大手拓次
『藍色の蟇』

藍色の蟇

  
  象よ歩め


 
 赤い表紙の本から出て、
 
 皺だみた象よ、口のない大きな象よ、のろのろあゆめ、
 
 ふたりが死んだ床の上に。
 
 疲労ををどらせる麻酔の風車、
 
 お前が黄色い人間の皮をはいで
      しんごん
 深い真言の奥へ、のろのろと秋を背に負うて象よあゆめ
                くちばし
 同じ眠りへ生の嘴は動いて、
          おいき
 ふとつた老樹をつきくづす。
 
 鷲のやうにひろがる象の世界をもりそだてて、
  よる
 夜の噴煙のなかへすすめ、
               あけび   くび
 人生は垂れた通草の頸のやうにゆれる。