死の床から僕らを呼んでいるんだよ。

ほら

今もひとつ、ふたつ。

聞こえてくる。




 Four Nightmares. 





「うわぁぁぁああ!!」



キラはベットから飛び起きた。
額には嫌な汗をかき、べったりと張り付いた寝巻きが気持ち悪い。


「……ぁあ………」


いつも見る悪夢。

殺した人たちが、血まみれで
こちらに向かって手招きしてる。
時に、それが追いかけてくることもあれば
苦しそうに呪いの言葉を吐くこともある。

聞こえてくる叫びと亡霊の残像が頭を離れない。





「キラ……」

落ち着いてくると、アスランが驚いたようにこちらを見ている事に気付いた。

「大丈夫か?」

「アス……? なんで」

何でここに、と言いかけて僕は口を噤んだ。

アスランが来たのは数日前。
僕がフリーダムでプラントを飛び出したのを追いかけて地球に降下し、
先の戦闘では何度も助けられた。

そんな人物がいることを普通忘れるかと言えばそんな事はないだろうが、
忘れていたというよりも、むしろ今はまだ、信じられないという感情の方が勝っていた。

「キラが魘されてるみたいだったから……」

途切れた言葉さえ自己解釈して律儀に答えを返してくれる彼が幻でないと……言える自信が無かった。

「別に……」

僕は誤魔化すように言葉を濁して……結局、最小限の単語で答えを留めた。

「夢を、見ただけだよ」


そう。

でも、本当は夢なんかじゃない。

僕の…僕らの……した事だ。


「キラ」

多くを語らない僕に少しだけ悲しそうな表情をした後、アスランは言った。

「俺がいる」

「え?」

「一緒に行こうと言ったのは、お前だろう?」

だから、同じ視点でものを見て、二人で考え、歩いてゆくのだと
ひとりで悩むな、半分寄越せと

少し拗ねたように言うアスランがおかしくて
でも、嬉しくて僕は彼を抱き締めた。

「……ありがと……」

微笑を向けたところで、意識は再び闇に落ちる。






そして、見える―――夢の淵。

同じ場所。同じ悪夢。

けれど、決定的な違いは、隣にアスランがいること。


アスランがいてくれるから
もう決して離れたりしないから
僕は、ひとりじゃない


握り締めた手に力を込めると、
アスランもそれに応えるように僕の手を握り返した。


本当はね
お前達の気持ち
分からないわけじゃないんだ

僕のしてきた事、僕の葬ってきた数多の命を思えば
それは当然なのかもしれない


でもまだ僕は、行かないよ。
行けないんだ。

だから

「消えろッ!!」

僕は右手で空間を薙ぎ払った。
それと同時に亡霊は霧散する。

どれだけの恨みをこの身に受けようと
僕はまだ
生きなきゃならないんだ。

僕だけじゃない。
アスランも、カガリも、ラクスも
みんなみんな無事を祈ってくれる人がいるから、まだ死ねない。


「アスラン」
「キラ」

視線を合わせて、頷き合う。
握り締めた手はそのままに、僕らはゆっくりと歩き出した。


振り返ればキリがないけど
前にはきっとそれ以上のものが広がっていると

僕らは信じているから―――……


聞こえてくる叫びは確かな呼び声になり
拡散した亡霊は戦友たちへとその姿を変える。

過去の殺戮は消えることもなく、この先もずっと僕と歩くけれど


ほら

今も響く足音がひとつ、ふたつ。


歩んでいくうちに増えて

新しい光になる。








Finish.
――――――
Nightmare.  ◆英語:悪夢、悪夢のような体験




  フォーナイトメアーズ―――4つの悪夢。
  戦争と殺戮と憎悪と孤独といったところでしょうか。
  タイトルについては、手品の名前から来ています……。。
  背景の素材は NeckDoll 様より。


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