2003年までの活動状況
常滑やきもの散歩道をベースに、再生・活用によるまちの活性化をめざす
愛知建築士会報
「愛知の建築」
2004年4月号掲載予定
1 活動の始まり
5年ほど前のある日、メンバーの一人、Nさんが中部国際空港関連の仕事で常滑にやってきた。やきもの散歩道を歩いていると、ある製陶工場の脇で老婦人と出会った。「この工場も廃業することとなったが、その後の使い道はないものか。」そんなつぶやきに心を打たれたNさんが、さっそく知り合いの市役所職員や職場の同僚、友人等に声をかけ、地元で「散歩道の会」の活動を続けてきたメンバーも集まって研究活動を始めたのが、タウンキーピングの会のそもそもの始まり。
最初はそれぞれのメンバーの得意分野からやきもの散歩道の再生・活性化に参考になると思われるテーマを発表しあい、意見交換を行った。メンバーは、Nさんのような都市計画コンサルタントから経営コンサルタント、建築士、公務員、製陶業、ギャラリー・飲食店経営に至るまで、様々な分野の人が集まっている。常滑やきもの散歩道をただ保存したいというのではなく、空港開港というインパクトに合わせて、散歩道独特の歴史・文化・景観等を生かした地域の活性化を図りたい。そんな思いが結集した。
2 常滑やきもの散歩道の現況
常滑はご存知のとおり、現在、2005年春の中部国際空港の開港に向けて、空港自体の建設に加え、関連する地域開発用地の整備やアクセス道路・アクセス鉄道の建設が急ピッチで進められている。中部国際空港は成田・関空に次ぐ第1種国際空港として日本の玄関口となることが期待されるが、乗降客の多くは空港島に直接アクセスする鉄道や道路を利用して、常滑の町を素通りしてしまうことが懸念される。
常滑は日本六古窯の一つに数えられる窯業の町であり、朱泥急須に代表される茶器や食器なども生産されているが、生産性は低く、空港ビルへの出店にも紆余曲折があったのはマスコミ報道のとおりである。またINAXを始めとするタイル、衛生陶器等の工業製品出荷額も低迷を続けている。
やきもの散歩道は、その地形が登り窯による常滑焼の製造に適していたことから、窯元や製陶工場が密集し、かつては300〜400本もの煙突が林立していたと伝えられる。現在では閉鎖される製陶所も多く、煙突の数も80本程度と言われるが、起伏のある地形の中に、コールタールで塗られた黒い板壁や土管や甕などの陶器を利用した擁壁や路面などがここかしこに見られ、独特の景観を形作っている。
この丘陵地を巡る散策路として1974年に「やきもの散歩道」が設定され、案内看板等が整備されるとともに、登り窯広場や廻船問屋瀧田家がオープンするなど、次第に整備され、近年は年間20万人以上の観光客が押し寄せるようになった。
3 まちづくり協定と散歩道心得
メンバーの一人が会長を勤める「散歩道の会」は、地域内の出店者や住民有志等で7年ほど前に結成され、定期的に勉強会を行うとともに、毎年秋にはやきもの散歩道フェスティバルを開催してきた。散歩道の良さを見直し、住民と出店者・観光客との交流を目的としてきたが、近年の観光客の増加の中で、住民の苦情や業者とのトラブル、また新建材による住宅建設など、様々な問題が発生してきた。
こうした状況を受けて、散歩道独特の景観を守るとともに、さらなる発展をめざして、住民や商工業者等が一致協力して取り組むための「まちづくり協定」をつくりたいという声があがってきた。ちょうどこうしたときに、愛知建築士会の平成13年度地域貢献活動助成の募集があり、応募申請したところ、運良く助成をいただけることとなった。
平成13年度は、まちづくり協定関係制度や全国事例の研究を行い、先進事例地区の視察やNPO団体との交流などを行いつつ、常滑らしいまちづくり協定案の作成に取り組んだ。
全国的にはマンション建設等に対抗する形で地域住民により協定が締結されることが多いが、やきもの散歩道では、地域住民だけでなく商業者や工場・工房、さらには来訪者にも目を向け、@建築物とその周りのしつらえ、だけでなく、A商工業を営む上でのルールやB来訪者のルールまで範疇としている点が特徴である。
協定の発足にあたっては、散歩道の会会員が地域住民や商工業者の間を廻り、理解と協力を得た。また、お年寄りや来訪者にも一目でわかるものがほしいという意見に応え、「やきもの散歩道心得」を作成し、登り窯広場に立て札として掲示するとともに、賛同者の店舗等で配布・掲示している。
4 その後の活動展開
まちづくり協定案は、翌年2002年10月の散歩道フェスティバルの日に美しいバイオリンの音とともに、散歩道心得の書かれた立て札とともに披露された。
助成決定時に審査委員長から言われた「NPO法人化に期待します」という言葉は、メンバーを勇気づけ、協定案づくりと平行してNPO法人設立の研究と準備を進め、2002年4月に認証申請、7月には認証設立を果たしている。
一方で、観光客が次第に増加するのに伴い、駐車場問題が深刻となってきた。会では2002年のGWに駐車場利用実態調査を実施。散歩道周辺での駐車場経営の可能性について検討を行い、市有地の無管理状態の問題などを指摘した。2003年秋から市と陶磁器組合で駐車場確保に向けた動きが始まったことは成果の一つであるが、まだまだ十分とは言えない。
また、まちづくり協定の披露と併せて名古屋市立大学の瀬口先生を迎えて講演会を開催。2003年2月には、市がやきもの散歩道景観構成要素調査を委託した日本福祉大学(当時)の佐々木先生を迎えて中間報告会を開催した。
こうした専門的な研究啓蒙活動に加え、一般市民や観光客にも楽しみながら、やきもの散歩道の良さと散歩道心得を理解してもらおうと、ソフトな活動にも取り組んでいる。
2003年のGWには「感動のまちかどフォトギャラリー」を開催した。これは、やきもの産地交流・連携推進協議会が実施した「セラミックフォトフェスタ」の入賞作品を散歩道内の店舗・ギャラリーに展示したもので、スタンプラリー形式とすることで人気を集めた。また同年10月には、散歩道フェスティバルの中で、空き工場を借りて、飾り陶板づくりとやきいもの販売を行っている。
5 今後の展望と課題
近年、窯業産業の低迷と工場主の高齢化が進む中で、中・大規模な製陶工場が廃業されるケースが増えてきた。現在、ある工場跡地では、建売住宅のための造成工事が進められている。一方で工場の形のまま転売され、ギャラリーや飲食店等に転用されるものもあれば、購入者が見つからず放置されている建物もある。狭い路地の奥にある住宅は、建築規制から建替えもままならず老朽化が進み、中には崩壊して無残な姿をさらしているものもある。また散歩道の景観を特徴付ける煙突も、その多くは取り壊され、残っているものも大地震時の崩壊が懸念される。これら空家対策、煙突保存等の問題は、これまで行ってきた啓発活動だけでなく、具体的な対策が求められており、今後、NPO法人として実務的な活動に取り組む必要がでてきている。
また、まちづくり協定も散歩道心得という形でアピールをしているが、宅地造成地での住宅建設や空家の増改築などが行われようとしている現在、実際に使える形でのガイドラインの提示が強く求められている。
さらに、中部国際空港の開港による影響がどういう形で現れるのか見当もつかないのが現状である。これらの問題に対して、様々な立場のものが集まっているという会の特長を生かし、散歩道の会と連携して、少しでもやきもの散歩道の保存・再生・活性化に寄与していきたいと考えている。