辛い時いつも側にいてくれた

そこにどんな思惑が絡んでいようと
彼女は僕の側にいてくれた

彼女は

ボクの救いだった―――……






 The drop of pathos.  








当初。彼女との関係は良いとは言い難いものだった。

良いとは言えないというよりも、最悪と言った表現の方が正しいのかもしれない。
ヘリオポリスの一件以来、彼女はコーディネイターを毛嫌いするようになった。
もっともそれは彼女に限った事ではなく、ヘリオポリス崩壊に巻き込まれたナチュラル全体にもいえることだった。
多かれ少なかれ、皆コーディネイターに恨みを抱いていたはずだ。
そして、閉じた戦艦の中、乗り合わせたコーディネイターは僕だけで
自然とその矛先は僕に向けられるようになった。
すれ違いざまに蹴飛ばされたり
罵声を浴びせられたり
あからさまに蔑むような目で見られるようなことだって珍しい事じゃなかった。

そんな状況の中、今までコーディネイターに対して嫌悪感を露にしていたフレイが急に僕に優しくなった。
その時、僕はうすうすその理由に気付きながらも敢えて気付かないフリをした。
何が正しくて、何が間違っているのか
それすらも分からなくなるほどに、ボロボロだった。

アスランと戦いたくなくて
でもこの艦には友達が乗っていて。

矛盾する考えに苦しみ
命の重みに押しつぶされそうになった時、差し伸べられた手に僕は縋った。

辛い、と。
助けてほしいと僕が発した悲鳴。
誰にも届くはずのないその声に彼女は気付いたのだ。

本当は少し、嬉しかった。
それだけは、何の偽りもない事実。

そして、そこから僕らの関係は始まった。 利用して、利用されて。
一見危うくも思えるその結びつきはしかし“友人”といった不安定な関係よりもずっと安定したものだった。

そう。利用したというなら、それは僕も同じこと。
優しくしてくれる人がほしかった。
傷付いた心を癒して、包み込んでくれる存在。

彼女はそれを演じ、僕もまた彼女の思うとおりの僕でいることで応えた。

僕は
アスランと敵対して、同胞を殺し、アークエンジェルを守って。

苦しんで苦しんで

彼女は
そんな僕を包んで癒して。



二人の間にあった思いは、純粋なそれではなかったのかもしれない。


けれど、彼女は本当は優しい人だ。
戦時下、友人とも上手くやっていけない僕を受け止めてくれた、たったひとりの人。

守れなかったと泣いて
苦しいと甘えた

それは幼くとも愛という形で

思いは時間が経つにつれて消え去り、痛みだけが残ったけれど
それでも彼女はボクの大切な人だ。

守らなくちゃと思った。
否、守りたかった。




被弾したストライクに動力が戻る。
僕はバーニアを吹かし、レイダーを追いかけた。


「フレイ―――!!」

機体を壊され、頭の部分を飛ばされて
でも、そんなことは全然気にならなかった。
必死で手を伸ばすけれどそれは僅かに届かず、ポッドはレイダーに回収された。

「フレイ! フレイッ!!」
「キラッ! そんな状態で敵の中に突っ込む気か!!」
アスランが叫ぶ僕を止めようとする。
確かに僕のしている事は無茶苦茶なのかもしれない。
けれど、それでも………
「離せッ! 僕は行かなくちゃ!! 助けなくちゃ!!!」
必死で抵抗したけれど、拘束する力は想ったよりも強く、振りほどけない。
無傷ではないとはいえ損傷の少ない機体と、ボロボロになった僕の機体。
力の差は歴然だった。
そんな事をしているうちに、ポッドがドミニオンへと回収されるのが見えた。

「フレイ!!!」

一気に力が抜けて、操縦桿を手放す。
僕はジャスティスに引きずられるようにしてアークエンジェルへと戻った。




「キラ」

パイロットの待機室。
大丈夫かと問うて来るアスランの言葉は、ほとんど耳に入っていなかった。
半ば条件反射的に言葉を返して、それは彼にも伝わったのだろう。
アスランは訝しげな表情でこちらを見て、でもそれ以上は何も言わなかった。

申し訳なく思いながらも僕はそんなアスランの気遣いに感謝した。


シュンという扉の開閉音と共にアスランの背後でピンクの髪が揺れた。
「キラ……」
ラクスも心配そうな表情で僕を見ていた。

どうして皆そんなに心配性かなぁ……。

大丈夫って。
そう言おうとしたその時に、限界だった僕の意識は途切れた。




次に気が付いたのは白いペットの上。
多分、アスランが運んでくれたのだろう。
アスランとラクス、そこにカガリも加わって………

「あ………!」
僕はカガリの手元にあるものを見て凍りついた。
あの写真立て。
何となくそのままにはして置けなくて、結局メンデルの研究所から持ち出してしまったもの。
それが今、彼女の手に納まっていた。

自分でも気付かないうちにカタカタと僕の体が震えていて
僕の様子に気付いたアスランが僕に目で合図してカガリを連れ出してくれなければ、僕は彼女に何を言っていたか分からない。

ありがとう、アスラン。
そう視線で返して、アスランとカガリが出て行くのを見送った。

メンデルで聞いたこと、あんな事が本当にあったのだとしても
僕はカガリにそれを言う必要はない。

カガリのお父さんはウズミさんで
僕の両親もまた、ちゃんと別に居るのだから。




「キラ……」
気遣う声に顔を上げる。
ラクスを見ても、浮かぶのはやっぱり彼女の面影。

ラクスは優しかった。
泣いてもいいと言ってくれたけれど、それでも僕の心が癒えることはなかった。



ラクスが部屋を出てしばらく。
僕はベットに寝転びながら外の景色に目を向けた。
ドミニオンが去った―――彼女がいるであろう方向には、今はただいくつもの星が輝いている。


「フレイ……」


また、守れなかった

守りたいと思うたび
守ろうとするたびにこの手から零れ落ちて
拾い上げることのできないもの

ボクが傷つけた
守ってあげられなかった人だから

……彼女には幸せでいてほしかったんだ


もともと彼女は綺麗な人だったけれど、笑った顔はひときわ綺麗で
優しい表情もまた―――……



「ごめん」

目が熱い。
頬を涙が伝い落ちるのが感じられた。
零れ落ちる大量の雫。 それを止めるために僕は強く目を閉じた。

「ごめん……っ! ボクっ、また……」

その時、不意に。
頬に温かいものが触れて、そっと水滴を取り去られた。

驚いてその涙が止まると
今度は唇へとその感触が移る。
不快ではない。
安心する。
その感触に身をゆだねて、僕はその行為を受け入れた。

ついばむように何度も繰り返し口付けられるうちに僕は相手に縋りついていた。

変なの……。
眠くもないのに、瞼が持ち上がらない。
仕方なく僕は口を開いた。

「誰……?」

問いかける声が震えていた。 そうして僕はやっと気付く。
恐れていたのだ。
目を開けて、視界に入るのが望む人物ではなかった時のことを僕は恐れていた。

「俺だよ」

懐かしい声がして、もう一度口付けを落とされる。

「アス……?」

「他に誰がいるっていうんだ」

苦笑する気配がして、体を抱き起こされた。
ゆっくりと目を開くと、曇った視界に映る懐かしい面影。

「アスラン……」

僕は甘えるように彼の胸に顔を埋め、そっと目を閉じた。

「…キラ……」

心配そうな声に慌てて顔を上げると、やっぱりそこには心配そうな顔。
こうやって、言外に何かあったのかと問うてくるのがアスランの癖。

変わらない。

昔から優しい幼馴染のその様子に苦笑しながら僕はフルフルと首を振る。

彼を心配させてはいけない。
彼の負担を増やすようなことは避けたかった。

だから僕は精一杯に笑顔を作って答えた。

「なんでもないよ」

「…………そう、か」

問い詰めることはしない、優しい声。
そっと髪を梳く動作が気持ちよくて頬を寄せた。

「でも、大丈夫……―――じゃないよな」

「アスラン」

顔をあげたアスランは悲しげに笑っていた。

「お前、なんか……ボロボロだ」

「君だって」

同じじゃないか。

その言葉にアスランは驚いて、それから辛そうに目を伏せた。
整った顔立ちが今は歪んでいる。
やがて、その表情がふっと緩んで

「そう…だな……」

そっと抱きしめられる。
一瞬。ほんの一瞬躊躇ってから、僕はアスランの心地よい腕を受け入れた。

「悲しいね。一体僕らはいつまで―――……」


守りたかったもの

守れなかったもの

たくさんある


傷付け、傷付いて


この悲しみを止める術はあるのだろうか




答えは、まだ遠い―――……






「キラ?…どうした?」

僕が身じろぎするのを感じて、アスランが問いかけてきた。

「あは・・…。なんか、涙腺緩い…みたいだ」

視界が滲んでくる。
また涙が出そうになった。

泣かないって決めたのに。さっきもいっぱい泣いたのに。

「…アスら…ッ」

気が付いたら涙が止まらなくなっていた。

「キラ……キラ、泣いてるのか…?」
「アスラン…アスランッ…アスランッ!!」
「キラ・・……」

腕の中で縋るように涙を流す僕にアスランは何も言わなかった。
戸惑ったのは最初だけで、すぐにいつもの優しい微笑を浮かべると
アスランは、ただずっと僕の背中を宥めるように撫で続けた。








Finish.
――――――
The drop of pathos.  ◆英語:悲しみの雫




キラフレ?
いえいえ。キラフレと見せかけてアスキラ。
どうして最後はいっつもアスキラになだれ込むのか……(遠い目。

あとがきですがこれより下の文は、ラクス好きな方は読まないでください。
気分を害されること間違い無しです。

ちなみに、ウチのサイトはアンチフレイ派ではありません。
ノーマルも好きなんですけど、何故かキララクは許せませんでした。
変な色気使いやがってラクスめ〜!(そこかい)。と思ってました。
さらに言うと、ウチのサイトは(ノーマルでは)全員アスラク派です。
そして現在のユウの頭の中は フレイ > ラクス という微妙な構図です。
アンチフレイ派が多い中でこんなこと言っちゃってるよ。。。
でも、フレイ嬢。父が目の前で死んで、大人しく悲劇のヒロインしてたら一般の人たちからの高感度は上がるだろうけど、私的には嫌ですね。

カガリはそれなりに好きです。
憎めないタイプです。直線な性格が良し。
昔のラクス、好きだったのになぁ。。憧れというか、そんな感じ?
今のラクスは微妙ですね。服がおかしい口だけの人間は嫌いです。
正論を語る人は、汚いことに手を染めてはいけないのですよ。
説得力がなくなるから。
キレイ事って分かってても、心のキレイな人が言ってたら憧れますでしょう?
自分ではもう手も触れられないような綺麗なもの。
個人的希望としては彼女にはそんな感じていてほしかったかも。

そういえば、フリーダムって頭なくなってましたよね?
薬中トリオが思いっきり破壊してくれたけど、核で動いてる機体って下手に攻撃加えたら
逆にヤバいんではなかろうかと思うのは私だけですか?
あの宙域で大爆発とか……本気で笑えませんよ。種、終わるって。