今この瞬間にも、戦場ではたくさんの命が失われています。
たくさん犠牲に、私たちは何を思うのでしょうか。


―――今日は、戦火の中で出会った二人の少年の話をしたいと思います。




 ラクスの平和放送 ≫ 第一回放送:二人の少年  






今から数年前のことです。

月面の都市に一人の少年がいました。
プラントの要人の息子で、第二世代のコーディネイターであった彼は
幼年学校へ上がる時外の世界をもっとよく知っておくようにと
両親に月面への留学をすすめられました。

最初は渋々といった感じの彼でしたが、プラントでは常に付いて回った自分の立場も
家名も関係なく、ただの一人の生徒として学校生活を送るというのは、思っていたよりも
悪くはありませんでした。

彼には、とても仲のよい親友がいました。
どこへ行くにも一緒で、兄弟のように育った二人は、
空気のように、いつも隣りにいるのが自然で、今までもこれからも
それは変わる事はないのだと疑いもしませんでした。

テレビや新聞では、ナチュラルとコーディネイターの対立について
深刻に語られてはいるけれど、それは彼らにとって非日常的なことでした。
なぜなら彼らの母親たちがとても仲のよいナチュラルとコーディネイターの
親友同士だったからです。

戦争なんて、本当は起こるはずなんてないと、信じていたかったのかもしれません。

しかし、事態は期待を裏切るように悪化。
地球軍に息子や妻を狙われることを恐れた彼の父親は、彼をプラントへ呼び戻しました。

あまりに突然の別れ。

彼らは悲しみました。
けれど、まだ幼い子供にはどうすることも出来ず、結局離別は
避けられないことでした。
離れたくないと思う心は当然二人共にありました。
けれど、泣き叫んで抵抗して両親を困らせるようなことは二人には出来ませんでした。
彼らは聡明な子供でした。
それはコーディネイターだからというわけではありません。
周りの環境が彼らをそうさせたのです。
一人は、プラントの要人の息子。
もう一人は、第一世代のコーディネイター。
過酷な世界情勢の中で、彼らの立場は実に微妙なところにありました。
そして彼らは自分の立場を幼いながらも正しく認識していました。

それは、とても悲しいことです。


そして彼は、寂しがりやな親友に自分の分身ともいえるロボットを送りました。
寂しくないように、と。

不器用で、でも純粋な思いの詰まった小さなロボット。
彼は、再会を誓って片割れの前から去りました。

よく遊んだ桜の並木道には、もう二人の姿はありませんでした。

やがて、一人残された彼の親友も、両親と共に中立国のコロニーへと避難。
彼は一世代目のコーディネイターだったので、両親と彼を追ってプラントへ
行くことはできなかったのです。

中立国のコロニーでも、片割れの彼とそのロボットはいつも一緒でした。
彼はそれを可愛がり、とても大切にしていました。
まるで今は隣りに居ない親友のように。

―――いつかきっと来るであろう再会を夢見て。

それは、ナチュラルとコーディネイターの確執が深まり、絶望的な状況へと
追い込まれていく中で、たった一つ見えた希望でした。




そして。
切望した再会はやがて訪れます。敵同士という、最悪の形をもって。
そう。次に再会したとき親友は―――敵だったのです。




彼は大切だと思うものを守りたかっただけでした。
そして、もうひとりの彼もまた、思いは同じ。

けれども、互いの考えを理解するような時間も与えられないまま状況は
どんどん悪化し、二人を後戻りできなくさせていきました。
すれ違う心。
迷いは悲劇を生み、やがて二人は、憎み合い、本気で殺し合うこととなります。


結果。

生き残った片割れはプラントへ戻り、【英雄】ともてはやされました。
親友を手にかけたという消えない傷と引き換えに………。

彼が生きている限り、家名はずっと付いてまわるでしょう。
たとえ彼が嫌だと抵抗しようとも、きっとそれは変わりません。
けれど、たった一人、本来の彼を見てくれる人がいました。
ありのままの彼を受け入れて、それでも一緒にいてくれる親友。
いつも取り澄ましたような彼でしたが、その親友にだけはいろいろな表情を見せ、
共に学んだり、遊んだりしました。

彼は、そんな人間の命を絶ち、たったひとつ、彼が本来の彼であることの出来る場所を
自らの手で壊したのです。




考えてみてください。

もともと、願いはひとつでした。
二人の中にあった気持ち。
守りたいという思いも、戦いたくなどないという思いも、きっと同じものでした。
ならば。

彼らが戦う理由は一体何だったのでしょう。彼らが殺しあう理由は―――……。

唯一無二の親友を殺してまで手に入れようとした世界。
彼らの目指した平和とは、いったい何。


もちろん、これは彼らだけに言えることではありません。
私たちは、一体何を望んで戦うのでしょうか。
本当にもう、道はひとつしかないのでしょうか。
本当に辿り着きたい場所はどこですか。
そこに希望がありますか。

戦争を早くに終結させるため。
望む世界を手に入れるため。
……大義のために戦って、今日もたくさんの命が失われていきます。
それは正しい事ですか。
失われた命が近しい人のものであっても……後悔は、しませんか。



もう一度、考えてみてください。





―――それではまた明日、この時間に。





【放送終了】