Pearl

〜真珠についての序文〜

真珠との出会い

真珠粒

 白くて丸くてほかほかきらきらふわふわしてると、あたしは憐憫の情に絆される。 真珠の色は、基本的に白くて、厳密に言えば乳白色をしてる。 形は、丸いか丸みを帯びてる。 生物所縁なせいか、他の宝石と比べると温かみを感じるし、 その光沢によって宝石と称されてるだけあって、さすがに硬さはあるけど、それでも他の宝石に比べたら、傷つきやすい脆弱なカンジがする。 そんな真珠の持つ特徴の総てが、あたしが真珠に惹かれてる理由。

 琥珀を好きになったのは大人になってからだけど、真珠は物心ついた時にはもう好きだった。

 和服が多かった祖母や母親が身に着けてた、珊瑚の指輪、翡翠の簪、鼈甲の櫛、真珠の帯留めといった、 日本古来の宝石ばかりを目の当たりにする中で、真珠の輝きは格別に美しく思えた。

最初の真珠

パール・ビーズ

 幼少の砌よりビーズ手芸に熱中してて、小学生の時にはパール・ビーズを与えてもらった。 実物イメージ(VODKAのミニ・ボトルに入ってるのがあたしらしい)→
子供の目には本物とは遜色がない。 ネックレスの出来映えには、そのリアリティに驚嘆した。 しかも、それは母親が礼装する度に大活躍してたんだから、事実、子供のごっこ遊びの域を超えてた。

 もちろん、手芸用のパール・ビーズでは、使用頻度を増すうちにパール様の塗装がはげて、中のプラスチックが少しづつ露わになってくる。 そうなってみると、やっぱり本物がいいと思い立つ。 大人になって、他の宝石を身に着けるくらいなら、真珠にしておこう ・・・女子らしくおめかしすることに、ものすごく消極的な考えを持ってたので、あえて消去法(笑)

 実際、成人後に真珠のイヤリングを入手したけど、未使用のまま今に至ってたり・・・(爆)

『パール・パーティー』

パール・パーティー

 1番好きな漫画家である、名香智子先生の作品の題材に、真珠が取り上げられたのは嬉しかった。 実物イメージ→
大まかなストーリーは、
主人公の美女が
全てを失って真珠に出会い
真珠が縁で結婚
でも、それでハッピーエンドではなくて
真珠と関わりながら
母として女として力強く生きてく
・・・といったカンジ。 この主人公が、真珠にとっての宝飾品としての価値よりも、貝という生物によって齎された自然の産物である部分に魅了される気持ちに共感できた。

 あたしは真珠を見て愛でるのは好きだけど、所有欲が掻き立てられることはない。 真珠に限ったことじゃなくて、宝石全般に言えるというか、美しいもの総てに言えるかな。 それは、所有してていつでも愛でることができる安心感より、縁あって出会える時までの緊迫感の方が好きだからかもしれない。 それに、何かに執着したり固執したりしてしまう自分の愚かさを発揮したくないからなのかもしれない。 ある意味、人間に対してもそんな想いがあるのかも・・・。

 さて、真珠が貝からできることは知ってても、貝の中でどうやって真珠が形成されるのかは朧気だと思うんだよね。

 世界各地の神話などに登場してることから、古来より人類に尊ばれてきた宝石だったことは確か。

 中国明時代の書物では「月から精気を得て貝が孕む」とされてるし、ローマ時代の書物には「夜露を吸った貝に宿る」とあって、 しかも雫の状態や天候如何でどんな真珠ができるかまで事細かに解説してあったりする。

 洋の東西を違えず、真珠は貝が人目につかないトコロでひっそりと生み出すらしいと思われてて、それが夜なんじゃないかと考えて、 夜をイメージして真っ先に浮かぶ月や、その形状から連想される夜露が、真珠の素に関与してるんじゃないかと思いついたんだろうね。

 真珠が人魚の涙だとゆー伝承もあるけど、これって琥珀にもあった伝説だ(笑) 古代の人が海から齎された宝石に対して必ず持つ嫌疑なんだろうね(爆)

 正しくは、貝殻の縁に付着してる俗にミミとかヒモとか呼ばれてる外套膜組織の外側にある上皮細胞の一部が、 寄生虫の浸入なんかの刺激によって外套膜組織内に入ると、そこに真珠袋(パール・サック)ができて、年月を経るとこの中に真珠ができるんである。

 こうした自然に生成される真珠のからくりが近代になって判明して、このからくりを利用して人為的に作られたのが養殖真珠。 養殖真珠についての詳細はあとで述べるとして、今日では真珠と言えばそれは養殖真珠で、本来の自然に生成される真珠こそあえて天然真珠と呼ぶほどに、 市場に占める養殖真珠の割合は高くなってるんだね。

 更に模造真珠ってのがあるんだけど、ビーズ手芸に使うような格安の真珠もどきは、「プラスチック玉にパール様の塗装を施しただけのもの」で、 もう少しいいものになると、「核にパール・エッセンスを層状に塗布したもの」。 核には、養殖真珠には貝核が用いられるけど、模造真珠には貝核以外にも合成樹脂核やガラス核も用いられるようだね。 パール・エッセンスには、魚の鱗の粉末だの、鉛の結晶だのが使われてるらしい。

養殖真珠

真珠の養殖

 真珠の養殖業の歴史は、有史以来と思われる天然真珠の歴史に比べると僅かな期間である。 本格的に始まったのは、20世紀になってからだからね。 日本の御木本幸吉が1888年に着手し始めて、1893年に半円真珠の養殖に初めて成功して、真円真珠の養殖の成功は1905年だそうだよ。 それから試行錯誤を繰り返しながら、少しづつ技術が確立してって今に至るんだけど、世界中のほとんどの真珠養殖業は、 この日本の技術を投入して行われてるんだね。 それ以外では、それとは全く別に独自の真珠養殖技術を13世紀には開発してて、今なお引き継がれてるのが中国。 中国産の真珠が淡水真珠とか湖水真珠とか呼ばれてるのは、その生産行程の違いから特殊なものができるからなんだね。 以下、日本が誇る真珠養殖技術の行程。

手順1・・・稚貝を養殖して母貝に育てる

 当初は天然の貝を採取したり、天然の貝が受精しやすいように仕向けて捕獲したりしてたけど、今では専ら水槽で人工授精して、 生まれた稚貝を海で2〜3年かけて生育する

手順2・・・母貝に核入れする

 核入れってのは、要は移植手術で、施すには30秒ほどの時間を要するとか。 また、手術前には真水に浸漬したりして、貝を麻酔状態にしたり、手術後には養生工程もあるそうだ。

 天然真珠に習うと、「外套膜を切開して、その上皮細胞の切片をその中に埋め込む」のが正しいんだけど、 これだと真珠層が巻くのに物凄く時間がかかることが予想できるし、時間をかければ貝が死ぬ確率も高くなるから、短期間でそれなりの大きさにするために、 核を入れる方法を思いついたんだろうね。

 実際には、2mm〜3mm大の上皮細胞の「ピース:切片」を数個と、貝殻(真珠層と成分は同じ)で作った球状の核を生殖巣に入れる。 そうすると、核を覆うように「パール・サック:真珠袋」が形成されてって、中の核には真珠層が巻いてくる。

 半円真珠は核を貝殻の裏に貼り付けて作ってて、中国産の真珠は核を入れずにピースだけで作ってるんだね。

 核入れで、真珠ができるか、貝が死ぬかの運命は決まる。 真珠ができる確率は60%〜70%で、人間の手術の成功率にしたら、極めて低くはないけど高いとは言えないね。

 核入れした後は、1ヶ月ほど海岸縁で吊るしておいてから、1〜2年沖で放置する。

手順3・・・真珠を取り出す

 4〜5年の歳月を経て育てた真珠を海から引き揚げて、貝をこじ開けて真珠を取り出す。

 その中でも花珠(ハナダマ)と呼ばれるような高品質のものとなると、本トに僅かしかできない。

 いや〜、こうして簡単な文章にしてても大変だね。 1粒の真珠に4〜5年・・・。 養殖と言えども、生き物相手で自然環境に左右されるからリスクは高いし、ほとんど機械に頼れない手作業の工程は、人手が要るから人件費も膨大だし、 どう見積もってもオイシイ商売じゃないね。
 逆に、貝の方からしたらどうなんだろう? そもそも真珠ってのは、貝にできる結石なんじゃないのか?! 貝にとっては、ありがたいものじゃないと思うんだよ。 それなのに無理矢理移植手術されて、手術が失敗したら死んじゃうし、成功してめでたく結石ができたら、 結石だけ取り出されて死んじゃう・・・(1つの貝に何度か核入れするらしいけど)。 生態系に組み込まれてる生物の死に対して、無責任に同情するのはどうかと思うけど、養殖真珠に使われてる貝には同情を禁じえないんだよね。

〜真珠の薀蓄〜

語源:真珠 / Pearl

 西洋では、天然真珠の形が似てることから「pear:西洋梨」が語源。

 古事記では、綿津見神:ワタツミノカミの娘の豊玉毘売:トヨタマビメが、夫の火遠理命:ホオリノミことのことを「白玉の」と形容してる歌があるけど、 白玉とゆーのは正しく真珠で、妻に真珠のように美しいと形容された火遠理命は、たいそうな美形であったらしい (こうして天皇家は始まった?:ニニギとシラタマ・・・その2〜 参照)。 真珠と言われるようになったのは、近代になってからだと思うんだけど、明確にいつからなのかは定かではない・・・(-_-;)

成分:炭酸カルシウム90%以上、コンキリオン5%以上、水・その他

 主成分:CaCO3(貝殻と同じ)。
 炭酸カルシウムが層を成してるアラゴナイトの間隙に蛋白質のコンキリオンがあって、ノリの役目を担ってる。

比重:2.72〜2.78

 宝石の中では軽い方だけど、琥珀よりは重い。

モース硬度:3.5〜4

 宝石の中では軟らかい方だけど、琥珀よりは硬い。

ケア:使用後の一手間

 クレオパトラがイヤリングの真珠を酢に溶かして飲んだとゆー伝説があるから、これを真に受けると酸にかなり弱いだろうって予想できる。 確かに主成分の炭酸カルシウムは強酸には弱いけど、人間が食用にする酢で溶けるほどじゃない。 逆に言えば、真珠を溶かすほどの強酸は蛋白質も溶かすから、飲用できるはずもない。 それでも、汗に含まれる微量な酸は真珠の表面を原子単位で劣化させてしまうくらいのダメージは与えるだろうね。 目に見えないダメージも繰り返し受けてたら、いずれ目に見えるダメージに・・・光沢を損なう結果に繋がる。

 なので、使用後に必ず柔らかい布で拭く。 もちろん、酸だけでなく油分(汚れ)や水分を拭き取れば、劣化が防げるのは言うまでもないね。

 そして保管には、専用のケースにしまって、高温・多湿・乾燥を避ける。

 礼装時に着用する印象が強いけど、実際、肌身離さずつけておくと劣化は免れないんだね(笑) やっぱ、手芸用のパール・ビーズがいいね(爆)

 ネックレスの場合は、使ってなくても珠よりも糸の方が劣化してしまう場合がある。 これは防ぎようがないんで、そうなったら糸を替えてもらわないとね。

誕生石:6月

 健康、長寿、富の象徴。 美の女神ヴィーナス:アフロディテが司る。 ムーンストーンも6月の誕生石で、月の女神ダイアナ:アルテミスが司ってる。 女神、月・・・とイメージ的に似てるね。

分類:母貝(の生息地)による

 アコヤ貝(日本):4mm〜7mm玉がよく採れる。最大11mm(は稀少価値で9mmでも珍しい)。 透明感のある光沢が特徴。

 シロチョウ貝(オーストラリア産50%、インドネシア産50%):母貝自体が大きくて、真珠が取れる貝の中で最大。 よって、採取される真珠も9mm〜18mm(13mm〜15mmが多い)とでかい。 貝殻の中の淵部分がゴールドのものからできる金色のゴールデンパールが特徴的。 一般的な南洋パールは、貝殻の中の淵部分がシルバーのものからできる。 貝ボタンは、この貝殻から作られる。

 クロチョウ貝(タヒチ産がほとんど):母貝が比較的大きいので、9mm〜16mm(9mm〜14mmが多い)のものが採られる。 貝殻の中の淵部分が黒色なので黒真珠ができる。

 ヒレイケチョウ貝(中国産):淡水真珠と呼ばれてるもので大きさや形は様々。 核を入れずに作るので、真珠層だけから成る。

 マベ貝(日本では沖縄、インドネシア、亜熱帯地方):半円真珠(真円のものの養殖はまだ成功してない)。

 アワビ貝:実は半円真珠が取れるけど、食用の方がいい商売になるから、真珠を採取するために養殖する事業家がいるとは思えないが。

分類:色(実体色・干渉色・透けて見える色)による

 実体色:真珠の中の蛋白質の色。 アコヤやシロチョウでは、白・クリーム〜イエロー、コクチョウではシルバー〜グレー。

 干渉色:真珠の中の炭酸カルシウムの結晶の厚み由来の玉虫色で、厚いとグリーン、薄いとピンク。

 透けて見える色:真珠層が透けて見える核の色。

分類:形による

真珠の形による分類

 左より、ラウンド・ドロップ・ボタン・オーバル・バロック・サークル・ケシ

製品基準:選別基準

 真珠は、他の宝石と違って研磨せずに製品化するため、様々な条件の下に1粒1粒選別するワケだね。

 まず、形を真円:ラウンドに近いものとそうでないもの、真円は篩で大きさ毎に、そして色分け、 光沢と巻き(真珠層の厚さ)の良し悪し、傷の有無と評価するポイントがたくさんあるんだね。

 以上が総て一定の水準を越えたものが花珠(ハナダマ)。

主要産地:日本、オーストラリア、中国、南太平洋、ペルシャ湾

 主要産地とゆーよりは、養殖真珠事業地。 それぞれの特徴は、前述の母貝による分類の項参照。

真珠にまつわる話

 インドの神話には、「大気は虹を、火は流星を、大地はルビーを、海は真珠を神に供えて、虹は神の後光となり、 流星は神の灯火となり、ルビーは神の額を飾り、真珠は神の心を飾った」とゆーくだりがある。

 ダイヤモンドは宝石の王様と呼ばれてて、真珠は宝石の女王と呼ばれてる。

 婚約指輪にはダイヤモンドや誕生石が用いられてるけど、皇室では真珠。

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