Chirstmas in Zero G Space.













The way back of a thaw.





「冷たいね。ばかアスラン、何時間ここにいたの?」

ばか、と言いながらもその声は責めるような色は少しも含まず、
ただ包み込むように柔らかな響きを持ってアスランの心に染み渡る。

「キラこそ、どうしてこんなところにいるんだ?」

「僕は……その…

あの頃と変わらないキラの声。そして、だんだん小さくなる言葉。

   後ろめたい事があると言葉が尻すぼみになるのも相変わらずなんだな。

アスランは、キラの中に昔からずっと変わらない面影を見つけて、思わず微笑んだ。

別れてから三年。再会して敵として戦って、―――それが一年。
そこからさらに二年経ち……既に時を止めたキラに比べると
無駄に大人びたというのだろうか……自分ばかりが成長してしまっていて―――

それでも、キラが変わらないから
自分もまた、変わることはないのだろうけれど……。

「どうしたんだ? 言ってごらん?」


問う声は、自分でも驚くほどに甘くて……思わずアスランは苦笑した。

   俺は、いつもキラを、甘やかしすぎだな。

でも、それもまた、幼い頃から培われた二人の関係なのだから、
今さらどうしようもないのだろう。

「ぼ、くは……」

「ん……?」

なおも言いにくそうなキラにアスランは柔らかく笑うことで先を促した。

「僕は……キミに幸せになってほしかったんだ」

やっと終わった戦争。ずっと辛い思いばかりだったアスランには、
一番に幸せになる権利があると思うから。

「キラがいないんだ。幸せになんてなれないさ」

「アスラン……」

   幸せになって。
   でも、僕がいないのに幸せにならないで。
   相反する心の行き着く先は残酷なもので。

「どうして、何もかもが上手くいかないんだろうな」

幸せ、なんて、与えてくれる人はもう一人しかいなかったのに。
それすらも簡単に奪っていったあの忌まわしい戦争。

守るために取った刃は、皮肉にも最も守りたかった相手を傷付け
その命すら持ち去ろうとする。

「あぁ。でも……今は………」

   キラが来てくれたから、俺は幸せかな。

幼い頃から、キラの笑顔を見ると嬉しくて、
無条件にキラの側にいられるのが、どうしようもなく心地よかった。
今も、昔も、いつだって自分の幸せは、キラが握っているのだと思う。


「本当はね。生きて、笑ってて欲しかったんだ。ラクスとでも、カガリとでも、他の人の隣でも」

でも、それでもアスランの幸せがここにはないというのなら……

「連れて行ってあげる。」


   あぁ、そうか………キラは……

「迎えに…来てくれたのか」


アスランは笑った。本当に幸せそうな笑みで。


「うん………」

そんなアスランに、ぎこちなく微笑みながら頷くキラは、哀しみと憐れみの色を揺れる紫紺の瞳に滲ませた。


「………キラ………」

手を伸ばそうにも、冷え切ったアスランの体はもう動かない。
それでも、どうしてもこの思いを伝えたくて、アスランは必死に言葉を紡いだ。

「会いたかったんだ」

「うん」

「ずっと……キラに会いたかった」

万感の思いを込めてアスランは言った。

「僕もだ………」


キラは悲しそうに笑って、その腕にアスランの体を包み込んだ。


「もう眠りなよ、アスラン」


「嫌だ」

「子供みたいなこと言ってないで」


   疲れたんでしょう?
   辛い思いばかりさせてごめんね。


「次に目覚めたときも、きっと側にいるから。大丈夫」

   ―――もう、ひとりにはしないよ。

「本当に?」

「うん。どこへ行くとしても、必ず君と一緒だから」

キラがそう言うと、アスランはやっと安心したように穏やかに微笑んだ。


   苦しかったよね。寂しかったよね。
   なのに、ずっと僕のこと思っていてくれてありがとう。

   どうか、僕の最後の我が侭を、許して。


「…キ……ラ………」


視界を雪が覆い隠す。

何年も忘れていた心地よい温かさに包まれて、
アスランはこの日、ようやく待ち望んだ安らぎを得た。






The way back of a thaw : 雪解けの帰り道






BGM:眠りの精霊
≫Music from VAGRANCY.
背景画像
≫Material from Fairy Glow.