守りたい人 「ニコルは・・・ピアノが上手いな。」 ピアノを弾いていた少年の手が止まる。 「いえ・・・でも僕はアスランほど器用ではないですし。」 そう言って微笑した少年は視線をピアノに戻しまた弾き始めた。 美しい音色が響き渡る束の間の平和の日々。 その部屋にはピアノを弾くエメラルドの髪の少年と、それに聴き入る少し紺色がかった髪の大人びた少年がいるだけである。 エメラルドの髪の少年は何を思いながら彼だけの為に弾いているのだろうか・・・・。 「そんなのんびりしていていいのか、ザラ隊長。」 突然やってきた物足りない平穏の日々にイザークが風刺する。 「のんびりしてるわけじゃないさ。ただ・・・・このまま平和が続くにこした事はないじゃないか。」 「そうですよイザーク。イザーク達だって平和な方がいいでしょう?」 「そうかな?ナチュラルなんて目障りじゃない。」 ニコルの言葉にディアッカは冷たく言い放つ。 「ディアッカ・・・・。」 アスランは一瞬暗い表情を見せる。 ナチュラル・・・・と聞いてふとよぎるのはキラの顔。 (キラは・・・コーディネイターなのに、何でナチュラルの中にいるんだよ・・・・。) アスランとしても、ナチュラルが憎くないわけじゃない。 親友を奪ったナチュラル、・・・母親を殺したナチュラル。 「ナチュラル・・・・。」 「アスラン?」 「・・・・何でもない。」 アスランはそのまま部屋を出て行った。 「あいつも嫌いじゃないんじゃない、戦争。」 「待ってください、アスラン!」 嘲笑するディアッカを睨みながら、ニコルはアスランを追いかけた。 「アスラン・・・・。」 「すまない、ニコル。」 「ナチュラル、ですか。」 「・・・・。」 「考えたらもともと僕らを創ったのは彼らなんですよね。」 「あぁ・・・・。そしてユニウスセブンを崩壊させたのも、彼らだ。」 「アスラン・・・。すみません、辛い事を言わせてしまって・・・・。」 「いや・・・・・。」 自分から全てを奪ったナチュラル。憎い地球軍。それでも、キラは違うと信じたい。 ニコルは、そんな複雑なアスランの思いに少し気付いてはいた。 「アスラン・・・・1人で悩み抱え込まないで下さいね。」 驚いたようにニコルを見た。 「そんな顔してた?嫌だな、たぶん疲れてるだけだよ。」 「アスランはいつも辛そうな顔をしています。」 悲しそうに見つめるニコルに、さらに辛そうに顔を暗くして答えた。 「ニコルだってそうだろう?」 「アスラン・・・・。」 (ニコルは本当に戦争を嫌い平和を愛する、何をも憎めない子なのだから・・・・。) 平和な日々は続かない。 彼だけはこのままで。切なる願いを胸に、生憎にもアスランは戦場に向かわなければならなかった。 僕は、弱い。 何も出来なかった。イザークが怪我をした時も、助けられなかった。 (こんなパイロットじゃ、ブリッツが泣いているな・・・。) ニコルは、ブリッツに搭乗しながら過去を思い出していた。 (嫌だ、戦いたくない。でもそれは偽善なんだ。) 殺らなきゃ、殺られる。 (でも、僕は殺す為に戦ってるんじゃないんだ!僕は・・・・僕は・・・・!) 「ニコル!」 「うわあぁぁぁ!」 アスランとニコルの声が響く。 (くそっ・・・・!) ブリッツがストライクに落とされてしまった。 (こんな・・・・こんな所でやられる訳にはいかないんだ!) 「よくもニコルを!」 ニコルは・・・・真面目で、純粋で。 ・・・誰も憎めなくて。平和とピアノが好きで。 だから・・・・・・!!!! 「・・・・!しまった!」 ストライクとの激しい戦闘で地に落ち体勢を崩してしまったイージス。 (アスラン・・・・!) 嫌だ。嫌だ。嫌だ。・・・・守れないなんて嫌だ。 弱い僕が嫌い。失いたくない大切な人を守れない僕は、嫌い。 「アスラーン!!!」 「・・・・・・・!!!!!!?」 急に現れたブリッツ。驚くストライク。 「うおぉぉぉ!」 ブリッツの機体に、ストライクの攻撃が、 ヒットした。 「アスラ・・・逃げ・・・・・」 (ニコル・・・・・・・!!!) だから、死なないで。 君の瞳の先にあるものは、僕らが目指す平和なのだから。 |