アスラン・ザラの日常

--アスラン・ザラの葛藤--





ちがうっ!! あれはキラなんかじゃない!!



アスラン・ザラは、奪取した機体―――イージスの中で早くも現実逃避を始めていた。


状況を整理してみよう。
自分は先刻、ガンダム奪取のため、オーブの衛星ヘリオポリスに攻め込んだ。

…そこまではいい。
問題はそれからだ。機体が置かれている格納庫まで辿り着き、そこで見た人物―――。

茶色の髪、頼りなげに揺れる紫の瞳。
何より決定的なのは「アスラン」と呼ぶその声。
それは、数年前に両親の理不尽な思惑で別れ別れになってしまった、恋人のキラ・ヤマトに違いなかった。

と、確かに思ったのだ。その時は。

しかし、今になってみると、本当にそうだったかというのは怪しいところ。


そもそも、あれは少し大きすぎやしないだろうか?


・・・・・。


・・・・・・・・・・。


そうだ! 僕のキラはもっと、ちっちゃくて、可愛くて、いつも頼りなさげで、とろけそうな甘い声で僕の名を呼んでいたはずだ!!

決してあんなに大きいはずがない。
声だって天使のように高くて綺麗だったはず!!
…アイツも確かにちょっと可愛い顔をしていたし、あの声はあの声で魅力的ではあったような気もするけれど……。

で、でも! やっぱり僕のキラほどじゃない!!

うん!そういうわけで、やっぱり人違いだな!!
僕のキラがあんな裏切り者の中立国にいること自体、おかしい話だし!
きっと、キラを思うあまり、視覚がおかしくなっていたんだろう。

そう思って納得させることにした。




僕らが再会の約束をしたのは、あの月の桜の下。
戦争が終わって宇宙に平和が訪れたら、桜の咲く頃にあの場所で会おうって約束したんだ。

だから、まだ時≠カゃない。

そう。再会は降りしきる桜の中、可愛いキラが「アスラン! 会いたかったよ!!」とか言いながら飛びついてくるに違いないんだ。






それから、しばらく。

―――アスランの期待は大きく外れることとなる。




閃く光の中、分厚い金属に挟まれて。






再会は、確かに果たされた。





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時がゆけば 幼い君も 大人になると 気付かないまま (なごり雪より)