身土不二
崔鎮浩
1997年11月15日発行 税込価格 \2,625
A6判 並製 270頁 ISBN4-88636-072-8 C0039
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序文
UR(ウルグァイ・ラウンド)問題は近頃の問題ではありません。これはすでに五十余年前の一九四八年一月に『関税と貿易に関する、般協定(GATT)』が調印された時から予想されたことで、近くは、一九八六年九月、南米ウルグァイで閣僚宣言が発表されてから木格化しました。われわれの国の農漁民の死活にかかるこのような深刻な問題に対して政府は組織的な研究と技術開発を通じて輸人農水産物の巾場開放に対処しなければならなかったにもかかわらず歴代政府は「農民の生命線である米だけは絶対に開放しない」と豪語してきましたが、ある日突然「農水産物の市場を開放せざるをえない」という一言で関係長官の引責だけで事を済まし、問題をうやむやにしてしまいました。われわれの農漁民たちは鶏追いし犬の屋根ばかりみつめるような立場に立たされてしまったわけです。
「死ぬか生きるかそれが問題だ」と叫んだハムレット(Hamlet)の絶叫が今や私たちのまわりに満ちていますが私たちは飯(食)が薬であるという昔のことわざのように食薬一体という東洋の食薬観と医食同源の原理をそのまま実践しています。ギリシャの医型ヒポクラテス(Hippocrates)も「飲食物でなおすことができない疾病は医師もなおせない。食が正しいと疾病もなおる」といって食事療法を提唱しました。漢方の医書である《東医宝鑑》でも「病気になると病の源泉をさがしてそれに合う飲食を摂って病気をなおすようにすること、それでも病気がなおらないと、強い薬を施すこと」と書いています。
また《黄帝内経》にも「昔の人は天時運行の法則によって自然の摂理に合う生沽をしたために天寿をまっとうすることができた」といっています。食事に節度を守り、睡眠を規則的にしながら無理を避けることを教えています。ここでいう食というのは外国からの輸入農水産物などをさすのではなく、私たちの土壌でわれわれの方法によって栽培した農水産物を材料にし、われわれの伝統方法にしたがって調理したわれわれの伝統飲食を食すると健康で長生きができるという、いわば身十不二の原理を示しております。
韓国と日本は地理的に見ると一衣帯水のような位骨にあり、またWTOの立場から米を含む自分たちの農水産物を守らなければならない同病相憐の関係に置かれています。筆者はWTO時代にわれわれの農漁民たちが生き残る方法を探るために、韓月両国の農漁村をくまなく見回りながらこの本を書きました。拙著《身土不二のはなし》の日本語版出版を契機として日本と韓国の市民運動の次元からも『両国の農漁民と農漁村回復運動』が活発になることを期待してやみません。韓国の農水産業の行政を遂行しておられる李孝桂農林部長官と趙忠済海洋水産部暑、そして実際に農漁民と苦楽を共にしながら『農漁村回復運動』を実践されている元賦農協中央会長、朴鐘植水協中央会長、宋燦源畜協中央会長の労苦に感謝致します。最後に、拙著の翻訳の労をとっていただいた韓国のソウル大学国文学科に学ばれた林湖先生と「両国の身土不二運動』に格別な関心をお持ちになって出版を引受けていただいた〈たまいらぼ出版〉の玉井禮一郎社主に深甚なるお礼の言葉を申し上げます。ありがとうございます。
一九九七年十月一日
著者 崔鎮浩
目次
第一章 どんな食べ物が身土不二食なのか
一.民族固有の伝統食が身土不二食だ
二.穀菜食の素食がスタミナ食だ
三.昔ながらの伝統の食生活が天寿の鍵である
四.主食の比重が大きい長寿村の食生活
五.健康・長寿食品に分類される醗酵茶
六.ヨーグルトのマツオニとケフィア
七.バイタリティが豊富な野菜と果物
八.在来種が長寿食品だ
九.三植主義が衣食住の基本だ
一〇.聖書の中に出てくる食生活の知恵
一一.宇宙の気が我々の健康を守る
一二.どんな酒が体に良いのか
一三.成人病は伝統食生活の崩壊が原因だ
一四.体によい水は六角水だ
一五.自然環境の破壊は死を招く
第二章 自国の農水産物を食べれば長生きできる
一.健康も人権だ
二.我々の食生活のもつ意味
三.人間の故郷は自然だ
四.栄養素は体内でどのような役割をするのか
五.一〇〇里以遠の農産物を食べなかった先祖たちの知恵
六.水が変わっただけで腹をこわす
七.風土病に苦しむ同胞たち
八.何をどのように食べればよいのか
九.移住したエスキモー人は成人病によくかかる
一〇.食生活が性格まで支配する
一一.身食土の原則を逸脱すれば早死にする
一二.有機農法で生態系を救う
一三.動物の食性から見た人間の食生活
一四.世界は結局穀菜食文化圏が支配する
一五.URの足かせから開放されなければならない
一六.嫌悪食品(悪食)では長生きできない
一七.世界の長寿食品にはこのようなものがある
一八.ハギ里に住む二百歳長寿兄弟の長寿の秘訣
第三章 輸入食品を食べてはいけない理由
一.輸入食品は我々の体質に合わない
二.我々の食糧安保は誰が守るのか
三.自然生態系の破壊は災いをもたらす
四.米を作らなければ生態系は報復するだろう
●生態系は破壊されただけ災いで仕返しする
●このひどい失業問題をどう解決すべきか
●表土の流失は荒廃化しかない
●我々が呼吸する酸素の供給も不可能になる
●水道、地下水も供給できない
●害虫も天敵も自滅するしかない
●「身土不二」という歌が禁止になるかもしれない
五.発ガン性農薬が検出された輸入農産物
●輸入農産物の検疫に問題がある
●輸入アメリカ米には米食い虫も住めない
●タイ米にも発ガン性農薬ピリミホスメチルを散布する
●全量輸人している輸人小麦にも発ガン性農薬とは……
●輸入豆の茄で汁を飲んだ豚が死ぬ……
六.輸入果物にも発ガン性農薬を散布する
●ベトナム戦争の悪夢である枯葉剤が輸入レモンに登場する
●輸人オレンジとブドウにも発ガン性農薬が
●発ガン性農薬ベノミルでバナナを洗浄する
●それではリンゴとグレープフルーツ、パイナップルは安全か
七.今は北韓の同胞の食糧問題も心配する時期である
第四章 われわれもURを克服できる
一.韓国の農漁民はなぜ憤慨しているのか
●学べなかったハン(恨)を昇華させた知恵
●「米だけは絶対に開放しない」と大声をだした末に
●韓国の農漁民はなぜ憤慨しているのか
●「死人の手も借りたい」農繁期に行楽とは
●農水畜協は本当に農漁民のための団体だったのか
●大企業の道徳性には何の問題もないのか
●秋に収穫する穀物の収買価は交渉の対象にはならない
二.日本が経済大国に発展することができた原動力
●地震と台風という試練が発展の原動力だ
●封建社会の「匠人精神」が発展の牽引車である
●孝より忠を重んじる日本人の国家観
●「恥の文化」が不正・腐敗を防止した
●節約精神が富を蓄積した
三.セマウル精神だけがURの危機を克服できる
四.これからは地方自治制だけが生き残る道だ
五.一村一品運動でURの危機を克服できる
六.田舎の長として生きたい
七.農水畜協の役職員たちはまずネクタイをはずしてみよう
●農漁民への親近感と信頼をまず取り戻そう
●中央の権限を縮小して単位組合を活性化しよう
●地域的特性化事業を指定して積極的に支援しよう
●新しい技術開発のための支授と補償制度を導人しよう
●優秀研究人力の確保と育成に集中投資しよう
●韓国の農水畜産物のモッコリ運動を大々的に展開しよう
●農漁民の生活権を剥奪する.干拓事業は中止されなければならない
八.西山農場に入った現代のチョン・ジュヨン(鄭周永)名誉会長に期待する
九.流通構造の改善で生産者と消費者を保護しよう
一〇.輸入農水畜産物の原産地表示で消費者を保護しよう
一一.赤い腕章と竹槍だけでは問題は解決しない
一二.大企業に農漁村発展税を賦課しよう
一三.今度は主婦が立ち上がる番だ
●主婦は高等教育を受けた高級人力
●URの克服は主婦の手に掛かっている
●「国籍のない子供」に育てるわけにはいかない
●ボランティア活動でURを克服できる
一四.農協中央会長のURに対する新しい挑戦
第五章 韓日農漁村の現場取材
一.都市型UR克服のモデル――プサン市の新しい挑戦
二.機械化営農で米の生産費削減に成功したチュガム農場
三.「韓国小麦を救う運動」に共に参加を
四.品質のブランド化でURを克服したトンウォン(東遠)産業チェジュ養殖
五.最先端施設園芸でURを克服した「グリーンハウス」の青年たち
六.リンゴの輸出を先導する株式会社「協同青果協業団地」
七.品質の高級化でURを乗り越えたアンドン黄牛村
八.先端技術で養豚の企業家に成功したイチョンのミウォン農場
九.技術養鶏で日本の市場攻略に成功したイクサンのハリム農場
一〇.産直取引で無公害有機農法米を普及する韓国愛農会
一一.市長・郡守たちも韓国の農水産物の販売促進に積極的に着手した
一二.韓国の農産物の輸出でURに挑戦するクァンジュのナミャン農産
一三.合鴨農法の創始者である福岡県の古野氏
一四.日本一の長寿村桐原の新しいアイディア
一五.「やればできる」という信念ひとつでURに挑戦するチェヤン(祭洋)水産
一六.巡回・収集販売で農産物の適正価格の獲得に成功したトゥンネ農協
著者 崔鎮浩(チエ・ジンホ)
慶北大学校師範大学化学科を卒業し、釜山水産大学と慶煕大大学院(理学博士)を修了した。日本の富山医科薬科大学の客員研究員と韓国人参煙草研究所の先任研究員を歴任し、アメリカのテキサス大学校医科大学の交換教授を務めた。現在、釜慶大食品生命科学科教授であり、韓国老化学会会長、韓国生命科学会副会長、韓国SAM研究会会長、「モッコリを考える集い」常任共同代表である。
著述は、「老化と長寿」関連の研究論文が二〇〇余編あり、専攻関連書籍に『有機化学』『生化学』『特殊栄養学』『増訂生化学』『改訂特殊栄養学』『生活周期栄養学』などがある。
訳書には『基礎生化学」『世界の長寿食』がある。
また、老化・長寿関連書籍には、『高麗人参の神秘』『水産食品を食べると長生きする」『平壌医大リ・ジヨンボク教授の長寿の話』『酒と医学』『身土不二の話」『水産食品を食べると頭脳がよくなる』『健康100歳:ノリ・ワカメを好む』『健康100歳:カキ・アワビを好む』『生老病死の知恵』などがあり、釜山MBC・釜山日報・月刊朝鮮の健康長寿コラムに連載したこともある。
韓国食品科学会学術賞、韓国栄養食糧学会学術賞、大韓民国国民褒章などを受賞。
訳者 林湖(イム・ホ)
神奈川県に生まれる。高校を卒業後、韓国のソウルに渡り、現在はソウル大学校国語国文学科を休学中である。
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