プレゼント
--歌姫の贈り物--






「認識番号285002―――クルーゼ隊所属、アスラン・ザラ。」
簡単な認証を終えて、門の中へ入った。
―――ここを訪れるのは、もう何ヶ月ぶりのことだったか。
そんなことを考えながら、広い廊下を歩いてゆく。

執事に案内された先には、既にラクスがいた。
「アスラン! 急に呼び出したりして、すみませんでした。」
ラクスは、こちらの姿を認めるとすぐに謝罪の言葉を口にした。
「いいえ。私も休暇中に一度は訪れるつもりでしたから、構いませんよ。」
「そう言っていただけると、安心しますわ。会えることを楽しみにしておりましたもの。」
本当に嬉しそうな様子で微笑むラクスを見て、アスランも少し表情を和らげた。

「久しく会っていなかったので、お元気そうでなによりです。」
「あなたも。……最近は、忙しくしていらっしゃるようでしたから。」
「そう、ですね。ここを訪れる回数も減ってしまって……。すみません。」
「いいえ。あなたが謝ることではありませんわ。」
「しかし……。」
アスランが少し申し訳なさそうな顔をすると、ラクスはすぐに話題を切り替えた。
「…本当は休暇の時くらい、自由になさってほしかったのですけれど、今日はどうしても直接お渡ししたいものがありましたの。」
「え……?」
「はい。アスラン。」

そう言って差し出された手のひらに乗っていたのは、茶色のハロ……?
―――ではなく、ハロ型のチョコレートだった。

「こ、れ? ……作ったんですか?」
アスランの驚いた顔を見て、ラクスは少し心配そうに問い掛けた。
「やっぱり、変……でしょうか? 何回も作り直したんですけれど、まあるい形が難しくて……。」
「いいえ!! そんなことは!!」
決して、ない。
なぜならば、それは一瞬本物のハロと見間違うほどに、そっくりだったのだから。
「そうですか。よかった。」

それにしても、見れば見るほどに自分が作ったものとそっくりなハロチョコ。
その横に、いつもラクスが連れているピンクハロが飛んできた。
「まいど! まいどぅ!!」
ハロはそのチョコを見て、不思議そうに首をかしげたり、周りをパタパタ飛んだりしている。
「あかんでぇ〜!」
しばらくそれを凝視していたアスランだったが、とうとう耐え切れなくなって吹き出した。
「……くっ! あはははは………!」
「ハロ? てやんでぃ!!」
アスランの笑い声など気にも留めずに、まだまだ真剣にチョコを突付く、ハロ。
くすくすと。
微笑ましいその様子に、ラクスもまた、笑みをこぼした。

ひとしきり笑った後、アスランは再びラクスに向き直った。
「…気に入ってくれてるんですね。ハロ。」
そう思うと、純粋に嬉しかった。
「ええ。このピンクちゃんはもちろん。ネイビーちゃんも、グリーンちゃんもみんな私の宝物ですわ。」
そう言うラクスの周りには、いつの間にか色とりどりのハロが集まってきていた。
「このチョコも、本当にあなたらしい。ありがとう。大切にいただきますよ。」
「いいえ。あなたの笑顔が見られて、私も嬉しいですわ。」
「…そうですね。久しぶりに笑った気がします。」

このところ辛いことばかり続いている。
アスランにとっても、ラクスにとっても。それは同じこと。

しかし、二人がそれを口にすることはなかった。
せっかく会えた相手への気遣いと、心休まる時間を壊したくないという思いが、そこにはあった。
穏やかな時が、流れた。

「唄って、くれますか?」
「よろこんで。」
滅多にない、アスランの望み。
それを断るはずなどなく、ラクスはアスランのためだけに唄った。

響く心地よい声。
アスランは一時の安らぎに身をゆだねた。







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