戦争が終わってしばらく。
さまざまな過程を経て和解した僕らは地球へと降り立った。

戦争が嫌いだといったのにザフトに入ったアスラン。
来いと言ってくれた彼を選べなかった僕。
それぞれに思うことはいっぱいあって
全部が全部元通りなんてほど上手くはいかなかった。

……けれど、桜の下
四季の存在する小さな島国で二人
もう一度やり直そうって約束したんだ―――……




終戦後




「キーラ。」

背後に、人の気配を感じたかと思うと、いきなり巻きついてくるアスランの手。

「うわっ! 何?!」
さすがの僕もコレには反応しきれず
アスランにされるがままに後ろから抱き締められてしまった。

「幸せだな」
「は……?」
唐突な言葉に僕は思わず面食らった。
「・・・いきなり、なに?」
「何となく」
いきなり人に抱きついておいてこの言いぐさ……。
呆れてものも言えないよ。
「幸せだ、本当に」
しみじみと、かみ締めるように言うアスラン。
ますますわけが分からない僕は大きく溜め息をひとつ。
「呼びかけておいて勝手に自己完結させる妙な癖はよせ」
「いいじゃないか」
「よくない。ちゃんと相手に分かるように言わないから、君はいつも誤解を受ける。そして、被害を被るのは何故かこの僕だ!!」
「それはどうもご迷惑をおかけいたしました」
「ホントにね。っていうか、ちょっとは反省しろ」
からかうようなアスランの口調に反省の意志は見られない。
まったく、と軽い怒りを込めて引き離そうとすると
離すまいとするように強く抱きこまれた。
「誤解するヤツが悪いんだろ。だから、悪いのは俺じゃない」
言葉は普段と変わらなく聞こえるのに、行動がそれを裏切っていた。

「アスラン……?」

「こっち……向かないでくれ」

アスランの声が震えている気がした。
振り返ろうとする僕をやんわりと押し留めて、アスランが僕を抱く腕にさらに力を込める。
縋りつくように……そう、それは本当に縋りつくという表現がピッタリだった。

いつもと違う、彼らしくもないこの行動。

「何か…あった?」
「何でもないよ。キラ」
軽く首を振る気配がして、アスランが僕の髪に顔を埋めた。

「アスラン」

僕が振り返るより先に
肩に、温かいものが落ちる。

「泣いてるの?」
「いや」

アスランは顔をくしゃりと歪めた。
心配させまいと彼は笑ったつもりなのだ。

でも、失敗してる。

「嘘つきだね」

回された腕を解いて、前を向かせた。
すると、やっぱりその綺麗な瞳からは涙が伝っていた。

強いアスランの不安要素なんてひとつしかない。
また戦争が始まって
そうしたら、僕が手の届かないところへ行くんじゃないか。
彼はそれを危惧しているのだ。

戦後、一緒に暮らすようになってからもずっとアスランは情緒不安定だった。

……もう戦争は終わったのに。

苦々しい思いで僕は唇を噛んだ。

戦争の被害は目に見える形で表れるものだけじゃない。
見えないところで深く深く根を張って、人々の心を蝕んでいく。

そしてまたそれはアスランの心にも暗い影を落としていた。

「アスラン、大丈夫。……もう、終わったんだから」

そのままそっとアスランを抱きしめる。
僕にできるのは、そうやってアスランの不安を少しでも取り除いてあげること。
何度も名前を呼んで、大丈夫だよって。
ずっとここにいるから
君をひとりにしたりしないって繰り返すと
アスランが少し、笑った気がした。

「そう……だな」
「そうだよ」
「キラ………」
「なに?」
「好きだよ、キラ」
「うん」
「好きなんだ」

「知ってる」

珍しいね、泣くのはいつも僕のほうなのに。
宥めるように髪を梳く僕の手をアスランは心地よさそうに受け入れた。

そのまましばらく髪を梳いていると
スッと伸びてきた手に引き寄せられ、口付けられた。

「……アスラン調子に乗りすぎ」
「いいじゃないか、これくらい。それとも嫌なのか?」

僕も本気で怒ってたわけじゃないから、コレには苦笑することで答えを返した。
視線を合わせて、微笑み合う。

「「好きだよ。側にいて」」

コツンと額を合わせて
僕たちはもう一度、口付けた。






終戦後 : Written by Yu- Fukami.