ごめん・・・・。」
ディアッカは木箱と、中身を急いで拾った。
それを、ミリアリアに渡そうとして止まった。
「なぁ・・・・、これ彼氏にもらった物?」
「そっ、そうよ!・・・・それがどうしたの。」
「あんたの彼氏、あんたの事大好きだったんだな。」
「・・・・え?」
「ほら。」
ディアッカはミリアリアに木箱の中身、曲を構成する部分を渡した。イガイガが手にあたると変な感触がした。
ミリアリアはその場に、崩れ落ちた。
あの時、トールが私に伝えたかった事は。
それに付いている曲を構成するイガイガは、不自然なほど綺麗に整列されていた。
・・・ ・ ・・ ・ ・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・・・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・・・ ・・・・ ・・ ・ ・・・・ ・ ・・ ・・
―――――――――I LOVE YOU
それが奏でる音楽は、何よりも美しかった。
―――――――――――――――――コンコン。
「はい。」
少年のあどけない声がドアの向こう側に届く。
「キラ。俺だよ。」
「・・・・アスラン。」
ドアが開けられた。
「何か、用?」
「えっと・・・・、特別用事がある訳じゃないんだけど・・・・。」
「そう。」
・・・・沈黙。
「迷惑だった?」
「そうじゃ・・・・ないよ。」
・・・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・。
「そうじゃ、ないけど?」
皆、辛いのに。
皆辛いのに、僕が君に会えるなんて我侭でずるい事なんだ。
フレイもミリアリアも、皆辛いのに。
僕だけアスランに会うなんていけないんだよ。
「うっ・・・・うぅ・・・・っ」
何も言えない。ただ涙を流すだけ。
「キラ!?」
ごめんね、アスラン。
僕は君を好きだなんて言えないんだ。
言えないんだ。
キラは涙を止めると、一言だけ呟いた。
「早く戦争が終わるといいね。」
「・・・・あぁ、そうだな。」
アスランはそれ以上聞いてこなかった。
アスラン、もし戦争が終わったら。
皆が辛い思いをしなくてよくなったら。
僕も、君に想いを伝える事を許されるかな。
戦争が終わったら、
アスラン、君にオルゴールをあげる。
|